3-10 魔法レベル2


 ニーテストやライデンがもたらした『魔法レベル2』の情報は賢者たちに衝撃を与えた。


 すぐに解放条件が検証され、条件は1つ『お布施で2500点を奉納する』とわかった。

 他にも『登録日数20日以上の賢者』などがあるかもしれないが、これは現状で証明しようがない。


 これに特に沸いたのは、闇属性と火属性だ。

 火属性は森だと特に使いにくい属性なのでさもありなん。

 一方で、闇属性は割と使いやすい属性だったが、この属性を得た人は中二病が多かった。新しい魔法が使えるとあって、ワクテカが止まらない。


 女神像が完成した土曜とその翌日の日曜は、魔法研究クエストが活況となった。


 基本的に1回の魔法研究クエストは、1属性1人までだ。属性は11あるので何人も参加させていては、他の仕事に支障をきたすからだ。しかし、本日は1属性2人まで人員が確保された。


 現在、魔法研究所はゴブリンの村跡地にあった。

 都合よく広場になっているので、そこが改造されたわけだ。難点を言えば若干ゴブリンの臭いが残っている点だが、ここで使われた人形は拠点には行かないことになっているので、変な病気を持ち込むことはないだろう。


 まず行なわれたのは、定型の検証。


『クラトス:ふむ、明らかに属性武器の出力が増したな』


『霧雨:こっちもウォーターボールの威力が増してる。体感1.3倍くらいかな』


 魔法研究では、日に一度、属性武器とボール系魔法による攻撃力が記録されていた。

 それぞれ『倒木を切りつける』『盛り土に当てる』というシンプルな観測により、魔法の熟練度について検証していた。それによれば、これまでに魔法の威力や効率が上がるということはなかった。魔法の扱いが巧みになるということはあったが。


 ところが、魔法レベルが上がったことで、今まで使っていた魔法の多くが最大出力を上げる結果となった。それは属性武器による倒木の切りつけ記録で見れば明らかだった。


『闇人:シールドも大きく強くなった』


『火剣:これはもうシールドっていうかウォールだろ。ミニャちゃんなら屈めばすっぽりだ』


 一方、防御系の魔法はレベル1だと小さなシールドだったが、レベル2になると1mくらいの大きなシールドを張れるようになった。

 きっとそのうちドーム型になるに違いないと考察しつつ、防御系の魔法実験は上々の結果に。


 毎日行なわれていたそんな検証が終わると、フリー検証が始まった。


『カイン:サンダーニードル!』


『氷の神子:アイスニードル!』


 すぐに発見されたのはニードル系の攻撃魔法だった。

 20cmほどのニードルというよりもボウガンのボルトに近い形状の魔法を飛ばすことができる。


 ボール系はヒット時に破裂して終わる。吹っ飛ばしダメージと属性に因んだ瞬間的な効果を発揮する。


 これに対して、ニードル系はヒットすると同時に属性に因んだ大きな効果を発揮した。

 例えば、サンダーニードルは刺さった場所に2秒ほど残って継続的に感電させる。アイスニードルは刺さった場所の周辺を半径10cm程度の氷で覆う。

 見た目はボール系の方が強そうだが、ニードル系の効果の方がエグかった。


 クーザーが使っていた風の刃のような魔法は発見されず、新しく増えた攻撃魔法はこの1つだけだった。


『ラフィーネ:ひゃっふーいですわー!』


『タカシ:うわぁ、いいないいなぁ!』


 そんな中、風属性の賢者が素晴らしい魔法を発見した。

 飛行魔法である。

 これには他の属性の嫉妬が止まらない。


■賢者メモ 風属性■

『フライ』

・2名まで飛行させられる。自分を含めた場合は他に1名まで。飛行させてもらう場合は、術者から5m以上離れられない。

・消費魔力は1秒1点。2人分だと1秒2点。

・高度は地上から2mまで、最高速度は秒速5m。

・重い物を持っての飛行はできない。100g程度まで。

・この魔法は人間にも使える。ただし、人間に賢者を持たせて使用することはできない。つまり、賢者を背に乗せた幼女戦艦は不可能。

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 魔法鑑定と検証により、そんな結果が出た。

 魔力を使えば空腹になるため無理はできないが、いろいろな運用ができそうな魔法だった。

 魔法レベルが3になればもっと飛行性能が高くなるかもしれないので、ワクテカが止まらない風属性たちである。


『クラトス:ちょっとみんな聞いてくれ!』


 魔法検証のリーダーであり、異世界研究委員会の委員長でもあるクラトスがみんなを注目させる。


『クラトス:光属性の魔法レベル2に回復魔法が存在した。回復属性が使える『ヒール』という魔法だ。各属性もちょっと探してみてほしい』


 その呼びかけに賢者たちがさっそく研究を始めると、すぐに火属性が発見した。


『火剣:火属性は『疲労回復』があったぞ!』


 これはスノー一家の病魔を追い払った際に使われた魔法だ。


『クラトス:やはりそうか。回復属性は回復のエキスパートだが、要は生産属性と同じタイプなんだ』


 生産属性は全ての属性が持つ生産系の魔法を使用できる。土属性の『石材変形』や木属性の『木材整形』などが該当する。

 回復属性もこれと同じだった。全ての属性が持つ回復系の魔法を扱えるのが回復属性だったのである。

 ただし、回復属性や生産属性も魔法レベルを上げられるので、その重要性は薄れることはないだろう。


 それぞれが研究を再開してしばらくすると、今度は闇属性が叫びのフキダシをあげた。なお、フキダシなので静かなものだ。


『闇人:ふわわわっ!』


 次に発見したのは闇属性の闇人である。

 なんと影の中に潜り込んだのだ。


『闇の福音:すっげぇ! なにそれ、どうやったの!?』


『闇人:むぅーん!』


『闇の福音:ねえねえ、どうやんの!?』


 むぅーんと影に出入りする闇人は闇属性の同士の質問をスルーして、長年溜め込んでいた中二ヂカラを爆発させて一人遊び。


『闇の福音:先生ぇ! 闇人さんが僕のこと無視します!』


『クラトス:おう、そうか。先生ちょっと忙しいから後でな』


 クラトスが慌ててそちらへ行き、魔法鑑定を行なう。闇の福音はスルーされた。光属性は大忙しだった。


■賢者メモ 闇属性■

『影潜り』

・魔法で生じさせた影に潜り込む。

・自分の他にもう1人まで影に誘い込める。フライとは違い、同行者は術者と共に影に入らなくてはならない。

・魔力消費は1秒1点、2人でも消費は変わらない。

・この影に入っている間の移動は常に平たい地面を歩いているような感覚となる。垂直な壁も移動できる。

・この影は光に当たっても消えないため、光がある場所だとすぐにわかる。

・影の中には人間も入ることができる。

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 闇属性が求めていた魔法である。

 影から影へ一瞬で移動できる魔法ではないが、影からズルンと出現する強者ムーブに欠かせない魔法だ。


 また、フライも影潜りも地球で使用することができた。

 本体の魔力量は現状で100点程度なので、空腹を考慮して50秒程度しか楽しむことはできないが、それでも夢の力を得て大喜びな賢者たちである。


『霧雨:水属性ももしかしたら移動系があるかも。ちょっと川まで行ってくるわ』


『クラトス:一人で行くな。誰かと一緒に行ってくれ』


 と、水属性の賢者がゴブリンの集落跡地のそばにある薄暗い川で検証。

 すると、『水中移動』という魔法が発見された。泳いでいるわけではないのに、魚のように水中を移動できる魔法だった。湖で活動することが増えたので、非常にありがたい魔法である。


『啓太郎:うぉおおお、新魔法キタッ!』


 今度は火属性で新たな発見があった。


 それは一見するとただの焚火だが、炎の中でおかしなことが起こっていた。

 燃えている枝と、燃えていない枝があるのだ。


『クラトス:どういう魔法だ?』


『啓太郎:燃やせる物を指定できないかと思って魔法を使ったら発動したんだ。魔法レベル1でも実験して無理だったから、確実に魔法レベル2だな』


『クラトス:ああ、その実験の報告書なら読んだから俺も知っている。そうか、レベル2に存在したか』


 クラトスはふむふむと頷きながら、魔法鑑定を行なった。


■賢者メモ 火属性■

『賢き炎』

・燃やす対象を選ぶ炎を作る。

・選ぶ方法は、個別と範囲の2択。

・この魔法で燃やされた物から他の物が延焼することはない。対象となっていないなら、触っても熱を受けない。氷ですら溶けることはない。ただし、煙の吸引による影響は受ける。

・この魔法は他の火魔法に付加することができる。

・この魔法は途中で解除して通常の炎に戻すことはできない。

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 相当に便利な魔法だった。


『火剣:火属性はレベル2からだったんや!』


『啓太郎:ほんそれ!』


 火属性はそんなことを言っているが、周りでは飛行魔法や影に入る魔法が発見されているので、インパクトは低い。


『クラトス:しかし、この魔法は理屈がさっぱりわからんな。なぜ熱を感じないんだ?』


 クラトスは赤々と燃える薪の破片を素手で持ち、じっと見つめる。フィギュアの体だが少し心配になる光景だ。


『啓太郎:賢き炎っていうくらいだから、炎自体が頑張ってんじゃね?』


『クラトス:いや、それが意味わからんと言っているのだが』


『火剣:影に潜れる方が意味不明だろ。影って潜り込めるものじゃないんだから。こっちの方が現象としてはずっと可愛いよ』


『クラトス:いやまあ、それはそうだが』


 この賢き炎の発見のように、賢者たちはこれまでに失敗してきた魔法のアイデアがいくつもあった。それは検証データに残されており、それを再び実験するだけでどんどん新しい魔法が発見された。


 しかし、魔法レベル2になっても不可能な魔法はたくさんあった。

 2500点のお布施で魔法レベル2が解放されたわけで、魔法レベル3もお布施が関わると考えるのは当然だ。

 だが、次が何点かわからないのにそれをやれる賢者はいなかった。そもそもお布施だけが条件とは限らないわけだし。

 他にも取りたいショップ商品があるので、ひとまずは魔法レベル2の研究を進めるのだった。


 また、この検証を踏まえて、早急に外部サイトの属性紹介が更新された。

 空を飛べたり、影に潜れたりできるのは、それだけでその属性に決定する要素になりえるからだ。


■賢者メモ 魔法レベルまとめ■

・魔法レベルが上がることで、今まで使えなかった魔法が使えるようになる。

・今まで使えていた魔法の中には、最大出力を上げられるものがある。

・魔法レベル2からは一部の属性に回復魔法が出現するようになる。ただし、回復属性もレベル2になると回復魔法レベル1の効果が向上するため、他の属性では回復性能が追い付けない可能性がある。

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