終話 変スラと、道ゆく中の、ユリ・アワケ
目覚めはとても清々しかった。
豪華なベッドの上で、私はなぜか裸。
周りには、金髪美女と、銀髪少女と、水色茶髪の美女と、ツインテールの赤髪美少女、緑髪の美少女に、黒髪美女と白金髪美女が裸で寝ていた。
私の周囲7方で、スヤスヤと寝ていたわ。
ふかふか、もちもち、ふわふわ、すべすべ、ぽよぽよ、むちむち、つやつや、ぷにぷに、やわやわ、ぷるぷる、つるつる、むにむに、さらさら、ぷよぷよ。
私はアウラの瞼にキスをする。
「アウラ、いつも私を助けてくれて、ありがとう」
私はメルの手の平にキスをする。
「メル、いつも私を守ってくれて、ありがとう」
私はロアのお腹へキスをする。
「ロア、いつも私を気遣ってくれて、ありがとう」
私はバーニィの手の指先にキスをする。
「バーニィ、いつも私の前にいてくれて、ありがとう」
私はアドの足にキスをする。
「アド、いつも私達のお世話をしてくれて、ありがとう」
私はミヤの頬にキスをする。
「ミヤ、色々なことを教えてくれて、ありがとう」
私はリカの髪にキスをする。
「リカ、あなたのことは、まだまだこれから教えてね」
「そんなぁ、天使様……私だけ何も無いのはツライですぅ〜」
私はジーッと、寝たフリをしているみんなに視線を向ける。
どうしたものだろうか。
リカ以外みんな頬が緩んでいる、と指摘しても良いのかな?
「リカ、いつも傍にいてくれてありがと。これからもよろしくね。ちゅっ」
今度はリカの鎖骨にチューしといた。
さすがにキスの意味までは知るまいて。
「2度も、2度も天使様にチューされました! これはもう、オッケーってことですネ!? 天使様の初めては私! 異論は認めません! さぁ、今日はおはようからおやすみまでぐんずほぐぶふぇっ!」
「こんの淫乱シスター! ちょっとは落ち着きなさいよ! ボスがドン引きしてるの見えないのかしら!?」
リカがバーニィを踏んたので、逆襲された。
当然の結末よ。
「皆様、相変わらず仲が良ろしいのですね」
またオトさんに見られてしまった。
音もなく忍び込むのは止めていただきたい。
え? ノックしたって?
いや、ノックしても反応無かったら入っちゃいかんでしょうに。
まぁ2度目なので、1度目よりは私も動揺しなくなっちゃったけどさ。
「それでは私も交ぜて――」
「ちょっ! それは待って!」
ダメよオトさん、上着を脱がないで!?
「もちろん冗談ですわ、チッ」
いや、目がマジでしたよ?
何なら舌打ちもしましたよね?
大貴族の娘として大丈夫なのだろうか?
ロアも背中越しに溜息を吐かないでほしい。
「ユリさん、みなさんもです。もうすぐお昼ですわ。軽食をお摂りになってくださいませ。その後、受勲式ですわよ。一刻後に執り行いますわ」
受勲式と聞いてアウラ、ロア、バーニィ、ミヤが飛び起きる。
「あるじ、時間がないぞ! ドレスを持ってくる!」
「お館様、着付けはお任せください――アウラ姐! ドレスは白だぜ!?」
「ドレスのこと考えると軽食は無理ね。ボスのお腹ぷにぷに……こんな美味しそ……じゃなくて弛んだお腹しちゃって! 諦めなさい!」
「局長、礼儀作法を叩き込むのさ。1発で覚えるんだよ」
「え!? 私、勲章とかいらないんだけど!?」
もう面倒事は懲り懲りなんだけど!
「ユリさん、安寧の土地を御所望とのことですが?」
オトさんに首を傾げられる。
……嫌な予感がする。
「叙勲を受けないと貰えないの?」
オトさんはニッコリして頷いた。
「勲章が土地証明他諸々の手続きを兼ねておりますわ。勲章の副賞がユリさんのお望みの土地、とお考えください」
くっ、確かに。
いきなり見知らぬ土地へ行って、ここは私の土地よ、なんて言っても現地人と揉めるだけ……むしろ他所から来た人達からもイチャモンつけられることを思えば、この紋所が目に入らぬか! 的な物があるに越したことは無い……。
私は甘んじて受勲の場に立つこととした。
ただ、この時の浅はかな私をぶん殴ってやりたい。
受勲式が始まる。
コルセットをキッツキツのギッチギチに巻かれ、胃が口から飛び出そうなのを堪えることに必死で、緊張のキの字も無かった私。
ウェディングドレスみたいなドレスを着させられ、どこにいたのかと思わせる程の貴族ギャラリーの拍手の中、カルラ大統領の前に跪く。
「ユリ・アワケよ! 此度の帝国戦、見事という以外にそなたを表す言葉は無い! 7匹のスライムを使役し、【七龍降臨】【黄金の波】を顕現させた功績は、広く世に知れ渡るだろう! その圧倒的力を以て、帝国軍を文字通り全滅! ローゼン・エルディンバラ第一皇帝は地に伏した! 対して共和国軍への被害は軽微……いや、無いと言っても過言ではない! そなたの受勲に対し、誰からも一切の反対も無し! よって、公爵と同等にして現在空座となっている【勇者勲章】を授けん!」
なんで私が【勇者】やねん!?
戦争中の話だけじゃなかったんかい!?
「すまないな、ユリ。だが、スライム達には事前に伝えてある。大喜びだったぞ?」
カルラ大統領が勲章を私の首にかける。
チラッと脇を見る。
アウラ、メル、ロア、バーニィ、アド、ミヤ、リカもドレスを着てギャラリーに混じり、涙しながら拍手していた……。
裏切り者ぉ!
「尚、勇者ユリよ。そなたの功績からして【第一勇者】となる可能性は高いだろうが、あくまでもこちらが勝手に決める序列。システム的な序列ではないゆえ安心すると良い。システム的にも認められてしまえば、魔王諸々の討伐にも向かわねばならなくなるからな」
変なフラグを立てるな!
ピコンピコン……ドゥルルルル……って音がする!?
やだ! 私はステータスなんて絶対に見ない!
……勝手に開くんじゃぁない!
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ユリ・粟毛
Lv1(MAX)攻1(MAX)守1 MP2(MAX)
テイマー(制限:スライムのみ)
変化(MAX)、付与(MAX)
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え? 変わってないじゃん。
ヨシヨシ。
ピロン♪
〘世界がアップデートされました〙
と、頭に響く機械音声。
は?
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ユリ・アワケLv99
STR1、AGI1、INT1、VIT1、DEX1。
【スライムを極めし者】【変化】
【付与】【異界からの導き手】【第一勇者】
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待って!
書き方変わった!?
何かステータスが詳しくなったよね!?
私は決心した。
こんなことやってくるなんて、神様の仕業よね?
アウラに指サインを送る。
アウラにだけ見せたつもりだったけど、メルも気付いた。さすがメルだよ。
「では、ユリよ。これから勇者ユリのお披露目パーティー、その後リリィ共和国内の勝利パレードの日程、諸外国への紹介手順等様々な――」
「カルラ大統領、その前に」
「どうした?」
「この服、限界……そろそろ……着替えを……」
私は今にもぶち撒けそうな顔をした。
カルラ大統領は一瞬固まる。
「そうか。そうだな。オトよ。介抱してやれ。別のフォーマルな服に着替えても良い」
「かしこまりましたわ」
いつの間にか私の横にやってきたオトさんに連れられ、私は自室に戻る。
「ユリさん、お疲れ様でした。ですが、もうちょっと辛抱してほしかったですわ。ユリさんもこれからは貴族。貴族の一員として――」
ユリさんは倒れた。
アウラによる手刀で一撃。
もちろん気絶しているだけ。
「良いのか? あるじ」
「うん。私は【勇者】なんて要らない。ましてや【第一勇者】なんて
私は首に掛かった勲章を置き、手紙を書き残す。
『私はしがない商業ギルドの一員として、世界を放浪し、私達だけの安寧の地を求めます。今までお世話になりました。オトさん、カルラ大統領、ありがとうございました』
ヨシ。
これだけ書いておけば良いでしょう。
私は窓を開け放つ。
ここは3階。
だけど関係ない。
「リカ! お願い!」
「任されました! 天使様! 皆さんも、早く乗ってください!」
私はリカの下から両手で中を掴む。
ビクビクって震えるのはヤメて?
そんなリカの上に、みんなスライム姿で乗る。
「よし! それじゃ、行くよ! みんな! 求めるは、私達の安寧の地! レッツゴー!」
ホーリースライム、リカと一緒に窓から飛んだ私達は、リカの力の限り飛ぶ。
逃げるのだ。
私は全てから逃げる。
神様の思い通りになんて、生きてやるもんですか!
南東へ。
ひたすら南東へ。
砂漠地帯を飛び越えて、私達は降り立った。
「さすが局長とリカ君なのさ。この砂漠越えは、風飛竜を使わない限り、1日での踏破は無理だろう」
後ろには砂漠。前には草原。
「アド、ここからはお願いね」
「はい、お師匠」
今度は電動キックボードみたく握り棒を突き刺したアドに乗り、草原を疾走する。私の頭の上に、みんなスライム姿で乗っているわ。
「あるじぃ〜、どこまで行くのだ〜?」
アウラの問いに私は少し考える。
変化するスライム達と、道ゆく中で、私は叫ぶのだ。
「どこまでもぉ! 行けるところまでぇ! みんなと一緒にぃ! のんびり楽しく暮らすんだもおおおん!」
私は上を向いて笑った。
頭の上に乗るスライム達は、私を見下ろし、ぷるぷると震える。
「だから、私は勇者なんて要らない! みんなにも、ついてきてもらうんだからね!」
「しょうがないあるじだ〜」
「マスター命令、了承」
「お館にはオレと――私が必要という事ですねぇ」
「ボスってば寂しがりや〜。しょうがないわね!」
「僕はお師匠とならどこへでも!」
「局長とならいつでもどこでも楽しめそうなのさ」
「私はどんな天使様でもお傍にお仕えし、支え続けます。この命ある限り!」
みんなの態度はヤレヤレだけど、声は嬉しそうで、私も嬉しくなっちゃった。
だから私はアドに指示を出す。
ひたすら南へ。
まずは国を出よう。
そして世界を旅して、辺境の地で落ち着くの。
スライムのみんなに囲まれた
だから、ごめんね。
バイバイ、リリィ共和国。
またいつか、またどこかで、会う日まで。
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