第7話 荒れた旅路をゆく一行

 新たなスライム(美女)の名はロア。


 スキニーデニムにパッツパツのシャツへの着替えは終わったけれど、私は命令して黒いローブを羽織らせた。


 見た目は魔法使いね。


 少なくとも、ロアの天然魅惑魔法の脅威は去った。


 これで私の目のやり場にも困らない。


 私は荒野を進みながらロアに話し掛ける。


「さぁロア、歩きながらになるけど、自己紹介しなきゃね。私はユリ。これから交易都市アントワープに向かうわ。そこで商売を始めるの。お金を稼いで、辺境の地でのんびり暮らす。そのために、協力してね。これからよろしく」


「はい、お館様やかたさまのため、全てをお捧げします。こちらの方々は……同胞……いえ、先輩でしょうか?」


 ロアはぽわわんとした感じで受け答えし、アウラとメルに疑問を投げ掛ける。

 アウラは待ってましたと言わんばかりに鼻を鳴らす。


「私があるじの第一のスライム、アウラだ。分からないことがあれば何でも聞くと良い」


 アウラは先輩風を吹かせているけれど、まだ出会って4日だよ?


「私はマスターの第二のスライム、メル。理解する。マスターに逆らう。溶かされる。復唱」

「え? メルさん……メタルスライムよねぇ?」

「そう。私、溶かされた。その意味、理解する。はい、復唱」

「私は! お館様に、逆らいません!」


 ちょっとメル、ロアがガタガタ震えてるじゃない。


 私は笑顔をロアに向ける。


「ひっ! お館様、御慈悲を〜」


 ロアは私に縋った。


「溶かさないから安心して! メルも変なこと言わないの! ケンカしないなら溶かさないから!」


「ケンカすると、溶かされるんですぅ!? お館様に逆らう! 溶かされる! 復唱しましたぁあん!」


 ぽわぽわなロアが必死で叫び、メルの後ろに隠れた。

 私は魔王なのかな?

 ちょっと震え過ぎじゃない?


 でも、ロアがフッと意識を失う。


「え? ロア、大丈夫?」


 ロアに近付き、手を添えようとしたら払い除けられた。

 鋭い目をするロアによって。


「はんっ、こんなひ弱な女に何がデキるってんだ」


 え? だれ? ロアなんだけど、豹変した。


「あるじよ、ロックスライムの性格が出てきたようだ」

「あ〜、二重人格ってことなのね」


 よく見れば目が鋭い。アクアの時は垂れ目で、今は吊り目だわ。


「ナニをゴチャゴチャ言ってやがる。お館様だか何だか知らねぇが、ユリ、てめぇはオレに従いな。人間姿ならトンカチも怖くねぇ。ナニより金ピカとメタルもいねぇ。だったら、オレが最強だ! とんでもねぇ幻を見せてくれたもんだぜ」


 アクアとロックの記憶は完全に共有できていないようね。

 夢だと思ってるのかしら。


 あら……アウラとメルがニッコニコ。


 私は頷いた。好きにしなさい。


「アウラとメルだっけ? テメェらも今からオレの舎弟な。ん? どこ行っ――」


 ロックなロアは固まった。

 視線を落とし、動かない。

 蛇に睨まれた蛙とはこのことね。


「ほうほう。ロアよ、私を舎弟にしたいと言うのだな〜? 良いぞぉ、但し私に勝てばの話だ〜」

「アウラ先輩の前に私。全力で相手する。いつでも掛かって来る。どうした? 来ない?」


 スライム化したアウラとメルは、王者の風格を漂わせていたわ。


「ぴぃ! んななな! 無理死ぬ助けて。なんで【伝承】と【凶弾】がこんなところにいるんだよ!? おかしいだろ!?」


 ロアは私の後ろに隠れる。

 アウラもメルも、すごい二つ名があるのね。 


「アウラもメルも、私の友達よ。あなたにも、友達になってほしいわ。ロア」


 ロアは何言ってんのコイツみたいな顔をしているけれど、私は本気。


 みんなで仲良くのんびり暮らすの。


 それが私の最終目標。


「そう言う訳だ、ロアよ。さっきもアクアに言ったが、溶かされたくなければ仲良くだ」

「私、溶かす、溶かされた。それがマスター。それとも一回……されてみる?」


 人型になったアウラとメルに詰め寄られるロア。


 物凄い勢いで首を縦に振ってるわね。


「仲良くする! 仲良くするから溶かすことだけは勘弁してくれおやかたさ――ロックバレット――ぶえっ!」


 ロアは岩の塊を作り出し、自分の顎を下から撃ち抜いた。

 どうしたの?


 ロアが吊り目から垂れ目になった。


 そしてロアは土下座した。


「申し訳ありません。私の片割れがお館様に御無礼を……。ダメージは共有しないのでロックスライムの時にボコボコにしてやってくださいぃ〜。――いや待てや! ――もう黙っててよぉ! 私まで溶かされちゃうぅやだぁあぁ!」


 ロアはわんわんと泣いた。


「大丈夫だよ? 私は怖くない。ステータスは雑魚、レベルも上限が1。怖くないよね? 怖い要素無いよね?」


 なんでアウラとメルは目を逸らすの?


「……もうすぐ私は魔石になるのですね。およよ」

「魔石にするならとっくにやってるから!」


 確かに、という顔をしないでロア。


「だったらナニが目的なんだよ……意味分かんねぇよ。スライムをテイムさせてどうすんだよ?」


 吊り目のロアがまた出てきた。


「あるじの目的なんて1つしかないだろう。耳を貸せ。メルもだ」


 人型アウラがメルとロアを私から離してヒソヒソと話す。

 吊り目から垂れ目になるロアの、私を見る目がなんだかおかしい。

 血走っている。興奮気味とも言って良い。


 メルなんて太ももをスリスリ……いや、モジモジしている。


 アウラはナニを吹き込んでいるのだろうか……。


 話は着いたようで、アウラ、メル、ロアは私の前に跪く。

 ロアだけが顔を上げた。吊り目だ。


「お館と認める。金ピカとメタルを従えるヤツに逆らえるか。――私も誓いますぅ。全てを、お館様に」


 垂れ目に切り替わっても、目以外変わることはないわ。


 よく分からないけれど、仲良くしてくれる気があるなら良かった。


 お昼御飯は干し肉を齧っただけだけど、ロアの胃袋を掴むには十分だった。


 人間の味覚って、凄いんだなって思う。


 晩御飯はワイルドブルという荒野に生息するイノシシをアウラが仕留めてくれたので、猪鍋ししなべにした。


 解体はアウラとメルがやってくれた。


 鍋に乾パンを入れて食べたらとっても美味しかったわ。

 香辛料は無いけれど、香草は買っておいた。

 大正解。


 ロアは吊り目と垂れ目で奪い合うように食べていた。

 アウラもメルも、みんな幸せそうに食べてくれる。


 ホント、養ってあげたくなっちゃうわ。

 これって何の気持ちなの?

 母性本能ってヤツ?


 死ぬ前は、考えたこともなかったなぁ。


 アウラとメルと、ロアと私。


 仲間はきっと、もっと増えるんだろう。


 みんなと仲良く、楽しく、笑っていけたら良いな。


 そうして私達は荒野にテントを張る。


 アウラ達が交代で見張りをしてくれる。


 私はスライムアウラ、スライムメル、スライムロアを取っ替え引っ替え抱き枕にしながら、気持ち良く眠った。

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