第12話 北の爆心地

 レッドスライムのバーニィに言われ、オトさんも連れて外に出る。


 そこでは、メルとメタルゴーレムが未だ戦闘を続けていたわ。


 メルは人型のまま、大振りの攻撃を躱し、テイマーに向けて攻撃を放つ。

 テイマーは右手のバックラー、左手の手甲でメルの攻撃をいなす。

 メルの攻撃は見事に防がれていた。


「相手は手練れだな。ゴーレムを使いこなし、自身も完全防御に徹している。あれではメルも攻めにくいだろう。メル!」


 アウラはメルを呼んだ。

 メルはメタルゴーレムの攻撃を後ろ宙返りで躱し、こっちに下がってきた。


「このままだと不利。スライムならそこそこ戦える。マスター、指示を」


 私は腕を組む。

 考える。


「んぁあ!? 人質が……てめぇら! 首領達を……何しやがったぁあ!?」


 でも考える時間はない。

 メタルゴーレムが迫ってくる。


「ボス、私がやるわ。いいえ、ヤらせて。私はアイツに殺されたから」


 バーニィが、私の前に立つ。

 紅のローブが靡く。服はもう着せているわ。

 その背は、復讐に燃えていた。

 だから、言ったの。


「やっちゃえ、バーニィ! 全力全開! それが私の命令よ!」

「おっけー、ボス。パイセン達は、そこで見てなさい!」


「なぁにをゴチャゴチャとぉ! 死ねぇ!」


 メタルゴーレムは、バーニィを踏み潰す。


 私達は急いで離れた。


 え? バーニィぺちゃんこになっちゃった?


「これで雑魚がいっぴきぃ! んぁ?」


 メタルゴーレムの肩に乗る男は、メタルゴーレムの足の違和感に気付いた。


 でも、遅かったの。


 メタルゴーレムの右足の下から、炎の槍が天に発射される。


 メタルゴーレムの右半身は吹き飛んだ。

 体勢を崩し、左に倒れ込む。


「くそ! くそっ! こうなりゃ……くっ!」


 あ、逃げた。

 メタルゴーレムを捨てて、男は逃げた。


「はぁ? あんたバカじゃないの? 逃がす訳ないでしょ?」


 バーニィは男の前に回り込んでいた。


 男は腰の剣を抜き、バーニィに斬り掛かる。


 肩からザクッと斬られた。


 まぁスライムだから無事なのは知っているわ。


「ま、こんなものよね。ざぁこ。バイバーイ」


 バーニィは炎の槍を持ち、振り上げた。


 男は真っ二つになって、燃えて消えた。


「さすがレッドスライム。いとも容易くメタルゴーレムを貫くとは」

「うらやましい。あの攻撃力。あの力があれば、もう何も怖くない」


 金ピカアウラは私の頭の上に、メタルメルはアウラの上に乗っている。


「ふふん、こんなもんよ……ってメタルスライムもいるの!? なぁに!? ボスってホントにボスなのぉ!?」


 ロックなロアはメルの上に乗って言う。


「そうだぞ! お館はオレ達を束ねるスゲェヤツなんだぜ!」

「はぁ? あんた誰よ!?」


 ロックなロアはアクアなロアへと変わった。


「私よぉ。うふふふ」

「ふぇああ!? ロア……様!?」

「こっちへいらっしゃぁい」

「はひぃ!」


 そしてバーニィはアクアなロアの上に乗る。


 どうして、だんご四姉妹なったの?

 さすがにちょっと重いわよ?


 オトさんも呆れて溜め息吐いてるじゃない。


「この後はどうされるおつもりでしょう?」


 オトさんだけじゃなく、私の頭の上に乗るスラちゃんズの視線も感じる。


 私も、はぁ、と溜め息を吐いた。

 オトさんを見て言ったわ。


「北へ。北へ向かいます。バーニィは、ローザ帝国貴族の娘なんですよね? 放置すれば狙われます。だから私達はワイルドローズの本拠地を叩きます」


 オトさんは、私達に頭を下げた。


「御健闘を祈ります。無事に片付いた暁には、どうぞアントワープへお戻りください。お待ちしておりますわ」


 オトさんは荒野の向こうを見る。

 そこには、土煙が昇って見えた。


「さぁ、お行きなさい。公爵家の私設騎士団ですわ。このままだとアントワープへ皆様揃って来てもらわねばなりません」


 私は頭を下げた。

 そうしたら、みんなが雪崩のように落ちた。


「あるじ〜」

「マスター」

「お館さまぁ」

「ちょっとボスぅ!」


「みんな、ごめんネ」


 私がそう言うと、みんな揃ってヤレヤレポーズ。わざわざ触手まで出してジェスチャーするんだもん。


「では行くぞ、あるじ。サンドスライムを呼ぶ」

「マスター。私頑張った。ご褒美、ご飯を求む」

「お館様、バーニィの面倒は私が見ますわぁ」

「えぇ!? いやよ! ボスが良いわ! ボスぅ!」


 スライムが4匹になると賑やかね。


 私はアウラが呼び付けたサンドスライムを履いて、出発する。


「オトさん、公爵閣下や、ダール子爵にもよろしくお伝えください」


「あの、お名前を伺っておりませんわ!」


 去ろうとしたところで言われた。チッ、バレた。

 まぁダール子爵を問い詰めたら分かる話だもんね。


「私は、ユリ。ユリ・アワケ。ただの田舎娘です。それでは」


 私はヘルメット型のメルを被り、スライムバーニィを抱く。

 なんだか温まるわ。

 アウラは人型になり、吊り目のロアを肩車して出発する。

 ロアは人型で風を切るのがお気に入りみたい。


 でも、垂れ目のロアになって私に一言。


「バニちゃん。お館様にナニかしたら……ね?」


 スライムバーニィは縦に高速プルプルした。


 垂れ目のロアは、うふふふと言って吊り目に戻った。


 私達は北へ真っ直ぐ向かう。


 サンドスライムは便利なことに、私が寝ていても動いてくれるらしい。


 だから食事や休憩以外はサンドスライム運送にお任せだよ。


 ほぼ48時間、走りっぱなしで着いた。


 国境は無断で越えた。向こうも無断越境だし、文句を言われる筋合いは無い。


 メルが偵察から帰って来る。


「あの場所はアジトで間違いない。ただ、本拠地じゃない。支部。どうする、マスター」

「まずは潰そうか。本拠地や他の支部の情報もあれば良いけど」


 私の即決に、なぜか『おぉ』と驚かれ、拍手された。


「了承。アウラ先輩、バーニィ、行く。ロアはマスターを」

「ふっふっふ、あるじ、吉報を待っていろ」

「あたしがいるならよゆーよ。ボスはふんぞり返って待ってなさい」

「お館のことは任せな!」


 そして吊り目のロアと私がお留守番。


 支部は突入から3分で……爆発した……。


 爆風を背景に颯爽と歩くアウラ、メル、バーニィは何だか絵になったわ。


「支部は残り4箇所、本部が一箇所。逃げられたら困る。今すぐ潰しに行く。あとバーニィ、爆破は人質がいないことを確認してから。今回は人質いなかったから良かった」


 メルの言葉に、私はロアへと微笑みかける。

 垂れ目のロアはニッコリして言ったわ。


「あらあらバニちゃん。おいたはダーメ。今夜は二人っきりで――」

「いやぁぁああああ!」

「それが嫌ならば任務をやり切ることだ。無事に全て終われば口添えしてやろう。ロアもやるぞ。4支部同時に落とす。その後、本拠地に乗り込むぞ」

「競争。マスター、ご褒美求む」


 私は考えた。

 何が良いだろうか?


 うーん、ご褒美じゃないんだけど、試しに言ってみよう。


「私と二人っきりでディナー。そのまま一緒に寝てほしい……かな?」


 ちょっと怖い事が続いているから、夜一人じゃ絶対に寝られない。

 そう、これはお願いだ。夕食を一緒に食べる代わりに、一緒に寝てほしいっていうこと。


 アウラもメルも、ロアもバーニィも私から背を向けていた。


 あぅ……やっぱりドン引きだよね……。


「私がトップで本拠地も落としてみせよう。あるじ、待っていろ」

「マスター。私がやる。アウラ先輩にも負けない」

「お館、今の言葉、ぜってぇ忘れんなよ。――私も本気出しまぁす」

「ボスを篭絡できるチャン……ゲフンゲフン、その歳で寂しがり屋? ざぁこざぁこ。あたしがヨシヨシしてあげよっか?」


 ん? みんなの背中が燃えてる?


 4人は互いをキッと睨み合い、スライムになる。

 そして4匹のサンドスライムに1匹ずつ乗って、各地に散開した。


 日が暮れ始めた頃に、みんな帰ってくる。


 私は全部の食材や香辛料を使って、カレーっぽい料理を作って待っていた。


 みんな笑顔、無事にワイルドローズの本拠地も壊滅させたらしい。


 私はみんなにカレーっぽい料理を振る舞った。


 みんな美味しいって食べてくれたよ。


 狭かったけど、みんなでテントで一緒に寝た。


 アクアなロアのおかげで、シャワーくらいは浴びることができた。


 サッパリして、みんなで雑魚寝。

 もちろん、みんなはスライム。


 たくさん色々あって、怖いモノもたくさん見たけれど、みんなと一緒なら大丈夫。


 これからも大丈夫。


 みんな、ずぅ〜っと、一緒だよ。


 私はまどろみの意識の中、心地良い眠りに就くのだった。

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