第11話 赤の地

 人攫い集団、悪の組織『ワイルドローズ』のアジトへ潜入した私達は、洞穴の陰に身を潜めながら先へと進む。


 男が1人こっちに来る。


 外のテイマー男が叫んだので、様子を見に出ようとするのだろう。


 通り過ぎたところをアウラが一閃。

 男の首が飛ぶ。


 スライムのロアが首をキャッチして、男の体だけ捕食する。

 そして首を台のように突出している岩の上に置く。


 なんで!?


 次の男がやってきた。


「おい、そんなところに突っ立ってどうした? 外を見に……ひいぃぃい!? あぶぇっ!」


 暗くてよく見えなかったのだろう。

 近付いて、やっと生首だけになっているのが見えたようだ。

 もっとも、アウラにまた首を飛ばされたみたい。


 私? 暗くてよく見えませんよ。

 音だけ。

 ホラー映画を見てると思えば、なんてことない……。


 しばらくは一人で眠れなさそうだよ。


「お館、もう食えねぇから、身体、ここに置いとくぜ? コケるなよ?」

「忠告ありがとね、ロア」


 私は下を見ないように大股で跨ぐ。

 ヌルッとした。

 新品の靴を買う。これはマストよ。


「あと3人だ、あるじ。3人なら、余程の相手じゃない限り私単独で問題ない。念の為、ロアも注意していろ」

「分かったぜ、アウラ姐」


 私達は洞穴の奥へと進む。


 奥に灯りが見えた。


 ゆっくりと近付く。


「外で何かあったんすかねぇ?」

「ヘビかイノシシでも出たんだろ。残飯漁りにな」

「ま、メタルゴーレムいるしなんとでもなるっしょ! うぇ〜ぃ!」


 酒を煽っている3人の男がいた。


 メルの言う通り、男の1人が木箱を持っている。

 ちょうどスライムのロアが入りそうな木箱だ。


「オトさんいないね?」

「1番奥だ。そこを牢屋にしていると、メルから聞いている。私のタイミングで行く。あるじ、良いな?」


 私はアウラの目を見て、頷いた。


 アウラも頷き、ロアを私に渡す。


 そして、ジッと奥を見つめた。


 土を蹴る音がして、一振りで1つの命が消え、振り上げてもう1つの命が飛んだ。


「なんだてめ――」


 さらに、敵の首領の鮮血が舞う。


「チッ、浅いか!?」


 敵の首領は肩から胸に斬られたが、たたらを踏みながらも後ろに下がって立っていた。


「くそっ! 全員やられたのか!? ったくどいつもこいつもぉ!」


 必死な顔で叫ぶ首領に、アウラはとどめを刺すために踏み込む。


「させるかよ……いけ、レッドスライム!」


 首領は斬り掛かるアウラに向けて、木箱を開けた。


 そこからは炎が噴き出した。


 アウラは飛び退いて戻って来る。


「アウラ! 大丈夫!?」

「大丈夫だ、あるじ。だが……レッドスライムだと?」


 アウラの顔が険しい。

 レッドスライムって何なのよとは聞けない。


「お館、レッドスライムってのは、ファイアスライムが進化したヤベェヤツだ。攻撃力だけならドラゴンの鱗も軽く貫ける。メタルゴーレムよりヤベェ」


 ロックなロアが教えてくれた。


「どうしてそんなヤバヤバスライムがいるの!?」


 私は思わず叫んだ。だから、私もバレた。


「他にも居んのかよ……。メタルゴーレムがやられたのか? ……だが、レッドスライムとの連戦はキツイだろう? さぁ、やれ! レッドスライム!」


 レッドスライムから、炎の矢が飛んできた。


 でも、アウラが弾く。


「なっ!? レッドスライムの攻撃だぞ!? ドラゴンの鱗も貫く攻撃を!」


 首領は驚いているが、アウラは険しい顔をしつつも笑っていた。


「テイムしたばかりだな? 確かにレッドスライムの攻撃力はドラゴンの防御すら安々と突破する。ただ、インパクトポイントはその尖端にしか無い。横から弾けば、どうとでもなる。その証拠に、洞窟は崩れていないからな! あるじ! 防ぐ間に、作戦を頼むぞ!」

「えぇえ!? 私ぃ!?」


 だからいきなり振らないで!


「ゴチャゴチャうるせぇ! 一発で駄目なら……これでどうだぁ!?」


 首領はレッドスライムに命令して、無数の炎の矢を……何本あるの!? 連射してきたぁ!


 思わず目を閉じたけれど、私の体は燃えていない。

 目を開けると、アウラが全ての炎の矢を弾き飛ばす。

 目で追えない速さで、的確に炎の矢を弾く。


「頼むぞあるじ! うおおおおおおおおお!」


 炎の矢はまるでマシンガンのようだ。

 アウラはそれでも弾き続ける。


 私は必死に考える。

 ロックなロアに確認する。


「ねぇロア……」

「……それしかねぇな! ――お館様、やりましょう!」


 私はロアを抱え、岩場の陰に隠れる。


「アウラ! 私にレッドスライムを飛ばして!」

「はっはっは! 無茶を言う! だが、任せろ!」


 アウラは土を振り上げた。

 首領とレッドスライムの顔に掛かる。


「くそっ! ぺっ! それがどうし……ん? 消え――」


 アウラは一瞬の隙を突いて、スライムに戻った。

 レッドスライムも困惑しており、炎の矢を撃つのを止めていた。

 首領もアウラを見失っている。

 いや、ゴールドなアウラに魅入っている。


 スライムアウラは、触手を出して、ひょいっとレッドスライムを拾い、私に投げた。


 私は飛び出してレッドスライムを抱き締める。

 そのままうつ伏せに、抱き込んだ。


「ふははは! 何してやがる! レッドスライム! 燃やし尽くせ!」

「その前に、貴様の首を、頂こう」


 アウラは首領の首を落とした。


 でも、レッドスライムの炎が、私のお腹から噴き出す。


「あるじぃ!」


 でも、お腹の下でジュ~と音がする。


「大丈夫だよ、アウラ。ね、ロア」


 私は起き上がる。

 私のお腹には、アクアなロアが張り付いていた。

 レッドスライムは、アクアスライムの作り出した大量の水で、手のひらサイズになっていたわ。


「さすがお館様ですぅ」

「はは、そうだな。如何にレッドスライムとは言えど、水には弱い。当たり前のことだ。見落としていた。私もまだまだだ」


 咄嗟の事とは言え、私自身もナイス判断だと思う。


「あるじ、テイムするか?」

「うん、するよ。せっかくだし。えいっ」


 レッドスライムは光った。テイム成功。


 付近に骸骨は無し。でも、遺体はいっぱいある。

 血溜まりだらけだ。

 私はレッドスライムを抱えて、そそくさと奥へと向かった。


 奥には牢屋があった。


「……誰です!? 助けですか!?」


 ロアは人型になり、牢を開ける。

 そこには、綺麗な顔を土で汚し、ボロ布の衣服だけにされた薄い桃色長髪のオトさんがいた。


「オト様、ご無事で何よりです」

「カーサ? あなた……死んだはずじゃ……確かに……この目で……。馬車で戻って、わざわざ死んだのを確認したのよ?」


 そうだったんだ。ロアの記憶にも、ちょっと穴があるみたいだね。


「はい。事情は母、ダールよりお聞きください。しばらく後に、救援が来ます」

「後に? カーサは……一緒に帰ってくれないの?」

「申し訳ありません。今、私はロアと言う名です。お館様と共に行きます。どうぞ、お元気で」


 オトさんは、グッと何かを堪えるように、目を閉じた。そして、目を開け、力強い眼差しで私に言ったわ。


「事情がある。それは理解しましたわ。此度の救援、マウンタイン家として感謝を。ですが、ここはアジトの一部ですわ。地図はありまして?」


 私はロアに地図を渡す。


「国境、そのすぐ向こう側に、この周辺ですわ。ワイルドローズの本拠地があります。そう聞きました。十分に気を付けてくださいませ」


 印を付けてもらった。

 有り難い。これで危険な場所を避けて通ることができる。


「あと、差し出がましいのですが、この子を弔っていただけませんこと?」


 オトさんが手を向ける。そこには、大きな布を掛けられた……遺体だよね? 


「あぁ、一昨日殺されたという……」


 メルから教えてもらったヤツだ。


「どうも、ローザ帝国貴族の娘らしいのですわ。こちらで弔っても良いのですが、何分敵国ですので」


 政治絡みかぁ。それじゃしょうがないか。


「分かりました。こちらで責任を以て――」


 その時、その遺体が光った。


 違う。


 レッドスライムがいない……。


 なんで? なんで勝手に動いちゃうのぉ!?


 程無くして、赤髪ツインテールなメルよりちょっと小さい美少女に変化した。


 いつも通りの真っ裸。


 おっぱ……シンデレラだね。

 腰、折れちゃう。両手の輪っかが回りそう!

 お尻、太もも、ちっちゃ! ほっそ!

 養いたい! むしろ育てたい!


「ふんっ、あんたが新しいボスね。良いわ、私に名付けをさせてあげる」


 くっ、生意気娘ね!

 それにボスってナニよ?

 悪の組織の幹部じゃないわよ私!


 え〜っと、でもレッドで炎だから……。


「バーニィ。あなたはバーニィと名乗りなさい」


 いつもの安直な名前でごめんなさぁい!

 ツインテールがウサ耳に見えちゃったのぉ!


 バーニィは自責の念で拳を土に叩き付ける私の前に膝をつき、手の甲へと誓いのキスをした。


 バーニィのステータスが明かされる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

バーニィ

Lv45 攻1000 守10 MP1000

レッドスライム、変化(MAX)、付与(MAX)

ブレイズスタッガー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私はまず言う。


「バーニィ、お願いだから服を着て。変化で着衣できるのは知ってるから」

「えぇ~? どーしよっかなぁ〜?」


 ツインテールをクルクルしながら焦らすバーニィ。

 

 どうしよう?

 このメスガキちゃんと仲良くできる自信が無いわ。


「ようこそ、バーニィ。私はアウラだ」

「私はロアよ。うふふ、ヨロシクねぇ」


 アウラとアクアなロアはスライム姿でバーニィに挨拶したわ。


「ゴールデンスライム!? ひぃ!? あああアクアスライム!?」


 バーニィはアウラを見て驚いたけれど、アクアなロアを見て腰を抜かす程ビビっていた。


 そっか、水が怖いんだね。

 言う事聞かない時はロアにお願いしよう。


「…………。【変化】と【付与】でしょうか?」

「ハイその通りです申し訳ございませんいつも勝手に骸骨やら死体を食べてしまって申開きの言葉もござきいません」


 私はオトさんに土下座した。


 オトさんはジッと私を見る。そんな視線を感じた。


「カーサ……いえ、ロアの事情も理解しました。記憶の継承……つまり、カーサであって、カーサじゃないという事ですわね」


 ロアは吊り目のロアになり、人型になった。


「そーゆーことだ。オト様、スマネェな。遺体喰っちまった」

「そちらのカーサも……。大丈夫ですわ。むしろ好都合。罪に咎めることはしません。ただ、見た目が同じです。変に絡まれないよう、気を付けてください」


 私は許された。


 良かった。


 でも、バーニィが立ち直って言う。


「ねぇねぇボスぅ。ここで話してても良いの? まだ外で戦ってるわよ?」


 私達は顔を見合わせ、急いで外に向かった。

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