第8話 第二の街〜アントワープ

 テントでの目覚めは意味不明だったわ。


 だって、目を覚ましたら金髪美女と銀髪少女と水色茶髪のグラドルが、裸で両隣と頭の上に寝てるのよ?


 ふかふか、もちもち、ふわふわ、すべすべ、ぽよぽよ、むちむち。


 これ女とか男とか絶対関係ない。


 思わずロアの深い谷間に顔をうずめる。おぅふ。ここが私のユートピア。


「うふふ、おやかた様……可愛い」


 垂れ目のロアに頭をナデナデされた。


 完全なデジャヴだよ!


「そりゃ起きてるよね! ごめんね寝惚けてた!」


 私は飛び起きてほっぺたをバチバチと叩く。

 煩悩退散、煩悩退散!


「あるじ、ほぉら」


 アウラは私にセクシーポーズを見せてくる。


 痴女だよ!


 逆に飛び込みたい衝動が失せちゃったよ!


「私には目もくれない。この体、憎い」


 メルはメルで良いの。

 それはそれで私はアリ……じゃなくって!


「ねぇ、見張りは?」


 全員テントの中とか、外がモンスターの群れだったら承知しないよ?


 私は外に出た。


 茶色のドロみたいなスライムがぴょんぴょんしていた。


「心配無いぞ、あるじ。【黄金の冠】で付近のスライムを従えておいた。危険があればすぐに報せてくれるぞ」


 なんたるスキルの無駄遣い。いや、役に立つから無駄じゃないのか。


「……分かったよ。見張り、ありがとね。おかげでよく眠れたわ」


 アウラとロアはご満悦。メルはちょっと不満顔。


「明日はメルを前面に出すとしよう。あるじはメルの全身が好みらしいからな」

「すみません、メルさん。明日からは自粛します」

「うん。明日から本気出す。マスター、覚悟。ふふふふふ」


 私は聞かなかったことにした。


 仲良くはしたいけど、そーゆー仲良くじゃないよ?

 確かにある意味で気持ち良いんだけどさ。


 こんなテント生活してたら身が持たない……。


 歩いてだとアントワープまであと5日は掛かる。


 絶対にヤられてしまう……。


「そう言えばあるじー。サンドスライムを従えたのだが、使うか?」


「サンドスライム? 使うって、どういうこと?」


 アウラは見張りに使っていたスライムの一部であるサンドスライムを呼び付けた。


 そしてスリッパみたいに足をはめる。


 すると、荒野を滑るように移動した。


「なにそれ! すごく便利そう! やるやる!」


 ということで、私とアウラはサンドスライムに乗って荒野を高速で走行する。


「ひゃっほー! 気持ち良いね! アウラ!」


「そうだろう! 喜んでもらえてナニよりだ!」


 サンドスライムは4匹しかいないので、私と人間型のアウラが使っている。


 メルは私の頭の上でヘルメットになってもらった。


「風、気持ち良い。マスターの頭、あったかい」


 メルに交代しようか? とさっき聞いたら断固拒否とのこと。私の頭、臭くない? 大丈夫?


 ロアは人間型のまま、アウラに肩車してもらっていた。


「アウラ姐、マジパネェっす! うひょー!」


 吊り目のロアは楽しそうだ。


 この調子なら夜までに着いちゃうかも。


「乾いた砂がある場所でしか高速走行はできないからな! 緑が見えたら避けてくれ! メル! あるじを頼むぞ! 少し先を見ておく!」


 メルが触手を挙げるのを見たアウラは、姿勢を低く保ち、ロアをスライム化させて抱き、先行した。


 私も風を切って真っ直ぐ走行する。


 どれだけ進んだかは分からないが、小高い岩場の上で、アウラとロアが待っていた。

 いつの間にか垂れ目のロアになっている。


 私はサンドスライムを脱いで、メルの補助で岩の上にひとっ飛びした。

 10mは跳んだよ?


「あるじ、着いたぞ」


 アウラに促されて見下ろせば、ここは崖で、下には緑が広がっていた。


 町じゃない。大きな街。


 アントワープへ、着いたんだ。


 早かった。まだ夕方だよ?

 日が沈むまでもう少し掛かるとは思うけれど、早速崖の下に降りて門まで近付く。


 検問の長い列に並んだ。

 今夜は宿屋で眠れそうだ。


 周囲の目が私達に向く。


 そりゃそうだ。パツキン&ツートーンカラーの美女と銀髪美少女を連れている私。


 誰だって気になる。私だって見る。


 ただ、不思議なことが1つある。


「カノーコでもそうだったけど、男の人って……少なくない?」


 男性をほとんど見ないの。幼い子供には男子がいた。


 あとは首輪に足枷の奴隷みたいなオトコだけ。


 こういう場面ではチンピラ男子に絡まれるのは定番だと思っていたけれど、男がいないんじゃテンプレ展開も無いよね。


 垂れ目のロアが教えてくれたよ。


「お館様、私達はリリィ共和国にいるのですよぉ。6歳以上の男子は特地で勉学、その後は開拓です。奴隷くらいですね、見掛けるのは」


 アウラもメルもウンウンと頷く。

 ここではそれが常識なのか……。


「逆にローザ帝国では、女子は3歳から特施で強制労働です。リリィ共和国に突如踏み入り、奴隷として奪っていくという話も聞きますのでぇ……国境付近に行く時は気を付けてくださいね? お館様」


 あ、薄い本が分厚くなるヤツだ。

 言われなくても絶対行かない、絶対にだ。

 するとロアの目が吊り目に変わる。


「商業ギルド絡みの依頼もあっし、行く時はぜってぇあるだろうが、オレが守ってやるよ。だから安心しな、お館」

「お願いね、ロア。アウラもメルも、その時はお願い」


 私は手を擦り合わせて頼み込んだわ。


「ふふふ、しっかり美味しい物を食わせてもらうとしよう」

「アウラ先輩に同意」


 まずはしっかり稼がないとね。


 そんな話をしている内に、検問の順番になった。結構早かったね。


 荷物検査と目的の確認。入国審査みたいな感じ。


 私は商売を始めるため。それで通過。

 アウラとメルは私の護衛。それで通過。

 ロアは私の従者。それで通過せず。


「ぁん!? なんでオレが通れねぇんだよ!?」


 門兵が何人も集まってきた。


 手配書とロアを見比べている。


「そう言えば、ロアの記憶を確認していなかったわ」


 痛恨のミス。

 そうね。ロアの見た目は冒険者じゃないもの。


 アウラとメルのこともあり、完全に油断していた。


 犯罪者を引き入れようとした罪? 外患誘致罪?


 私のスローライフが追われる身になるのかな?


「あるじ、ロアをどうする?」


 どうするって、そういうことだよね……。


「ロア自身に罪は無いもの。助ける。だって、仲間だから」


 私はロアを見捨てない。


「じゃ、私は当面の食糧、調達する」

「メル、頼むぞ」


 メルがコッソリと離脱した。逃走経路の確保もしてくれるらしい。


 アウラもメルも優秀過ぎない?


 そこに、キラキラの服を纏う貴族がやってきて、ロアを見るなり、抱き締めた。


「カーサ! あぁ、無事だったのね! 良かった、良かったぁ!」


 ロアはカーサと呼ばれた。


 まさか貴族の娘様? どうして荒野で骸骨になってたのよ?


 貴族の人は、私達に歩み寄る。


「あなた達が、カーサを見つけてくれたのね。……ここでは何だから、我が屋敷まで来てもらえないかしら?」


 超面倒事の予感しかしない。

 でも、断る選択肢は無い。


 アウラにはメルを迎えに行かせ、私はロアと貴族と馬車に乗り込んだわ。

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