第14話 食堂で




「ここが食堂だよ」


 少女を連れ、食堂に訪れる。


「やっぱり誰もいないね」


「まあ、ジャルムさんはいるだろ。調理場に顔出してくる、ちょっと待っててくれ」


「よろしくね」


 二人と別れ、調理場へ。

 中に入ると、調理の音と空腹を誘う匂いがアルを出迎えた。


 ……とりあえず、俺たちで何か作らなくてもよさそうだな。


 基本的になんでもこなせるアルではあるが、料理だけは別なのだ。

 作れない——とまではいかないが、どうしても濃い味で大量の料理になってしまう。

 そしてそれは、ティルナも同様だ。


 彼女の場合、少し事情が違うが……。


「ジャルムさん、調理中にごめん」


「んん? アルじゃないか。こんな時間にどうしたんだ?」


 調理の手を止め、顔だけでアルを出迎えたのは中年のおじさんだ。

 特筆すべき特徴が無いというべきか、そこらに埋もれてしまうような感じというべきか、本人に告げるのは失礼であるため告げないが、そういう人である。


「朝食には早いけど、ちょっとご飯を用意してほしくてさ」


「ああ、団長から聞いてるよ。女の子を保護したんだって? アルも隅に置けないなぁ……ティルナが泣くぞ?」


「そういう冗談はいいから……で? いけるか?」


「おうともさ! ちょっと待っててくれ。すぐに用意するから」


 そう言うと、ジャルムは惚れ惚れする手際で別の調理を開始した。

 時間にして数分程だろうか、アルが調理場の入り口で待っていると、彼が皿を持ってやってくる。


「とりあえずはその少女の分な。お前の分はもう少し待っていてくれ」


「あ、それならティルナの分も頼む」


「ああ、ティルナも一緒なのか? ふーん……」


「なんだよ……?」


「いや、なんでもない。そっか…………祝わないとダメか?」


「……なに言ってるんだ? 俺たちの分はまた取りに来るよ」


「おう、そんなにかからないからちょっと待っててな」


 しょうもないことを呟いているオッサンを無視して、食堂へ戻る。

 すでに二人は席に着いていて、アルは並んで座っている二人の向かい側で足を止めた。


「お待たせ」


「ううん、大丈夫」


「俺とティルナの分はもう少し待ってくれって」


「あ、私たちの分もあるんだ」


「ジャルムさんが用意してくれるってさ」


 静かに座る少女の前に皿を置いて、椅子を引いて腰掛ける。


「さあ、遠慮なく食べてくれ。食べられないものがあれば残してくれてもいいから」


 ジャルムには悪いが、無理はさせるべきではないだろう。

 そう考えて告げたのだが、少女は首を横に振るって食事に手を付け出した。


 少女の手が一瞬止まる。

 けれど、その手はすぐに動き出して、一口、また一口を食べ始めた。


 ……これなら大丈夫そうだな。


 ひとまずではあるが、少なくとも医者に見せるまで逃げることは無いだろう。

 そう判断し、アルはティルナへと視線を動かす。


「団長から食堂に話がいっていたらしい。とりあえずは滞在を許してくれてるみたいだな」


「そう、よかった……」


 心底安心したようにティルナが息をこぼす。


「じゃあ後は、お医者さんの手配と、部屋に滞在できるようにする手配だね。団長が了承してるなら——」


「レインネス伯に報告だな。屋敷もレインネス伯から借りているものだし……医者の手配は頼んでいいか? レインネス伯のところには俺が行くから」


「分かった。じゃあ、やっとくね」


 ニコリと微笑むティルナに頷き、再び視線を少女の方へ。


「……こうして黙々と食べてるところを見てると、腹が減ってくるな」


「あはは、そうだね」


 ティルナが笑みをこぼすと、少女の手が止まった。


「いや、気にしないでくれ」


「そうそう、食べてて大丈夫だよ。私たちの分ももう少しで来るから」


「おう! 出来たぞ!」


「ちょうど出来たみたいだ。取ってくる」


「ありがとー!」


 少女の手が再開したのを見届けてから、アルは調理場へ。

 そして、二人分の料理を受け取った後、また席に着いた。


「よし、じゃあ食べるか!」


「「いただきます」」


 二人声を合わせて、両手を合わせる。

 その際、食事をしていた少女のフードの奥。錆色の双眸が不思議そうにアルへと向けられていたことに、アルは最後まで気が付かなかった。

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