第18話 対城兵器

 運動神経皆無の私は、安全な所でジッとしているのが1番良いの。


 でも、今回は対城兵器とやらに細工をして、すぐに南に逃げる。


 だから私も付いてきた。付いて行かざるを得なかったわ。


「あるじと一緒に行動して正解だったな〜」

「なぜこんなにも哨戒兵が多いんだ? しかも慌ただしい。気付かれた……にしては動きは緩慢。何かあったかな?」


 私の頭に乗るアウラとミヤは唸っている。


 そこに先行偵察していたメルが戻って来る。


「情報収集完了。修道女を探しているらしい。昨夜から行方不明。ロア、バーニィ、アドは定点に置いた。しばらく監視させる」


 4人で行って戻って来たのがメルだけだったから、ちょっとビックリしたよ。


 それにしても……私は周りを見て、空を見る。


 天井も、壁も、何もかも真っ白な場所。


 特施で働く女性達も、みんな白衣。

 色があるのは髪の色だけ。


 私もミヤとバーニィの忠告で白衣を用意したから、目立つことはない。


 むしろ、スライム姿のアウラ達の方が目立つわ。


「修道女が? なぜかな?」

「バーニィ曰く、定期的に備え付けの教会でミサを行う。司祭は来ないが、代わりにシスターがやる」

「あー、確かに。数少ない娯楽の1つ……というのは聞こえが悪いな……行事の1つだね」


 ミヤはスライム姿で触手を出し、腕のように生やして組んで考える。


「そのシスターが姿を消したということだな? タイミングが悪いな〜。どうする? あるじ、ミヤ」


 アウラがぷんぷんしている。

 やりにくいのは間違いないからね。


 ただ、その時突然、哨戒兵達が騒がしくなった。


「いたのか? 何があった?」

「ホーリースライムが出たらしい。飛び回っているそうだ」

「なんだこんな時に面倒臭い」

「そう言うな。モンスターの侵入、その討伐は仕事だろう」


 兵士達は走って消えた。


「ホーリースライムってナニ?」


 私はミヤに聞く。


「私と対なるスライムだね。ステータスは弱いが、なんと飛べるのさ。聖属性の魔法も得意なはずだ。対悪魔やアンデッドには欠かせない存在になるだろう。とんでもなく珍しいスライムなのだが……環境的には住みやすいだろうね。真っ白だから」


 へー。色んなスライムがいるんだね。

 白くて外では目立つけど、ここでは擬態されたら分からないかも。

 でも、おかげで兵士がいなくなった。


「よーしあるじ、今の内に探すぞ〜。ミヤも早くアタリを付けろ〜」

「任せるのさ!」

「マスター、私も頑張る」


 私はスライムアウラ、メル、ミヤを白衣に隠しつつ、内部を探ったわ。


 …………。


 しばらく探したけれど、全然見つからない。


「うーん、この付近のドームにあると思うのだよ。他のドームは立地も効率も悪過ぎるのさ……うーん」


 ミヤは人型で悩んでいる。


 今はドームの外の茂みの中だよ。


「ロア、バーニィ、アドからの定時連絡。異常無し」


 メルからも変わり無しと報告。


「あるじ、あまり時間をかけていられないぞ。このままリリィ共和国に撤退の選択肢も入れるべきだろう」


 アウラの言う通りだ。

 それはミヤも分かっていると思う。


「覚えのある場所は粗方見たのさ。これ以上の深入りはリスクが高いか……では撤退準備に入ろ――」


 バサバサと、翼の羽ばたく音がした。


 そこには真っ白で真ん丸な寒天――もといホーリースライムがプルプルと震えながら佇んでいた。


「ホーリースライム? どうしてここに?」


 私が尋ねると、ホーリースライムは真っ白な翼をバサバサと羽ばたかせた。


「あるじ! 目立つぞ!」

「え!? 白スラちゃん! ちょっと動かないで」


 私がそう言うと、そぉっと翼を閉じてくれた。


「マスターの言う事、理解している。この子、偉い子」


 メルが興味津々で白スラちゃんの頭を撫でている。


「もしかすると、このホーリースライムは何か知っているかもしれないね。局長、テイムできるかな?」

「どうだろ? 結構成功率低いんだよね……」


 白スラちゃんはまた翼を羽ばたかせた。


「テイム拒否反応だよコレ!? 落ち着いてぇ〜」


 私が小声で叫ぶと、白スラちゃんは申し訳無さそうに左右に体を振る。


 どういう事なのだろう?


 白スラちゃんは、翼をそぉっと、私の手に伸ばした。


「あるじ、このスライム、テイムされたがっているぞ? 多分」

「私もそんな気がした。だから、テイムするね。全力全開! えいっ!」


 白スラちゃんは光った。テイム成功みたい。

 いつもの儀式も始まった。

 今回骨は見当たらない。

 

 白スラちゃんは骸骨をペッペッペッと吐き出し、ムシャムシャと食べた。


 また? 最近流行ってるの?


 ミヤもそうだったし。


 白スラちゃんは早速輝き始める。


 程無くして、輝く白い長髪のうら若き乙女に変化した。


 いつもの真っ裸だよ。


 おっぱ……普通かな?

 腰……普通かな?

 お尻はプリッと……普通かな?

 いや、私の周りがオカシイだけで、普通こそ正義。

 普通こそ、私の求める平和だよ!


「……わたくしめに名付けを」


 ホーリースライムだから……。


「リカ。あなたはリカよ」


 もう名前も普通で良いわ。

 普通で良いのよ。

 普通って、幸せ。

 普通に美女なんだから、名前くらい普通で良いと思う。


 歩み寄るリカは、普通のありがたさに感謝している私の前に膝をつき、手を取って、甲へと誓いのキスをした。


 リカのステータスが明かされる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

リカ

Lv70 攻10 守10 MP1000

ホーリースライム、変化(MAX)

付与(MAX)、天の遣い

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はじめまして、リカ。私はユリ。あなたをテイムした者よ。とりあえず、服を着てほしいかな」


 なぜいつも裸なのか意味が分からないけれど、服も変化できることは知っている。


「それは御命令ですか? 天使様」


 天使様? どこにそんな神の次に偉いみたいなヤツがいるの?


「私は天使じゃ……」

「いえ、あなたは私の天使様です! 私の元の名はマリカ・キャノン。しがない修道女でした。暗殺されてしまいましたが、ホーリースライムを遣わし、私を救ってくれたのは事実です! それもまた人の姿にまで……うぅ。元の名前は捨てましょう。それが天使様の御心なれば、私は従うまでです」


 前言撤回だよ! 全然普通じゃない!

 見た目だけが普通のパターンかな!?

 中身が普通の、アドくらいしかいないじゃん!

 アドもアドで普通だから私を惑わすんだけどさ!


「あるじ。ここは効率優先だ。天使様ということにして、色々と聞き出せ」


 アウラに耳打ちされる。

 ミヤもメルも頷いている。


 くっ、ここは心を鬼にして、やるっきゃない。


「リカ、あなたの力が必要です」

「はい、なんなりと! 脱ぎますか? あ、もう裸ですね。全てを晒しましょうか?」


 待って。聞いてないことをやろうとしないで。

 ヤバい、この子を普通と思ったさっきの私を思いっ切り殴ってやりたい。


「いいえ、今はそんなことより、服を変化で着なさい」

「え? 良いのですか?」

「早く」

「はひぃ!」


 ねぇねぇ、リカだけじゃなく、アウラやメル、ミヤまでガタガタすることは無いんじゃないかな?


 リカはすぐに白の修道衣を着た。


「リカ、あなたは特施に運び込まれた帝国の兵器を知らない?」

「帝国の兵器? さぁ……」


 私達はガクッと肩を落とす。

 まぁこれで分かれば苦労は……。


「ただ、教会のステンドグラスの向こうを見て……何があったかは覚えていないのですが……何者かに刺されたのを記憶しておりますわ」


 リカの言葉に、私達は顔を見合わせた。


 メルはすぐにロアやバーニィ、アドに指示を出す。

 向こうは向こうで合流し、そのまま直接来るようだ。


「あるじ、行くぞ」

「局長、空から行くよ。ホーリースライムにはその力があるはずさ」


 アウラとミヤはスライムに変わる。


「え? リカって飛べるの?」


 リカはホーリースライムに変わった。

 そして翼を広げる。


「もちろんです。天使様より授かりし翼。行けない場所はありませんわ」


「あの……リカ、どこに乗ったら良いのかな?」


 翼には乗れないし、頭に乗るのかな? 掴めるところ無いよ?


「私の頭にお乗りください。頭の中をガシッと掴んでいただければ固定されますわ」


 え? 頭の中?

 私はリカの頭に跨り、頭の中に両手を入れる。

 あ、なんか掴めた。


「ああ! 私の頭の中に天使様がぁ! あへへぇ」


 この娘ダメだわ。やっぱりダメだわ。他の娘達と比べても抜群の変態だわ。

 この娘、シスターなんじゃないの?


「では天使様、他の皆様も準備はよろしいですね? いきまーす!」


 私の肩に乗るアウラとミヤ。


「とんでもなく濃ゆいのが来たな、あるじ」

「私も人の事は言えないが、ちょっと何かした方が良いかもしれないね」


 私の両耳で不安なことを呟かないで。


 ともかく、私達は特施の教会に降り立った。


 哨戒の兵士達は、ドーム内を捜索しているようで、空を飛んでいてもバレることは無かった。


 茂みの中からバーニィとロア、アドが人型で現れた。3人とも白衣を着ている。


「空からスライムって……ホーリースライムじゃない。またレアなスライムテイムしたのね。さすがボスだわ」

「はじめまして皆様、リカと申します。天使様のおかげで、人の姿を取り戻せました。天使様の御命令であれば、何でも、全て、言われるままに従いますわ」


 バーニィが私に寄ってくる。


「……ねぇ、ヤバくない? ボス、ヤバい宗教に手を出したら身を滅ぼすわよ?」


 言わんとすることは分かるよ?

 

 ロアもアドも心配顔で頷く。


 リカも見てるけれど、気にせず笑顔だわ。


「今はコッチ優先で。リカ、案内できる?」


「はい、皆様、こちらへ」


 私達はリカの案内で、教会に入り、ステンドグラスの裏側へと行く。


 人はいない。


 そこには、地球人なら誰もが知っている大きなモノがあった。

 それも複数のソレ。


「正しくコレだ。すぐに取り掛かるのさ。少し待っていてくれ!」


「ミサイルじゃん……」


 ミヤ曰く、魔力を原動力に発射する対城兵器らしい。

 誰がどう見てもロケットなミサイルだよ。


 無理をしてまでここに来て、本当に大正解だった。

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