エピローグ

第47話 見届ける者たち




「では、アルを処罰するつもりは無いと?」


「ええ。あくまでも悲劇を起こした血筋の者はアルベルト=ウェン=ハイゼングルドであり、アル=クイントンではないからね。ハイゼングルドの血はもう絶えた……そうだろう?」


「そうですか……」


 深い息が吐き出される。


 場所は応接室。

 決して広いわけではないが、貴族の屋敷らしく高級品があしらわれた室内で、二人の男が互いの目を見合わせていた。


「フリント殿の温情はいつか必ず」


「いや、止めてくれ。こっちとしてもアル君には感謝しているんだ。あの子を救ってくれたんだから」


 目を伏せるガルズと同様にディフリントが目を伏せた。


「アリア嬢か……彼女の同行は……?」


「もちろん、許可するよ。それが彼女にとっても良い選択だろうから」


 窓から入る陽光を背中に浴びながらディフリントが頷いて。


「ルーチェの旅は途中で潰えたけれど、その娘が受け継いでくれるなら悪い結末じゃない。まあ、あの子が頷けばの話だけどね」


「頷くさ。必ず」


「まあ、そうだろうけど……一応ね」


 答えが分かりきっていると、二人はそろって軽く口角を上げた。

 そして同時に、注がれたコーヒーに口を付ける。


「でも、これで当分の間ガルズ殿のコーヒーはお預けか……気に入っていたんだけどね」


「この街を発つまでにはもう少しある。その間はこまめに来るといいさ」


「そう言われてしまうと、毎日来てしまいそうだ」


 ディフリントが肩をすくめる。


「そうなると出発の準備が滞るかもしれないけど、いいのかい?」


「それくらいで滞ったりしないさ。それに、少ないといっても貴重だろう?」


「それは否定しないよ」


 首を横に振るディフリント。

 普段から執務で忙しい身の上だ。その顔には確かな喜色が浮かんでいた。


「まあ、あの子と顔を合わせても何を話せばいいか分からないんだけどね」


「そんなの、うちがまたこの街に来るまでに考えとけばいいだろう」


「来てくれるのかい?」


「当たり前だ。その時に私が現役かどうかは分からないが……アルとアリア嬢の故郷はこの街だ。それならば、最終的に帰ってくるさ」


「そうか……そうなると嬉しいな」


「そうなるさ」


 二人で軽く息を吐く。

 その後で、もう一度コーヒーを喉に通して。


「まあそれも、アルが戻ってくればの話だがな」


 アルがいなくなって、もう一日が経とうとしている。

 それに、髪色を隠せていない以上は万が一もありえるかもしれない。


 心配を胸に秘め、ガルズがコーヒーを見下ろしていると、心を読んだようにディフリントがそれを否定した。


「それは問題ない」


「うん? どうして言い切れるんだ?」


「私には見えているからさ……あの二人が一緒にこの街に帰ってくる光景が」


 ディフリントが肩越しに見下ろしたその先。

 そこには、一緒にいる少年少女へ二人の男女が駆け寄っていて——



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