第三章 7匹のスライム
第13話 普通の商人になりたいだけなのに
テントでの目覚めは、またもや意味不明だったわ。
だって、目を覚ましたら金髪美女と銀髪少女、水色茶髪のグラドルに、赤髪ツインテールの美少女が、裸で両隣と頭の上と脚の間に寝てるのよ?
ふかふか、もちもち、ふわふわ、すべすべ、ぽよぽよ、むちむち、つやつや、ぷにぷに。
これ男女とか絶対関係なくて人類全てが願うヤツ。
思わずアウラとロアの谷間で顔を挟まれる。
敢えて言おう。このまま死んでも良い。
ここはもう天国だ。
「ふふん、お
吊り目のロアに頭をギュッとされる。
息が……。
デジャヴだけど良い! もう構わない!
「あるじは私のだ!」
アウラに剥がされる。ほっぺを膨らませるアウラ、可愛い。
「マスター、やっぱり、私に興味無し」
「ねぇどうして? どうして男のみならず、ボスもおっきい方に
これ以上こうしていたら、きっとテントは爆発する。
私は命の危機を感じ取り、冷静さを取り戻した。
「大丈夫、私はメルもバーニィも大好きよ」
しょげて怒りを見せていたメルとバーニィの頬が緩む。
本人達も自覚したようで、背を向けてほっぺを整えようと必死だった。
対してアウラとロアは屍になっていた。二人とも真っ白。なんで?
「私はみんなが大好きだよ。こうして私を励ますためにみんなで寝てくれるんだもん。ありがと。怖かったけど、もう大丈夫。みんなのおかげだよ」
私は笑顔でお礼を伝えたわ。
アウラとロアは満足そうに頷き、メルとバーニィはなぜか不満そうだったけど、納得してくれたわ。
私は外に出る。
朝日が眩しいわね。
着替えたアウラが出てきたわ。
「あるじ。これからどうする?」
「一旦アントワープに帰るわ。お金も無いし、人数も増えたから装備や備品を揃えないと。それに、いい加減お店も出さないと商業ギルド追い出されちゃう。あとワイルドローズ全滅ってことをダールさんにも言わないと」
やる事いっぱいだ。
「しばらくはアントワープで過ごすことになりそうだな。ゆっくりしたいが、忙しくなりそうだ」
アウラもやる気十分ね。
そこにバーニィが口を出す。
「ボス、一応気を付けなさい。すぐに何かをしてくる余裕は無いと思うけど、アイツラしつこいんだから」
アイツラとはワイルドローズのことだよね。
「だからダールさんを頼ろうと思って。オトさんも協力してくれるだろうし。お互いにデメリット無いし」
「あー、そうよね。アントワープの子爵と領主と繋がりがあるのよね。それならまぁ心配ないか」
「バニちゃん。お館様の心配とは殊勝なことですぅ」
「そりゃそうよ。ボスに何かあったら、一生スライム生活よ?
バーニィだけじゃなく、他のみんなも頷く。
そっか。私だけなんだよね。
変化と付与の両方が無いと、みんなはこうして生きていけないんだ。
「私の責任重大だね! 頑張るよ! みんなと仲良く平和に暮らすために!」
私はみんなに宣誓し、アントワープへと戻った。
ただし、ロアだけ先行して。
「アウラ姐、お館、ちょっと野暮用済ませてくるぜ」
それを聞き、私は金ピカアウラを肩に乗せ、サンドスライムでアントワープ近くに戻る。
サンドスライムは岩場付近で生活させるみたい。
私達は消耗した物品を最低限買い揃え、商業ギルドへと向かったわ。
「すみません、カノーコで登録したユリ・アワケです。こちらでの活動登録と許可証の発行をお願いしたいのですが」
そして受付嬢に商業ギルドのプレートを出す。
「しばらくお待ちくだ――」
プレートを何かの機械に通して情報を見ているらしいのだけど、受付嬢の時間が止まったわ。
「しばらくお待ち下さい! ギルドマスターを呼んで来ますので!」
素早く起立し、ビシッと礼をして、奥の階段を駆け上がる受付嬢。
何かマズいことしたっけ?
すぐにドタドタと階段を下りる音がして、目の前にはオレンジ巻き髪ミドルヘアーの女性がいた。
「お初にお目にかかりまーす。交易都市アントワープ、商業ギルド長、ミグ・ヤーダンでーす。ささ、ユリ様はこちらに」
ユリ様? 嫌な予感しかしないよ?
通されたのは質素な感じではあるけれど、応接間だった。
どうぞ、と言われて椅子に座る。後ろにはアウラ、メル、バーニィが立っていたわ。
「早速ですが、こちらをー」
サンタさんが背負うような袋が3つ。
その内1つの中を見せてくる。
「あら? 銀貨じゃない? 普通金貨でしょ?」
バーニィも覗き込んでそう言ったわ。
「……カノーコの黄金龍は御存知ですか?」
私とアウラとメルはビクッと身体を震わせてしまった。一瞬だけ。バーニィは首を傾げる。
「御存知のようですね。黄金龍そのものは首都アルストロメリアの大統領府に輸送される予定ですが、ゴールデンスライムの残骸が多数ありまして……全てが金なのです」
そこまで言われれば意味は分かる。
「金が大量に出現したので、金貨の価値が落ちるということですね?」
私の言葉に、ミグさんは頷いた。
「そのため、銀貨でお支払いします。通常の商売であれば、銀貨の方が使い勝手が良いでしょう。これはダール子爵からの報酬です。お収めください」
ダールさん……多過ぎ……。
「そして、領主ヒメカ公爵閣下、オト様からも報酬が出ております」
なんですって?
「こちらの場所へお向かいください。それと商業許可証になります。自責により紛失された場合、再発行は銀貨100枚になりますので、大事に保管してくださいませ。今後とも是非ご贔屓に」
商業ギルドのマスターから頭を下げられる新米商人って何なの?
私は訳も分からず、ミグさんから渡された地図の場所へと向かう。
3階建ての石造りの家。
1階は店舗として使えそうな広さ。
まだ何も無い。
ここは何なのだろうか?
ここでしか渡せないモノなのかな?
「おかえりなさいませ、お館様」
でも、そこに居たのは垂れ目のロアだった。
さらに、複数のメイドが突然現れ、一斉に礼をする。
「おかえりなさいませ、ユリお嬢様」
は?
驚いているのは私だけである。
アウラもメルもバーニィも、満足そうに頷くだけ。
「え? 何なの? これ、何なの?」
私はアウラ、メル、バーニィに顔を向け、最後にロアを見る。
「あるじ、これがヒメサ公爵の礼だろう」
「メイド付、ワイルドローズ壊滅の追加報酬と見た」
「良いじゃなぁい。ここでも貴族生活ができるなんて、もっとボスと仲良くする理由ができたわ」
「みなさんが推察する通りですぅ。建物は公爵閣下より、メイドはオト様よりいただきましたぁ。好きに使ってくれて良いそうですよぉ」
さすが貴族。やる事が違う。
「ではあるじ、銀貨はメイドに預けておくぞ」
アウラに続き、メルもバーニィもメイドに銀貨の大袋を預けたわ。
「え? え? その銀貨でこれから商売をするんじゃ……」
メルに背中を押される。
「マスター、こんな1等地、このメイドの数。他にも何かある」
「うぇえ!? でも私、商売しないと商業ギルドを追い出されちゃうよ!?」
バーニィにも手を引かれる。
「そのためのメイドでしょ? ナニ日和ってんの? ボスなんだからシャキッとしなさいよ。それとも言われたいの? ざぁこざぁこって」
「ザコでも良いから! ちょっとはゆっくりさせてよ! まだ何かあるの!? ねぇ誰か教えてぇ!?」
ロアは申し訳無さそうに笑った。
「ふふ、お館様、申し訳ありません。もう少し……子爵のため……ひいてはお館様のためです。お話だけでも、聞いてやってください」
そしてロアに頭を下げられる。
私はがっくりと項垂れた。
乗り掛かった船だ……。途中下船なんてできる訳がない。
私は前を向いた。
ダール子爵家に再びお邪魔する。
そして、お願いされたのだ。
ローザ帝国の状況を調べてほしいと。
つまり偵察だよ。
きな臭いのは分かるわ。
でも私にその役目って、重過ぎない?
「そんなことはありません。ユリさんこそが、適任なのです。メルさん、バーニィさんも適任とロアより聞き及んでおります。どうぞ、よろしくお願いします」
何が適任なのか意味が分からなかったが、すぐにその意味を知ることになったわ。
アントワープの北、ローザ帝国の南。
ここは緩衝地帯となっており、ここにはリリィ共和国の女商人や、ローザ帝国の男商人が出入りできるエリアとなっている。
冒険者の単独での立ち入りは許可されない。
貴族は全て、外交以外では許可されない。
但し、商人だけは出入り出来る。護衛は2人まで。
だから私は、その緩衝地帯で偵察を頼まれたのだった。
アントワープの北へ馬車で行く。
国境町のシーボルを越え、ローザ帝国へ。
私は水と食糧を売る商人として、ツンベルという町で交易許可証を発行してもらう。
そして、エラブという村に辿り着いた。
誰も、私やメル、バーニィには目もくれない。
そう。私達は男装しているの。
とは言っても、男っぽい服を着て、髪を整えているだけ。
何が適任なのか? 私もメルもバーニィも理解した。
口には出さない。
私達は前を向くの。
下は見ない。
重力を感じない胸なんて、絶対見てやらないんだから!
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