2-43 ミニャちゃん村長
踊りを終えて拍手をする子供たちの顔は晴れやかだった。
これが音楽と踊りの力なのかと、クソ下手な音楽と踊りを披露した賢者たちは感動した。
『ネコ太:それじゃあミニャちゃん、ご挨拶しようか! 賢者の言葉じゃなくて、こっちの言葉でね?』
「はーい!」
踊って緊張が晴れたミニャは、元気にお返事した。
しかし、その光景は子供たちに少し奇妙に映ったかもしれない。なにせ、子供たちはフキダシが見えないのだから。
ミニャは子供たちに向き直ると、ニコパと笑った。
(ミニャ:ミニャはミニャです! 7歳です! よろしくね!)
翻訳に流れたこのご挨拶に、賢者たちは見覚えがあった。
ミニャと出会った時にチャットルームに書かれた最初のご挨拶こそがこれだったのだ。ジーンとする賢者たちも多い。
賢者たちは知らないが、女神の園でも女神に対して同じ挨拶をしている。どこかで覚えたご挨拶なのだろう。
(ミニャ:そんでねえ、こっちは賢者様たち!)
ミニャから紹介されて、賢者たちはテンでバラバラにポージングした。香ばしいヤツが多い。
(ミニャ:そんでそんで、この子はモグちゃん!)
「モモグゥ!」
モグもご挨拶して、ミニャのターンは終わった。
女神の使徒だとかそういう難しい話はなかった。というか、ミニャには女神の使徒としての自覚はなかった。
最初に反応したのは、スノーだった。
(スノー:おいらはスノー。お、お前が女神様の使徒なのか?)
(レネイア:す、スノーさん!)
レネイアが慌てた。
お前という言葉に反応したのか、敬語を使わなかったからか。
賢者たちの中にもよくスノーを観察する者がすでに現れていた。
賢者たちはスノーに同情したが、正直、この子が一番危なっかしかった。ラムーの実を冒険者にぶつけようとした短気さを賢者たちは忘れていないのだ。
世の中には、身内にはとても優しいが、それ以外には苛烈なイジメっ子というのは腐るほどいる。この場にいる賢者たちだからこそ、そういう人をよく見てきたのだ。
敬語を使わないことに対して、ミニャは特に気にしなかった。
その件については賢者たちも同様に気にしていなかった。むしろ、スラムにいながら敬語をちゃんと使えるレネイアの方が凄いと賢者たちは思っていた。
(ミニャ:女神様の使徒様? ミニャが? んー……)
腕組みをするミニャの脳内で、子猫たちが円卓会議を開始した。
子猫たちは母親から聞いた昔話について分析。なんでも、おとぎ話に出てくる凄い人たちの多くは女神様に力を貰ったらしい。
シーンとする会議場。
脳内子猫たちは顔を見合わせた。そして、子猫たちはガタッと一斉に席から立ち上がる。
ミニャ、使徒様かもしんない!
「みんな、どうしよう! ミニャ、使徒様かも! だって、女神様のところでミニャのオモチャ箱を貰ったもん!」
今さら気づいたミニャに、賢者たちは萌えながら大きく頷く。
『ネコ太:そうだよ。ミニャちゃんは使徒様だよ』
「はえー、しゅごー。じゃあドラゴンも倒せる?」
『ネコ太:サバイバーならいけるかもしれないね。私たちじゃ無理かな』
「しゅごー!」
『サバイバー:ちょっとネコ太、適当なこと言わないでよ。たぶんこの世界の最上級生物でしょ? クーザーですらあれだけ強かったんだから、まだ無理だよ』
『ネコ太:ミニャちゃん、やっぱりまだ無理だって』
「ダメかー」
そんなやりとりをしているミニャは日本語を使っていた。
スノーたちは聞いたことのない言葉で人形たちとやりとりするミニャに困惑した。
『ネコ太:それよりもミニャちゃん、いまはあの子たちと仲良くなろうね』
「はっ、そだった!」
ミニャはハッとして8人に向き直った。
(ミニャ:ミニャはミニャです! 7歳です! あと女神様の使徒様です!)
ミニャのご挨拶に肩書が加わった。
(スノー:ほ、本当にこんな小さな子が……)
茫然とするスノー。
スノーは自分を保護してくれる存在を期待していたのだろう。それなのに相手が自分よりも幼いとなれば、がっかりするのも無理はないかもしれない。
一方で、ルミーとパインは女神の使徒を前にしてキラキラしたお目々。
(パイン:しゅごい!)
(ルミー:しゅねー!)
そんな2人にミニャはニコパと笑った。
(ミニャ:パインちゃんにルミーちゃん! ルミーちゃんはもう病気は大丈夫?)
(ルミー:うん!)
ミニャの質問にルミーは元気にお返事したが、スノーは違った。なぜルミーの病気のことを知っているのか。そんなこと、自分たち5人しか知らなかったのに。
(スノー:も、もしかして、ルミーを治してくれたのはお前なのか?)
(ミニャ:ううん、賢者様! えーっと、たしかルミーちゃんを治したのは平和バトさん!)
(スノー:平和バトさん?)
(ミニャ:そうだよ。賢者様たちの1人なの!)
そんなことをミニャが話していると、ネコ太からカンペが出た。
毎日の朝の会で練習しているので、ミニャはふんふんと頷く。
(ミニャ:みんなはミニャと一緒に暮らす? ミニャはここに賢者様と一緒にお家を作るの。一緒に暮らすのなら、みんなのお家も作るよ)
その質問にスノーは不安げにラッカたちを見てから、レネイアの顔を見上げた。この決断が弟妹の将来を終わらせかねないので無理はなかろう。
そんな中で意外にも真っ先に答えたのは、今まで黙っていたドワーフのシルバラだった。
(シルバラ:あたしはシルバラです。あたしもご一緒したいです)
(ミニャ:わーい! いいよー!)
やはりドワーフだから賢者の凄さがわかったのだ、と賢者たちは自画自賛する。
自画自賛はともかく、シルバラはフィギュアたちの働きぶりを非常によく観察していた。だから、誰よりも早くに今までの生活よりも豊かになると判断できたのかもしれない。
次に決断したのはエルフの姉だった。
(レネイア:私はレネイアです。こっちは妹のマール。私たちも一緒に暮らさせてください)
(マール:よろしくお願いします!)
(ミニャ:いいよー! よろしくお願いします!)
ミニャはマールの手を取って、ブンブン振った。
その周りで賢者たちもピョンピョンする。
レネイアが判断した理由は不明だが、賢そうな少女なので割の良い賭けだと思ったのかもしれない。
ラッカとビャノの双子が、すぐに答えられなかったスノーを見上げた。
スノーは二人の頭を撫でてから、言った。
(スノー:お前について行けば、こいつらは幸せになれるか?)
スノーの顔から真剣なものを感じ取り、ミニャはちゃんと考える。そして、大きく頷いた。
(ミニャ:ミニャわかんない!)
わかんなかった。
(ミニャ:でもね、きっと凄く楽しいよ! だって、ミニャ、毎日すんごく楽しいもん!)
その翻訳を読んだ近衛隊は、わーっとミニャちゃん陛下の足に群がった。
それにルミーとパインとマールも混ざって、キャッキャキャッキャ!
イヌミミ姉妹の笑顔を見たスノーは心を決めたようだった。
(スノー:おいらたちも一緒に暮らしたい。お願いします)
(ラッカ&ビャノ:お願いします!)
(ミニャ:うん、いいよー!)
地面にお尻をついて賢者たちと戯れるミニャは、ニコパと笑った。
そうしていると、スノーたちが揃って『あっ!』と驚愕の声を上げた。
その視線は賢者たちの上にあるものを見ていた。
そう、モグと同様にスノーたちにもフキダシが見えるようになったのだ。
(ミニャ:あっ、みんなも賢者様の言葉が見られるようになったの?)
(スノー:う、うん。お前は最初からこれでやり取りしていたのか?)
(ミニャ:そうだよー)
(レネイア:でも、読めません。これはなんという言葉なのでしょうか?)
(ミニャ:これは賢者様の言葉だよ)
(レネイア:ミニャさんはこの言葉が理解できるのですか)
(ミニャ:うん! 読めるし、お話もできるんだ! ねー!)
ミニャがねーっとするので、賢者たちもねーっとした。
(スノー:すげぇ……)
そんなやりとりを見つめる一部の賢者たちは、少し危うさを覚えた。
ミニャの仲間判定が甘いと思ったのだ。
いつまでもフキダシの能力は秘匿できないだろうが、可能なかぎり知らない人が多い方がいい。フキダシが他者に見えないのは、時として賢者たちに有利に働くこともあるのだから。
なにはともあれ、8人の子供たちがミニャの仲間になったので、ニーテストがネコ太に指示を出した。
【891、ニーテスト:ネコ太、しっかりしろ。最後に宣言だ】
子供たちとわちゃわちゃしていたネコ太は正気に返り、再びカンペを表示する。
ミニャはそれが村長さんのよくやるような挨拶だと察した。
キリリとして、賢者たち、モグ、そして8人の少年少女に宣言する。
(ミニャ:それじゃあここに村を作ります! ミニャとみんなと賢者様が暮らす村です! みんなで頑張りましょう!)
バーンとミニャが宣言すると、賢者たちは一斉に拍手して歓声のフキダシを挙げた。
それに釣られるように、8人も拍手する。
8人の少年少女を加え、いまここに新拠点の開発がスタートするのだった。
第2章 ミニャちゃん陛下と賢者たちの南部進出 完
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