第8話おっぱいの話

「傑くん、おっぱいは好きかな?」



「え?」



 …聞き間違いだろうか。俺の耳が確かなら今真奈さんの口からおっぱいが飛び出した気がしたんだが。…いやおっぱいが飛び出したわけではないのだけれど。



「だから、おっぱいは好き?」



「…好きか嫌いかで言われたら…好きですね」



「そうなんだ。私も実はおっぱいが好きなんだ。傑くんのね」



 …なんか思っていた展開と違う。何俺のおっぱいって。そんな触れるぐらいのサイズ無いぞ俺のおっぱい。



「男の子のおっぱいって魅力的じゃない?」



「…そうなの紅蓮」



「知らん。触ったこと無いし」



「男の子のおっぱいはね、女の子のとは違う魅力があるんだよ?」



「例えば?」



「えろい」



「おんなじじゃないですか…」



 ドヤ顔で力説してるのに理由がいまいちだな…ドヤ顔ちょっとかわいい。



「違うよ傑くん。えろさにも違いはあるんだよ?ほら、こうしてみると…」



 俺のワイシャツのボタンが真奈さんによって外される。そして真奈さんは俺の背後に回ると、俺の胸を堂々と弄り始めた。真奈さんの細い指先が俺の胸板の上を滑り、そして優しく揉んでくる。なんか少しくすぐったい。



「…はぁ…はぁ…えっろ…」



「何一人で興奮し始めてるんですか。なんにもえろさが伝わって来ないんですけど」



「男の子でしか味わうことのできないこの感触…得も言えない高揚感…それと同時に込み上げてくる罪悪感…!最っ高ぉ…」



「…だってさ紅蓮」



「俺に振るな。…なぁ、真奈って変態なのか?」



「う〜ん、少し人より個性的なだけだよ」



「個性的…そうか。うん。そうだな」



「真奈さん、いい加減離してください。くすぐったいです」



「にゃー、まだ揉んでたいのに…」



 真奈さんの手首を優しく掴んで俺の胸から離す。

 真奈さんの残念そうな顔が目に入る。しゅんとした様子がどこか猫のように見えた。



「あとで好きなだけ揉ませてあげますよ。とりあえず今はおっぱいの話は終わりです」



「まだ終わりじゃないよ傑くん。鍛えてる男の子のおっぱいはね、女の人に引けを取らないぐらい柔らかいらしいよ?」



「へー…」



「…んぁ?なんだよ?」



「…紅蓮ってさ、普段戦ってるし結構ムキムキだよな」



「まぁ、そうだな」



 紅蓮の胸元のボタンをプチプチと開けていく。ちょうど手が入るぐらいの隙間ができたところで真奈さんと俺は紅蓮の胸元に手を突っ込んだ。



「おー…」



「結構柔らかいね…」



「お前ら堂々と人の胸を触るな…なんか結構恥ずかしいんだけど」



「なんか柔らかいっていうより…弾力があるっていうか」



「これはこれで傑くんとは違った良さがあるね…」



「話聞けよ変人共」



 男のおっぱいってここまで柔らかくなるんだ…トリビアだろこれ。神様はきっと人間を作る時に誰にでも平等におっぱいが柔らかくなるように作られたのか…



「さぁ傑くん、男の子のおっぱいを触ったところで私のおっぱいを触る気になったんじゃない?」



「わぁ〜急に思ってた展開が戻ってきた」



「私結構サイズには自信があるんだよね〜…ほれほれ」



 真奈さんは自分のおっぱいを抱き寄せるようにして俺を誘惑してくる。確かに真奈さんのサイズは人並以上はある。非常に魅力的だ。そもそも『真奈さんの』というだけで価値が数十倍に跳ね上がっている。俺以外の学園の男が見たらきっとすぐに飛びつくんだろうな。でも…



「俺貧乳派なんですよね」



「え?」



「?」



「今…なん…て…?」



「俺貧乳派なんですよね」



「あ…あ…ああああああああああああああああああああ」



「…おい、なんか真奈さん壊れ始めたぞ」



「大丈夫だよ。きっと少しだけキャパオーバーしてるだけ」



「なんで…なんで!」



 俺は貧乳派だ。もう一度言おう。貧乳派だ。あのすらっとしたスリムな体型。神が作ったとしか思えない機能美。なでおろす動作もなかなかに美しい。増やすことはできるが、減らすことはできない唯一無二の存在。圧倒的なステータス。すべてが美しいその存在に俺は惚れ込んでいる。



「ダメ…ダメだよ傑くん。傑くんは貧乳好きなんかじゃない。あんな薄っぺらいおっぱいなんて嫌いなんだよ」



「そうやって洗脳しようたって無駄ですよ。俺には確固たる貧乳への愛がありますからね」



「そんな…洗脳が効かない…?どうして…」



「…洗脳ってそんな簡単に出来るもんだったか?」



「真奈さんにはできるんだよ。真奈さんだからね」



「そっか…そうなんだ」



「ダメ…こんなの傑くんじゃない…傑くんは私のおっぱいを見たらすぐに飛びつかないといけないし、巨乳が好きじゃなきゃダメなの…」



 なんかすっごい否定されてる気がするんだけど…俺の存在って他人に定義されなきゃいけないほどあやふやだったのか。



「誰…私の傑くんをこんな風に変えたのは…?」



「あー、真奈さん。そんな怖い顔しないで。せっかくのかわいいお顔が台無しですよ」



「…えへへ〜そ、そっか〜」



「…なぁ傑」



「何?」



「もしかしてだけどさ。真奈さんって結構ちょろい?」



「違うよ紅蓮くん。ちょろいんじゃなくて傑くんへの愛に溢れてるだけだよ!」



「らしいよ」



「…そうなんだ」



「今から傑くんが巨乳好きになるように洗脳してあげるね!」



「うーん、ちょっとやめてほしいな…」






「…先生、あいつらって恥ずかしくないんですかね」



「俺に聞くな。知らんわそんなもん」



「…いいんですか注意しなくて」



「いいんだよ。あいつら地味に頭いいから。あと止めようとすると斑鳩がすっごい形相で睨んでくるんだよ」



「…そうなんだ」

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