第5章 罪が追いかけてくる
第31話 一人欠けた朝食
「え? アルくん休みなの?」
朝食の時間。
なかなか来ない少年の様子を見に行ったレスターの報告に、ティルナは少しだけ目を丸くした。
「ええ、体調が悪いみたいで休むみたいです」
「大丈夫そうなの?」
「本人は少し休めば大丈夫だと思うって言ってましたけど、ひとまずは医者を呼んで様子見でしょうね」
朝食をテーブルに置いて、ため息。
「まったく、この重要なときに体調を崩すなんて……ライバルの自覚が足りないな」
腕を組み、やれやれと息を吐いてみせるレスター。
本人はしょうがないと呆れているように見せようとしているけれど、キョロキョロと視線が彷徨っていて心配を隠せていない。
可哀想なので本人には伝えられないけれど。
「公演までもう時間がないし……心配だね」
「僕としてはライバルが減って嬉しいくらいですけどね。まあでも、最近は忙しかったし、その疲れが出たんでしょう」
「そうかも」
最近の彼はとても忙しかった。
クイントン音楽団では、実力がある者はそれ相応に忙しくなる。
楽器ごとのまとめ役をしている三人などはそれが顕著で、連携をとるためにこまめに会議も開いているし、団員の教育も一手に任されている。
自由に出来ると言えば聞こえはいいかもしれないけれど、古くから続くクイントン音楽団の名前を背負うのは並大抵の事ではないのだ。
そして、アルたちのようなナンバーツーは、トップのサポートとして奔走している。
特にフェルド先輩は三人の中でもだらしなく、昔から彼がやらなくてはいけない書類仕事の殆どがアルに流れてしまっていた。
ティルナ自身も練習だけの毎日を送ってはおらず、ある程度の仕事を任されている。
だからこそ休みの日には羽目を外すのだが、アルはそれ以上に忙しい毎日を送っているのだ。
……今は言えないけど、アリアちゃんの件もあるし。
静かに朝食を口に運んでいる少女。
決して口には出さないけれど、彼女が屋敷に来てからアルの生活は一変した。
アルは基本的にいつもアリアと一緒にいる。
もちろん、睡眠時間やお風呂の時間などは別だけれど、それ以外の時間は殆ど彼女に費やしているのだ。
……なんか、夜も出掛けてるみたいだし。
アリアが夜に出掛けているのは把握している。
もちろんティルナは反対した。いくら住み慣れている街だとしても、夜……それも深夜に女性が一人で出歩くのは危険すぎるからだ。
けれど、アルが大丈夫だと伝えてきたため、ティルナは把握しつつも静観を通している。
「練習が終わったらお見舞いに行こうか? 私、ジャルムさんに元気の出るご飯を頼んでくるよ」
「いや、体調悪い時ってだいたい食欲ないんじゃ……」
「そう? 私はそれで元気になるよ?」
「それはティルナ先輩だけ——」
「じゃあ、行ってくるね!」
レスターが何か言おうとしてたみたいだけど、無視。
ティルナは残りの朝食を急いで平らげると、厨房に向かうために席を立った。
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