間章〜伝説のスライム四天王

 訳の分からない緊急連絡が来た。


『メーデー! メーデー! ゴールデンスライムが――うあああ!』


 イーノ支部とは、これで音信不通。


『襲撃! 襲撃! メタルスライムに――うあああ!』


 サーイ支部とは、これで音信不通。


『ロックスライムと、アクアスライムの化け物が――ああああ!』

『レッドスライムが裏切っ――ぬあああ!』


 ウーイ支部、サーウ支部も音信不通になった。

 国境支部とはそもそも音信不通だ。


 緊急会議が行われる。


 幹部が勢揃いだ。


 アジトに配属されれば、そこの首領が約束されている方々しかいない。


「連絡係、状況を報告せよ」


 何を報告すれば良いんだ?

 ありのままの事実か?


「各支部、スライムにより壊滅致しました」


「そんなことは聞いとらん! なぜ、スライムなんぞに目を付けられ、それのみか支部が壊滅になるのかと聞いている!」


 そんなこと、一連絡員の私が知る由もない。

 それでも答えるがな。上司命令だ。


「どれもスライムの特殊個体です。レッドスライムが寝返ったことから……テイマーの存在が疑われます」


 レッドスライムだけでも危険なのに、つい先日S級モンスターに格上げされたメタルスライムまでいる。

 ゴールデンスライム? 私は夢でも見ているのだろう。働き過ぎだ。


「チッ、そんな高レベルテイマー、共和国内にいたか? 少なくとも、アントワープにはいないはずだ。極秘に入手したリストにも記載は無かった……共和国め……リストを偽造した……いや、記載していないテイマーがいるな?」


 幹部は怒っている。

 気持ちは分かる。私も怒りを覚えている。

 だが、帝国も同じだろう。

 だからたゆまぬ努力で敵国の情報を探る。

 

 奴隷として送り込んだ男共はそのためのモノだろう?


 それを最近は女をさらって遊ぶことばかり。

 遊んだ女を売るから売上げも落ちる。


 なるべくしてなったんだろう。


 こんな上司の下についた我らは不幸だ。


 未だにこの本拠地を捨てるか維持するかで揉めている。


 支部が全て同時にやられたのだ。


 本拠地の場所も割れているに決まっている。


 私は逃げるぞ。


 この伝説級のスライムの情報を、首都へ持ち帰らねば。


 だが、判断が遅かった。


 この会議室には、四方に扉がある。


「ほぉ、皆同時とは。メルはともかく、ロアもバーニィもやるではないか」

「確かに。アウラ先輩と一騎打ちのつもりだった。マスターに掛ける意気込みは本物。敬意に値する」

「お館にはオレだってやりゃデキるとこ見せとかねぇとな! アウラ姐やメル姐にゃ負けねぇよ」

「ふんっ! 新入りだからって甘く見たわね! ここから一気に巻き返すわ!」


 本物だ。ゴールデンスライム、メタルスライム、ロックスライム、レッドスライムだ。


 私は床を開け、緊急避難通路を全力で走る。


「ふはははは! 我らスライム四天王! 貴様ら、あるじのため屍となれ〜!」

「処す。処す。マスターのため。処す。全て、私が処す」

「ひゃっはー! お館ぁ! 今夜は宴だぜぇ!」

「あたしをもてあそんだ恨み! ザコのくせに! 全員死んじゃえぇ!」


 断末魔の叫びが後ろから聞こえる。


 必死で、逃げた。

 幹部達の叫び声が私を捕まえようとする。

 だが、逃げる。

 振り返る暇なんて無い。

 突き当たりの長い梯子を登る。


 そして、地上に出たのだ。


 下には本拠地が見えた。


 だが、猛烈な光、そして爆発。

 熱風が私を襲う。


 ひっくり返ったが、私は無事だ。


 見る。その悲惨な光景を。


「だが、この爆発。あのスライム達も無事では――ひっ!?」


 4匹のスライムは、全員無事。

 さらには、横並びで隊列を組み、颯爽と去っていった。


「伝説のスライム四天王……これを束ねるテイマーがいる! あの共和国に、これ程の脅威が……なんとしても報告せねば!」


 私は走る。頭を空っぽにして、ひた走る。


 町で馬を買い。潰れるまで走らせた。


 そこからは、また走る。


 そして首都、ギガンティアへ着いた。


「貴様、何者だ!?」


 憲兵に取り押さえられる。

 だが、それで良いのだ。


「ローゼン皇帝陛下に……お伝えを……。共和国……伝説のスライム四天王に……お気を付け……くださいませ……と」


 私は力尽きた。


 しかし、やり遂げたのだ。


 連絡係としての役目を。


 私の生涯に……悔いなど無い。


 全てはローザ帝国のために。


 帝国に、栄光あれ。

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