1-4 アルカス
サバイバーが異世界に召喚されたことで沸き立つ賢者たち。
そんな中、工作王がチャットルームに良いコメントをした。
≪工作王:ミニャちゃん、人形はこの1体だけなのかな? ミニャちゃんのメニューに『人形倉庫』っていうのがあるみたいだけど≫
「ミニャ:ミニャね、女神様からね、お人形さんを10個も貰ったの。見たい?」
ミニャは口頭でそう答える。
文字にしなくても賢者たちに伝わると理解し始めたようだ。
≪ネコ太:私、見たいなー! ミニャちゃん、見せて見せて!≫
「んふぅ! じゃあ見せてあげるぅ!」
ミニャはメニューから『人形倉庫』を選んで表示した。
そこには9体の人形が保管されていることが見て取れる。
ミニャは「うんとうんと」とウインドウに指を這わせて、人形を保管庫から取り出すように操作する。
すると、ミニャの周りに木製人形が4体、石製人形が5体、寝転んだ状態で現れた。
「ふぉおおお!」
『サバイバー:すげぇ!』
こういったことができると知っていたミニャだが、実際にやったのは初めてなので手をブンブン振って喜んだ。その近くではサバイバーも同じように興奮する。
興奮するミニャだが、そこでハッと気づいた。
きっとこれに賢者召喚するに違いないと。
お手伝いできる系幼女は、先回りしたくなっちゃうのだ。やればみんなが喜んでくれるのならなおさらである。
ミニャは、ペッペッと賢者召喚画面を表示してスタンバイした。
≪アルカス:よっしゃー、次は俺ね!≫
≪ニーテスト:待て、ちゃんと話し合おう。この場の全員の属性を聞かせてくれ。ちなみに俺は土属性を選んだ≫
≪アルカス:9体もあるんだから別にいいじゃねえか! それに他のヤツになんで俺の属性を教えないといけないんだよ。そんなのマナー違反だろ≫
話し合おうと、名前に似合わず真っ当な意見を言うニーテスト。
一方で、アルカスは苛立ったような口調で反論する。
≪ネコ太:私は回復属性を選んだよ≫
≪工作王:俺は生産属性だ≫
≪覇王鈴木:俺は雷属性≫
≪ネムネム:あたしも生産属性(*‘ω‘ *)お絵描きとお昼寝が得意です!≫
アルカスの主張とは裏腹に、他の賢者たちはすんなりと情報を言った。
しかし、話し合いというムードになっていたのに、ここでアルカスが抜け駆けをした。
≪アルカス:ミニャちゃん、賢者召喚しようぜ。アルカスを選んで≫
≪ミニャ:わかった!≫
お手伝いができて偉い系幼女の心を弄ぶ悪辣な手法である。
ニーテストたちのやりとりが難しくてわからず、アルカスのお願いが単純だったから、これは成立してしまった。
すでに賢者召喚画面を出してスタンバイしていたので、誰もそれを止められずにアルカスが召喚される。
≪覇王鈴木:おいおい、コイツを立ち上げ段階で行かせて大丈夫なのか?≫
≪ネムネム:不安しかない(。-`ω-)大丈夫?≫
≪ネコ太:サバイバー、アルカスがミニャちゃんに変な事したら命がけで守りなさいよ≫
≪サバイバー:わかった≫
「あっ、賢者様が来た!」
光が木製人形に宿った。
木製人形はバッと起き上がると、手をバタバタと動かし、ぴょんぴょんとジャンプする。
アルカスの頭の上に歓喜のフキダシが現れた。
『アルカス:やった! やったぞ! ここから俺の物語が始まるんだ! やっとだ、やっとだ! ふははははははっ!』
「アルカスさん、よろしくお願いします!」
ミニャがニコニコしながら挨拶するが、アルカスはそれを無視してウインドウを表示する。
≪覇王鈴木:ホラー映画だと、言うことを聞かない人形って出てくるよね≫
≪ネコ太:やめてよ≫
チャットルームのコメントを読みつつ、サバイバーはミニャの前に立ち、いつでも攻撃できるように身構える。この賢者、名前に違わずなかなかできるヤツのようである。
一方、ウインドウでステータスを確認したアルカスは、なにを思ったのか茂みから飛び出して、河原に向かって走っていってしまった。
≪ネムネム:あんなアホだとは思わんかった(;’∀’)やべぇ!≫
≪工作王:あの野郎! 誰かあいつのステータスは控えたか!?≫
≪ニーテスト:大丈夫だ、記録している≫
≪覇王鈴木:お前優秀だな!?≫
アルカスは河原まで出ると、そこで魔法を放った。
炎の弾が上流に方向にある大岩に当たって岩に焼け焦げた痕を作る。
アルカスは岩の上をピョンピョンと跳んで、そのままどこかへと行ってしまった。
≪工作王:正気かあいつ? それとも活動時間が滅茶苦茶長かったのか?≫
≪ニーテスト:いや、サバイバーと同じ4時間だ。魔力も500点だな≫
≪覇王鈴木:なあ、もしアルカスが人に危害を加えたら、ちょっとまずくない? この能力の持ち主のミニャちゃんに罪が及ぶぞ。他にも山火事を起こす可能性だってある≫
≪サバイバー:ああ、それに対岸に入っていったゴブリンを刺激するかもしれない≫
≪ネコ太:ホントだ! アイツ死なないかな!?≫
「ミニャのお人形、どっか行っちゃった……」
そんなコメントが流れる中、お人形さんがいなくなっちゃって、ミニャもしょんぼりである。
≪ニーテスト:ミニャ、『賢者召喚』の画面に、『賢者送還』っていうのがあるだろう? それを押してくれ≫
「うん……ぐすぅ……」
生放送を通して『賢者召喚』のコマンドメニューはわかっていたので、ニーテストがそう指示を出した。
ミニャは鼻を鳴らしながら、ニーテストの指示に従う。
≪ニーテスト:そうしたら、アルカスを選んで≫
≪工作王:まあ妥当だな≫
≪ネコ太:ミニャちゃんを泣かせるなんて、絶対に許さない!≫
初めての操作でミニャが手間取っていると、ふいにミニャのウインドウにお知らせの画面が現れた。それは全ての賢者たちも同様だった様子。
それにはこう書かれていた。
■■■■■■■■■■■■
【全体:システム】
『件名:女神セーフティ発動』
『アルカス』に女神セーフティが発動されました。ミニャのオモチャ箱から永久除名処分となります。
■■■■■■■■■■■■
その内容に賢者たちは驚愕した。
≪覇王鈴木:お、おう……≫
≪工作王:マジか≫
≪ネムネム:あれほど異世界に憧れてたのに……(*’▽’)ざまあねえや!≫
≪ネコ太:自分の欲望のためにミニャちゃんを泣かせたんだから当然だよ!≫
≪サバイバー:これ、アルカスは大丈夫かな? 発狂しちゃうんじゃないか?≫
≪ニーテスト:ちなみに、利用規約にちゃんと女神セーフティについて明記されてるからな≫
≪工作王:マジで!? 俺、読んでないんですが!?≫
≪ニーテスト:元スレで女神の書き込み規約を読めって書いてあっただろう≫
チャットルームが騒然とする中、お知らせの内容がよくわからなかったミニャが問う。
「ねえねえ、ネコ太さん。どういうこと? アルカスさんはどうしたの?」
言葉で伝えられたその質問は生放送を通じてネコ太の下へ届いた。
≪ネコ太:アルカスはお仕事で遠くに行っちゃうんだって≫
「にゃんですとっ! 突然っ!」
本当に突然である。
しかし、ミニャは大人の世界のことなどとんとわからぬ。賢者のこととなればなおのこと。
「そっかー」
≪ネコ太:だから、アルカスにバイバイしようね?≫
「うん。アルカスさん、バイバイ! 元気でね!」
バレバレなブラフ。
が、ミニャ、幼女ゆえにこれを通し……っ!
一方、賢者たちは理解する。
異世界に行きたいのなら、ミニャのためにお仕事をしなくてはならないのだと。
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