4-8 市場見学2
【416、名無し:予想通り、ニーテストの相場鑑定がドングリ換算からアップデートされたな】
【417、名無し:これって、ミニャちゃんの相場観というか、その町の相場を参照してるんじゃないかな。森で相場鑑定しても、じゃあどこの相場と照らし合わせるかという問題になるわけだし】
【418、名無し:それは言えてるかもな。全世界の平均価格を持ち出されたって、物によっては何の意味もないどころか、とんでもないマイナス情報にもなりうるわけだし】
【419、名無し:そうなるとミニャンジャ村に行商人を招いたらどうなるんだろう。ドングリ換算に戻らないにしても、よくわからないことになるのかな】
【420、名無し:その時になったら検証するしかないだろうな】
【421、名無し:ちくしょう。俺はミニャちゃんにドングリで買い物し続けてほしかった……】
【422、名無し:たしかにそれは可愛いが、大人になってもそれだと困るからなぁ】
【423、名無し:ミニャちゃん王国の通貨にドングリ模様を入れようぜ!】
【424、名無し:上から順にミニャちゃんの横顔、ネコミミ、ネコシッポ、ドングリ、賢者、お魚にしよう】
【425、名無し:ドングリに負ける賢者】
経済活動に触れ、今までドングリ換算だったニーテストの『相場鑑定』に変化が見られた様子。
アロイという美味しい果物を食べたミニャたちは、市場の見学を続けた。
「フェスさん。種や苗はどこで売ってるの?」
賢者たちからの質問がミニャを通してされた。
この市場には芋もあった。これを植えれば、芋を栽培できるかもしれない。
しかし、農家が必死で作った品種をルールに従わずに量産するのはいかがなものかと、賢者たちは考えていた。
「種苗ですと、農業ギルドか農業関連の専門店になりますね。市場には……どうでしょう。ザインさんたちは、見たことがありますか?」
「種や苗を市場で売るヤツは見たことがありませんね。まあ何でも売れるし中にはいるかもしれないが、滅多にいないと思いますよ」
フェスも市場を全部知っているわけではないので、市民としてよく使用している冒険者のザインに補足をいれさせた。ザインは敬語も使えるらしく、スノーとは扱いが違う。
「じゃあじゃあ、市場で買った野菜や果物の種を勝手に植えても大丈夫?」
「はい、別に問題ありませんよ」
どうやら品種の国外流出の防止などは全くしていないようだった。変な質問をしてしまったようで、フェスは首を傾げている。
とはいえ、農業ギルドが種と苗の販売をしているということは、それを使ったほうが間違いはないはずだ。
「フェスさん、農業ギルドはどこにあるの?」
「農業ギルドは西地区ですね。西地区に農地が広がっていますので。同じく農業関連の商店も西地区に多くあります。もし、なにか欲しい物がありましたら、仰ってくだされば、明日までには取り揃えます」
「わぁ、本当!? ありがとうございます!」
ミニャが無邪気にお礼を言っている裏側で、賢者たちはちょっと後悔した。
【489、名無し:市場が複数あるのか……】
【490、名無し:高級住宅街が真ん中にあるんだから、よく考えればこれだけ大きな町だし、東西に市場があるのは当然だったな。全然気づかなかったぜ】
【491、名無し:東が活動の中心だったからなー。失念した】
【492、名無し:いや、たぶん南に魚市場があると思うから、3つじゃないか?】
【493、名無し:むしろ裏門付近に冒険者ギルドの市場があっても不思議じゃない】
【494、名無し:なんにせよ、俺たちにとって重要なのは西だったかもしれないよ】
【495、名無し:まあ、見学しきれない場所は俺たちが忍び込めばいいだろう】
領主が揃えてくれるというので、とりあえず、賢者たちは欲しい野菜をチェックしておくことに。
方法は子供たちのリュックの中に入っている木属性の賢者たちが、リュックの穴から『植物鑑定』で野菜や果物の名前を調べていき、あとで欲しい物をリスト化するつもりだ。
野菜や果物が多く見られた市場に、乾物や香辛料を売る店が混じり始めた。
胡椒やトウガラシも売っており、別段高値で取引がされている様子はない。
【541、名無し:胡椒は普通にあるんだな】
【542、名無し:野菜の種類を見るに、地球とかけ離れた植物は一般的じゃないんだろう。かけ離れた物こそが高値で取引されて、俺たちにとってもぜひ地球に持ち帰りたい物になるんじゃないかな】
【543、名無し:効果の高い回復薬の材料とかな】
【544、トマトン:あとは味だね。あたしたちが食べてる物は品種改良の末に良い味になっているわけだし、改良に力を入れてなかったらそこまで美味しくはないかも】
【545、名無し:今ってほうれん草やキャベツとかでもネームドだからな】
【546、名無し:あれをネームドって言うヤツは初めて見たわ】
【547、名無し:ネームド野菜www】
【548、グラタン:あっ、いまの野菜未鑑定だった! 戻ってぇ!】
野菜と乾物交じりのエリアが過ぎ、賢者たちが見たかった店のひとつを発見した。
「ミニャ様、ここは玉米屋です」
「玉米屋さん!」
ミニャはむむむっとした。
玉米屋は露店ではなく、しっかりとした建物の商店だ。
「玉米はミニャ様への贈り物として含まれていますが、どのような物が売っているのか見学いたしましょう」
「はーい!」
ていーんと手を上げて、社会科見学。
「これはフェス様。ようこそお越しくださいました」
店に入ると、揉み手をした店主がすぐに対応した。普段から店に出ているのか、鈴の音を聞いて仕事部屋から飛んできたのか。
そんな店主から様付けで呼ばれるフェスは、割と高位の文官なのだろう。
「本日は視察です。質問があれば呼ぶので、控えていなさい」
「左様ですか。どうぞなんなりとお申し付けください」
店主はニコニコしながら待機した。しかし、その目の奥ではどのような状況なのか観察しているように見える。
それも無理はない。商人のデータにミニャの存在はないだろうし、超美麗フィギュアを連れたそんなミニャが入店したなら、高位貴族の御令嬢かと考えるのは自然なことだ。
店内に商品は置いていないが、甘い米の香りがどこからともなく漂ってくる。また、商品はカウンターで注文して受け取る形になるようだ。カウンターで取引する従業員は3人おり、みんな緊張した雰囲気。
「ミニャ様。町の外にある水田では玉米を育てていますが、収穫された玉米は米問屋に売られます。米問屋はこの店の店主のような商人たちに玉米を売り、商人たちは貴族や市民に玉米を売ります」
フェスの説明にミニャの脳内子猫たちは、ぽえーっとしながら『お返事ボタン』をポチ。ミニャは「にゃ、にゃん!」と鳴いて頷いた。全然わからぬ。
そこでふと、賢者たちからの質問要請があった。
「不作の時はどうするの? 玉米の価格は上がっちゃうの?」
7歳児とは思えない鋭い質問。
それをそばで見ていたジール隊長が顎を撫で、賢者たちは完全にバレてるなと思った。
一方、何も知らない店主は「なにこの幼女」みたいな驚きの目をしている。
「この国の王や各領主は、米問屋に対して、買い入れた玉米の何割かを常に保管しておくように義務付け、飢饉の際に米蔵を開けるように命令することができるのです。とはいえ、玉米の価格は多少上昇しますが、民の多くが飢えて死んでしまうようなことは滅多にありません」
「にゃ、にゃん!」
ミニャはコクンと頷いた。
とりあえず、飢えて死ぬことはないと理解した様子。
【590、名無し:年貢制度じゃないのか】
【591、名無し:俺も絶対に年貢制度かと思ってた】
【592、百太郎:現物納は税収がかなり不安定な割に、徴税にかかる経費が莫大なんだよ。大量の米を運び、検品し、保管する大変さは君たちも想像できるだろう。各工程に誠実ではない作業員が混ざったり、悪天候に見舞われたら、税収の不安定さはさらに拡大する】
【593、名無し:たしかに米俵を積んだ船が嵐で沈んだら一発でアウトか】
【594、百太郎:そういうこともあったようだね。この国の場合、そういったリスクを米問屋が受け、おそらく領主は、米に関わる全ての業種から税金を徴収しているはずだ】
【595、名無し:いいとこ取りで草】
【596、名無し:そのぶん魔物がいるから、防衛費が嵩んでいるかもしれないな】
【597、名無し:農地には兵士の巡回もいたし、税金を吸っているだけではなさそうだね】
スレッドでは賢者たちがそんな考察を楽しんだ。
「ここでは様々な玉米に等級がつけられて売られています。稗や粟などが混ざった安い物だと銀貨1枚と少しから、一番いい物だと1年以内に収穫された新米になり金板1枚前後で取引されます」
フェスが玉米を見せるように言うと、昨年に収穫された新米が木のカップに入れられてカウンターに載せられた。「どうぞ、品質をお確かめになってください」と店主に言われて、ミニャは木のカップを両手で持った。
そうして屈んで、賢者たちと一緒に覗き込む。
「おーっ、粒々しとる!」
『髑髏丸:なるほど、上質な玉米と鑑定で出てるな。新米で間違いない』
『ネコ太:本当に丸いわね。どんな味なのかな』
ちょっとキャッキャし、ミニャはカウンターにカップを戻した。
「ありがとうございます!」とちゃんとお礼を言うのも忘れない。
「ミニャお姉ちゃっ、お米ってすんごくおいちぃんだよ!」
ルミーがニコパとミニャに教えてあげた。この前食べたから知っているのだ。
玉米を褒められ、店主もニコニコだ。おそらく高級な玉米を想定しているのだろうが、ルミーたちが食べたのは一番低い等級である。
一番低い等級は古い玉米に混ぜ物も多くしてあり、銀貨1枚と少し。
それに対して、先ほど食べた果物アロイが銅貨1枚。10個買って銀貨1枚。
これらはニーテストの相場鑑定によると適正価格だった。
甘味であるアロイが高いとも考えられるし、主食なので玉米の最低等級は安くされているとも考えられる。
なんにせよ、安いからといって、10歳のスノーが一生懸命働いて買った米なので、決して馬鹿にしていいものではない。
町の大きな産業ということもあって露店などよりも丁寧に説明を受け、ミニャたちは次の見学へ向かった。
玉米屋の近辺は、商店型の店舗が多かった。
「お酒くしゃい!」
ミニャが「んっ!」と威嚇した。
「あー、ここは酒屋ですね」
「おー、お酒屋さんかぁ」
「グルコサだと米酒や麦酒、薬草酒、果実酒がありますね」
「美味しい?」
「うーん、私は好きですが、ミニャ様にはまだ早いかもしれませんね」
ミニャちゃん陛下はまだ7歳なのである!
ちょっとだけ見学させてもらい、賢者たちはこの国の酒について学んだ。
【681、鍛冶おじさん:焼酎があるのか】
【682、名無し:蒸留酒無双は無理だったか……】
【683、名無し:まあ、回復薬なんてもんがガチで作れる世界だし、パトロンだって得やすいだろうから、錬金術的な研究は地球の中世とは比べられないんじゃないかな】
【684、名無し:うーん、やっぱり侮れねえな】
【685、名無し:この店で麹が売ってるのはなんでだろう?】
【686、名無し:家庭で作るどぶろく用じゃない?】
【687、名無し:あー、どぶろく用か。めっちゃ作りたいじゃん】
【688、名無し:ちょっと欲しい物リストに書いておこうぜ!】
お酒が好きな賢者もいるようである。
しかし、ミニャを筆頭に年少組が揃って無口になってしまったので、賢者たちはこのお店からはもう出ることにした。キッズに酒屋の匂いはきついらしい。
少し歩くと、干し肉や塩つけ肉、燻製などが売っている露店があった。
「フェスさん、生のお肉は売ってないの?」
「生のお肉ですと、北の外壁近くにある冒険者ギルドの市場で扱っていますね。あとは、肉売りという仕事をしている人たちが町のあちこちに売り歩くんです」
「肉売り!」
「同じようなもので、南には魚市場があります。ここにも魚売りという仕事をする者がいて、町のあちこちに魚を売りに行きます」
「ふぉおお、お魚売り! はえー、尊敬する」
尊敬するらしい。
【801、名無し:魚売りとか江戸の町みたいだな】
【802、名無し:そういえば、江戸の魚売りは聞いたことあるけど、肉売りって聞いたことないな】
【803、百太郎:江戸時代は獣肉食が禁忌だったからだね。肉は薬と称して食べていたみたいだから、おおっぴらに肉売りと名乗って商売はできなかったんだろう】
【804、名無し:はえー、そうなんか】
【805、名無し:そういえば、ラッカ君たちも酒の注文書を酒屋に届けてたな。あれもそういうのを真似た商売だったのかな】
異世界文化を楽しみつつ、市場見学は続き、ずっとまっすぐ進んでいた道を途中で曲がった。
その道はこれまでと毛色が変わり、食品の代わりに雑貨などを売っている露店が並んでいた。
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