第10話 悪のアジトへ

 アルバイダー子爵家を後にした私は、早速宿を取る。


 もう夜だ。でも、宿屋の部屋で会議よ。


 そんなに広くない1人部屋だから、みんなスライムになっているわ。


 でも、アウラとメルはイライラしていた。

 体の揺れが貧乏ゆすりのソレだわ。


 ロアは隅っこで小さくなっていた。


「申し訳ありませぇん……母様……ダールさんが余計なことを……」


 アウラもメルも激しく振動しているわ。


「まったくだ〜! あの言い方、ワイルドローズのアジトに乗り込めと言っているようなものだろ〜!」

「同意。マスターの優しさにつけ込む卑劣な行為。到底許されるべきではない」


 怒ってる……。

 でも、私はちょっぴり嬉しくなった。


「私が、ワイルドローズのアジトに行くって、分かっちゃった?」


 アウラもメルも、ゆっくり大きく頷いた。


「あるじがあの話を聞いて放っておくものか〜」

「最も卑劣なのはワイルドローズ。それは確実」

「ありがとうございますぅ〜」


 アクアスライムのロアは、お辞儀をするように大きく上下に動いていた。


「それに、ロアを殺したやからを野放しにはできんからなぁ〜」

「見た目が同じロアが生きている。バレたら狙われる可能性大」

「ありがとうだぜぇ! アウラ姐、メル姐!」


 ロックなロアは激しく上下に動いて喜びを表現した。


「ごめんね。私は弱いのに……悪の組織をやっつけたいなんて……」


 アウラもメルも人型になる。


「良いんだ。あるじはそれでこそあるじだ」

「マスターに仇なす者は処す。先行偵察する。アウラ先輩、サンドスライムまだいる?」

「あぁ。東門の先の岩場付近にいる。分かり易い位置に移動させよう。4匹全部連れて行け。朝には2匹同じ位置に帰すよう指示を」

「了承。マスター、行ってくる」


 メルはアウラの指示で早速偵察に向かうらしい。


 ウチのスラちゃんズ優秀過ぎるわ。

 ロアも元貴族なら礼儀作法バッチリだろうし。

 交渉事はお任せね。


「あるじよ。今日はしっかり休むぞ。ロアも休め。明日は……動くぞ」


 そして私達はしっかりと夕食を摂り、就寝した。

 美味しい物は、メルも一緒に、という事で、とにかく量を食べた。

 あんまり美味しくなかったけれど、これで明日は動けるよ。

 メルには、明日の朝市で何か買ってあげよう。


 翌朝、初めて一人で目覚めたかもしれない。


 静かな朝。


 日はまだ登っていない。

 空が白んできた頃だ。


 着替えてすぐ外に出る。

 ちょうど朝市が始まる時間。


 私は買い出しを済ませた。


「あるじ! 買い物をしていたのか……せめて何か言ってほしいぞ」


 慌てた様子のアウラがやってきた。

 心配させてしまったみたいだ。反省。


「ごめん、居ても立っても居られなくて。ロアは?」


「無事なら良い。ロアは東門にいる。入れ違いにならないようにな。これからサンドスライムのところに行く。メルが何らかのメッセージを託してくれているだろう」


 私はアウラに連れられ、東門のロアと合流してサンドスライムのところへと向かう。


 そこには、紙を持ったサンドスライム2匹がぴょんぴょん跳ねていた。


「地図とメッセージか。メルがアジトを見つけたらしい。これから向かうぞ。だが先に……」


 アウラは大きな綿毛……種の部分がスライム? これに地図を括り付けていた。


「アウラ? 何してるの?」

「あぁ、コイツはフラッフスライムと言ってな、フワフワと飛ぶことができる。地図をアルバイダー子爵家に送り付けるとしよう。ふっふっふ」


 アウラは悪い顔をしていた。

 ロアを見る。吊り目のロアはニコニコで頷いた。

 面倒な後処理を子爵に丸投げする気満々だね。


「でも、地図無しで、私達行けるの?」

「問題無い。覚えた。それにメルがサンドスライムを放した場所までは、サンドスライム自身が案内してくれるからな」


 わぉ。サンドスライム高性能。


 もしかして、スライムで色々と事業ができるのかな?


 スライムの研究、頑張らないと。

 面倒事が片付いたらね。


 私はサンドスライムを履き、スライムになったロアを抱き、アウラを頭に乗せて出発した。


 昼前にアジト付近に着いた。


 そこにはスライム姿のメルがいた。


「マスター。私がアジトを壊滅しておいた――と言いたいところだけど」


 うわビックリしたぁ。

 メルならやりかねないよね。

 だってあのメタルスライムだし。


「何か、いたのか?」


 アウラの問いに、メルは唸る。


「公爵の娘、オトは居た。洞穴の中、生きてる。でも、うぅ……高レベルのテイマーを確認。メタルゴーレムがいた。他にも20人近くいる」


 オトさんは無事なんだ……それは良かった。

 でも、アウラは金色のまま固まり、ロックなロアはガタガタ震えていた。

 

「メメメ……メタルゴーレムってヤベェヤツじゃん。力だけならドラゴンに匹敵するヤツだろ!?」

「力はある。だが、その分動きは遅い。拠点防衛向きだな。厄介だ」

「そう。だから待っていた。マスター、作戦を」

「え? 私ぃ!?」


 いきなりそんなことを言われても!?


 20人もいて、メタルゴーレムもいて?


「うーん、うーん……1人ずつ減らす?」


 多いなら、減らせば良いと、思いけり……。


「なるほどあるじ、釣り出すということだな?」

「さすがマスター」

「オレに思い付かないことをソッコーで……スゲェよお館……一生ついてくぜぇ!」

「ははは、あはは」


 私は笑って誤魔化した。


 釣り出し作戦を早速実行する。


 金ピカスライムのアウラを磨く。


 すると輝くので、アジトから少し離れたところに置く。


 誰がどう見ても金の塊。


 アジトの巡回に出た男が気付く。


 目を輝かせ、独り占めしようと近付く。


 アウラに喉から一閃。

 声も出せず、ヤられて食べられる。

 死体はスライム溶解液で溶かされる。


 アウラが溶かしきらない内に次が来たら、メルが溶かす。

 その次はロアがじゅわじゅわ……。


 もう完全犯罪だよ。


 でも、日本みたく警察は守ってくれない。

 法はあっても、犯罪から守るのは自分自身だ。

 自分自身で守れないなら、助けを求めるしかない。


 ……私は、助けを求められるなら、助けてあげたいわ。

 もちろん、出来る限りで。


「マスター、これならメタルゴーレムも引き付けて対応可能。分身偵察によれば、外に1人と中に5人。外の1人がゴーレムテイマー」


 スライム姿のメルの合図で金ピカアウラは撤収。

 いっぱい食べて満腹そうな顔をしているように見えなくもないわ。


「やはり人間の生肉は硬いし不味いな〜。骨は美味いんだが〜」


 そんな情報いらないから……。


「アウラ先輩、私がメタルゴーレムを惹き付ける。その間にテイマーを」

「任せろ〜。だが、テイマーを守るような立ち回りを見せたらどうする?」

「その時は中へ。ロアもいる。中の5人は強くない。ただ……」

「なにかあるのぉ? メルさん」


 言い淀むメルに、アクアなロアが問う。


「念の為伝える。中の男の1人……おそらく首領……そいつが、常に木箱を抱えている。何が入っているかは不明。気を付けて」


 私達は頷いた。

 そして、最後に確認する。


「ねぇ、メル。人質は、オトさんだけ?」


 メルは人型になって言ったわ。


「公爵の娘のオトだけ。もう一人居た。でも私が来る前に、殺されてしまった。アントワープで売り損ねたらしい」


 聞かなきゃ良かった……。売れなきゃ殺すって……。

 いや、聞いて良かった。


 これで私は躊躇しない。容赦もしない。

 罪無き人達の人生をムチャクチャにする組織なんて滅んで当然だし、いつか私達に害を及ぼす可能性があるなら、排除する。

 それだけよ。


「メル、色々ありがとう。でも、無理だけはしないでね」

「了承。アウラ先輩、ロア、マスターをお願い」

「任された〜!」

「はい、おまかせを!」


 そして、人型のメルはメタルゴーレムと対峙する。


「なんだてめぇ!?」


 蛮族みたいな男は、一喝するなりメタルゴーレムの肩に飛び乗った。

 メルからアイコンタクト。


「……ここはメルに任せ、私達は突入する!」


 人型になったアウラはロックスライムのロアを抱いて洞窟へと駆け込む。


 私もその後ろを追いかけた。

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