第8話 三人だけの会議




「というわけで、レスターくん……意見をどうぞ!」


「突然なんだ!?」


 開始早々、理不尽な声かけにレスターの悲鳴が上がる。


「えー……だって前回話したでしょ? 今回までに自分なりの意見を考え解こうって」


 ティルナはムスッと頬を膨らませて。


「……もしかしてレスターくん何も考えてないの?」


「いや、そういうわけではないんだが」


「じゃあ発表してよ。あっ、次は私で最後がアルくんね!」


「……俺が最後なんだな」


 ……どういう基準なんだ?


 彼女はいつも元気で場の空気を明るくしてくれるのだが、こういった場合に突然何かを決めたりするので反応に困る。

 すると、その疑問を解消するようにティルナの眼差しがアルへと向いて。


「だってアルくんが最初に彼女を勧誘するって決めたんだもん。だからアルくんがリーダーで、私が副リーダー。だから最初はレスターくん、次に私。そして最後にアルくんなんだよ」


 つまりは偉い人ほど最後にくるらしい。


「僕はただの構成員か……」


「ふっふっふっ……世間は甘くないのだよレスターくん。弦楽器二番手のアルくんと管楽器三番手の私。クイントン音楽団は実力主義なのだ!」


「ぐぬぬ……」


 地団太を踏まんばかりにレスターが悔しがる。

 だが、それもすぐに諦めたようで肩を落とした。


「分かりましたよ……じゃあ僕から…………といっても大したこと無いぞ?」


「分かってるから大丈夫だよ?」


「うぐ……ふぅ……じゃあ言うぞ。彼女の歌が凄いことは分かってるんだ。なら、他の団員にも見せてしまえばいいんじゃないか? 外堀から埋めるというか……団員の大多数から乞われれば団長も認めざるえないんじゃないか?」


「「おお……」」


「いくらなんでも酷すぎないか!?」


 いちいち傷つくレスターは放っておいて。

 ふむと、アルは顎に手をやった。


 それは確かにアリだ。

 そもそもクイントン音楽団は滅多にスカウトをすることが無い。

 これは、団長であるガルズが音楽は音楽を好きな者がするべきであり、自分から参加したいと申し出ていたやる気のある者で構成したいという方針からきている。


 簡単に言えば、やる気という振るいにかけているわけだが、これも別に絶対というわけではないのだ。

 例えば、弦楽器のまとめ役であるフィルド先輩——彼は数少ないスカウト組である。

 スカウト直後からまとめ役を務められる実力があったからこそではあるが、そういう前例があるのだから、絶対に無理とは言い切れない。

 それほどまでに彼の演奏は団員を魅了したのだ……人間性には難があるが。


「たしかにそれはいい考えだね!」


「ああ、最後まで反対はするだろうが、最終的には押し切れる」


「レスターくんナイス!」


「ふふふ、まあ僕にかかれば」


「じゃあ次は私の番ね!」


「お願いだから聞いてくれ……」


「えー」


 ムスッと不満顔を見せるティルナ。

 こうなるとレスターは何も言えないで黙る。そうすれば次は彼女の番だ。


「レスターくんの考えは凄い良いと思う……アルくん的にはどうかな?」


「いいんじゃないか? 少なくても俺の考えより良さそうだ」


 このまま直談判を続けるよりはずっといい。

 そう頷けば、ティルナも同じように頷いた。


「私も考えて来たけどレスターくんの考えには負けるかな。だからレスターくんの案でいこう! そうしたら次の議題だよ!」


 そう告げた彼女は一呼吸おいて。


「レスターくんの案を実行するには彼女の協力が不可欠なわけだけど……彼女ってどこにいるんだろう?」


「たしかにそうだな……あの森に通っているわけではないみたいだし………アル、君は彼女がどこに住んでいるか知っているのか?」


「いや、知ってたらそもそも森に通ってない」


「まあ、そうだよな」


 根本的な問題にみんな黙ってしまう。


 この街でおこなう予定の公演はあと二回。

 次の公演まではひと月を切っており、時間はあまり無い。


「これからはもっと練習が本格的になってくるからな……」


「そうだね……まだ楽器ごとに分かれて練習してる段階だから、全体練習になれば今よりももっと余裕が無くなっちゃうよね」


「ということは、森に通うわけにはいかないな……」


 また黙る。


 とはいえ、レスターの案が考えうる限り一番いいのは事実なのだ。

 ……その出だしで躓いているだけで。


「どうするか……」


 アルは、あの森で出会った少女の事を何も知らない。


 なぜ、あんなに諦めた目をしていたのか?

 なぜ、あんな歌を歌えるのか?


 それどころか、彼女の名前さえも。


 ……八方塞がりっていうんだろうな。


 方向性は定まったのに、一歩目が踏み出せないのだ。

 これでは苦笑いもこぼすことが出来ない。


「まあ、とりあえず俺は時間がある時は森に通うよ」


 この前は三人だったので驚かせてしまった。

 だが、一人で出会った時は違ったのだ。


 驚いてはいた。

 怖がってはいた。


 でも……その奥に興味が混じっていた。

 少なくとも、アルにはそう感じられた。


 その理由わけは分からない。

 でも確かに、決定的に違ったのだ。


「全員で行ってもまた驚かせるだろうし、とりあえずは、な」


「そうだね。そうするしかないかな……レスターくんはどう思う?」


「それでいいと思う。そもそも僕はアルやティルナ先輩ほど余裕があるわけではないからな」


 レスターが腕組み。

 その姿を、ティルナはニヤニヤと見ていて。


「不貞腐れてる?」


「誰が!」


 響く叫びに、アルは両耳を塞いだ。

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