第四章 変スラと、道ゆく中の、ユリ・アワケ

第20話 約束

 豪華なベッドでの目覚めは、バッチリだったわ。


 だって、目を覚ましたら金髪美女と、銀髪少女と、水色茶髪の美女と、ツインテールの赤髪美少女、緑髪の美少年――じゃなくて美少女に、黒髪美女と白金髪美女が、裸で、私の周囲7方で寝てるのよ?


 ふかふか、もちもち、ふわふわ、すべすべ、ぽよぽよ、むちむち、つやつや、ぷにぷに、やわやわ、ぷるぷる、つるつる、むにむに、さらさら、ぷよぷよ。


 もう擬音が足りないわ。


 って、誰が私まで脱がしたぁ!?


 …………。


 ……ねぇ、リカ?

 なぜあなたは私の服を口に咥えているの?


「お楽しみのところ、大変申し訳ないのですが、そろそろ昼食のお時間ですわよ?」


 って、オトさぁああん!?


 起きた瞬間から感じていた視線。

 やっぱり幻じゃないよね!


 そりゃ目覚めがバッチリな訳だよ!


「ごめんね! はしたないよね! でも私の意志じゃなくて、なぜかみんな勝手にこうしてくれちゃうの!」


「恥ずかしがることはありませんわ。乙女の嗜みですわよ」


 オトさぁあん!?

 なんだか目がウットリしてなぁい!?


「おやかた……スマネェ、オレの初めては……その……オト様なんだ……」

「ロア? そんなカミングアウト今必要?」


 騒がしくしていたせいで起きちゃった吊り目のロアは、聞いてもないことを話してくる。

 困るから、そんなこと言われてもどう返したら良いのか分かんないよ私!?


「あるじが初めての者、手を挙げろ〜。はーい」

「マスター、私も」

「当然、ボスが初めてよ」

「あの、僕も……です!」

「あぁ……局長……私はスライムで……人では初めてさ」

「元シスターですので。純潔は天使様に捧げます」


 もうヤダこの頭の中ドスライムズ。


「私だって初めてなのよ!? そんなよく分からない内に、しかも適当な理由で相手にするもんですか! ……ハッ……」


 余計なことを言ってしまったぁ!


 目が……みんなの目が……怖いぃ!


 待ってオトさん!? その舌舐めずりはナニ!?


「局長、私のスキル【サクリファイス】は高級なほど効果が高いのさ。処女の破瓜の血は死者すら蘇らせ、幾万もの軍勢を滅ぼす力がある……ということを覚えておくと良い」


「今言う言葉はそうじゃないでしょうがミヤァア!」


 恥ずかしさで死にそうな私を殺す気か!


 オトさんもメモを取らない!


 変なフラグは立たせない。

 このフラグだけは絶対に圧し折る!

 私の命に懸けても根本から砕く!


「はい! この話はもう無し! 命令よ! さぁ、お昼ご飯をいただきにいきましょう!」


「「「「「「「は〜い」」」」」」」


 そしてみんなスライム姿になる。


 ミヤの提案で、人間姿で食事が摂れないのは口惜しそうだが、帝国の重要人物であるミヤ・ノーシロードが大統領府にいると帝国に知られるのはマズいとのこと。

 オトさんに姿は見られているが、名前は知らない。

 ロアもヒサメ公爵やダール子爵にすら話していないとのこと。

 なので、1人だけスライム姿だと怪しまれるので、みんなスライム姿で居ようとなったのだ。


 もっとも、スライム姿でもご飯を食べることは可能だ。なんなら味覚もゲットしたらしい。レベルが上がってゲットできたと、アウラは歓喜していたわ。


 ただ、人の姿で食器を使って、舌で味わい、咀嚼して食べる方が美味しいとのこと。


 揃いも揃ってグルメなスライム達である。


 スライム姿で良かったと思う者もいたわ。


 メル、アド、リカの3名。

 マナーなんて知らないって。

 ごめん。私も知らないよ?


「あるじ? マナーなど、汚く食べなければ良いだけだ〜」

「お館様はいつもの感じで大丈夫ですわぁ」

「ボスって食べ方キレイよね」

「バーニィ君の言う通りだよ。局長はそのままで良いのさ」


 マナー完璧勢からは放っておかれる始末。


 国で一番偉い人と食事……味わう余裕あるかな?


 長いテーブルに並べられた料理は、まさに宮廷料理そのものだったわ。

 西洋映画とかで見たことあるやーつ。


「ユリさん、作法などは気にせず食べてくださいな」


 オトさんに言われ、私はその言葉を鵜呑みにすることにした。

 ダメだと言われたら、全部オトさんのせいにしてやるもんね!

 私は手を合わせて言ったわ。


「いただきます」


 オトさんや大統領が一瞬目を丸くしたように見えたけれど、気にせず食べてやるわ。


 あぁ、お肉が柔らかい……。


 味も良し。今なら何でもお願い聞いちゃいそうな気分だよ。


「ユリよ。唐突な話ですまないが、どうかリリィ共和国のため、戦争に参加してほしい」

「ぶふっ! ゴホッゴホッ……」


 思わず吹いた。

 いつか言われると確信していたけれど、いきなり過ぎるよ。


「オトもすまないな。じっくり話したかったのだが、近日中……5日以内に、ローザ帝国が我らに宣戦布告すると、別の諜報員より連絡が入った。頼む。どうかリリィ共和国の未来のため、我らに力を貸してほしい」


 頭を下げる大統領。

 嘘を言っているようには見えない。

 

 オトさんも驚いているけれど、今それ言う? みたいな驚き方だ。


 切羽詰まっているのは分かるよ。


 でも、だからって戦争に加担するって……。


 みんなを巻き込んでまで……。


 アウラがぴょんと椅子から降りて、私の膝にぴょんと乗る。


「あるじの好きにしたら良い。だが、あれだけのことをしたのだ。あるじは帝国から追われるだろう。ここで大統領や共和国軍と共に、帝国を叩くのも手だ。辺境の地でのんびり暮らす。そのためにどうすれば良いか、あるじは分かるだろう? なに、私達のことは気にするな。こう見えて、人間よりは頑丈だぞ?」


 スライムアウラは笑っているように見えた。


「そんなこと言われたら……お願いするしかないじゃん。共和国のため、私のために、戦ってって。良いの? 私、ひどいあるじじゃない?」


「マスター、そんなことない」

「お館様のその想いが嬉しいのですぅ」

「こんなことで泣くなんてメンタルざぁこじゃないの? ……ま、そんなところが良いんだけど」

「お師匠は優し過ぎます。もっと頼ってください」

「ハッハッハ、言われているぞ局長。皆で一丸となる。それで乗り切るのさ。今までも、これからも」

「天使様の命令ならいつでも死ねます。そして死ぬなと命令されれば死にません。天使様、実は女神様だったりしませんか?」


 みんな、私の周りでぴょんぴょんしないでほしいな。

 涙が止まらないからさ。


 もう分かったよ。


「分かりました。カルラ大統領。但し、報酬を求めます」

「可能な限りの報酬を約束しよう」

「この戦争が終わり次第、十分に生活できる辺境の地を私達に提供してください。私が求めるのは安寧です。そのために、今回だけカルラ大統領に力をお貸しします」

「断れば?」

「帝国から追われる身であるのは変わりません。何としてでも逃げます。共和国からも。だから、今、約束してください」


 私の目は本気だ。


 それはカルラ大統領も分かったようだ。


「分かった。カルラ・フォン・リンネが個人として直々に約束しよう。戦争終結の暁には、広大で豊かな土地を与えると。をしてくれるということで、良いな?」


 私は頷く代わりに指示を出す。


「ミヤ。これよりカルラ大統領に帝国の情報を、必要なモノ、その全てを開示しなさい」


 ミヤが人型になる。


「局長命令、了承したのさ。改めて、私はミヤ・ノーシロード。元帝国宮廷魔導士だ。共和国のため、帝国のあらゆる情報を提供しよう」


 カルラ大統領は驚きの余り、グラスを倒して割る程に。

 オトさんも腰を抜かす程に、近衛兵達が思わず武器を構える程には、働けたみたいだね。

 軍会議では全員椅子をひっくり返したとか。


 うん、早速ができたね。


 もう約束は果たされたも同然。


 良かった良かった。

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