第二章 伝説のスライム四天王

第6話 荒野の水先案内人

 カノーコを夜逃げするように去った私達は、荒野を歩いていた。


 すれ違う旅の商人から注意された。


 荒野の水先案内人には気を付けろと。


 何のことはないわ。


 目の前にあるもん。


 骸骨あるもん。


 人が食われているんですって。


 付近には……スライムの影、無し。


「「じゅるり」」


 涎を垂らす金髪美女と銀髪少女。

 しばらくは人型でいてもらうことにした。

 

 だって、ゴールデンスライムとメタルスライムだもの。

 スライム姿は無駄に目立つわ。

 そんなの嫌よ。


「アウラ、メル、骸骨見て涎を垂らすの禁止!」

「そんなぁ! あるじぃ〜!」

「しょぼん」


 すがろうが、口でしょぼん言うてもダメ!


「もうすぐ朝御飯にするから、休めるところを探すわよ」

「相分かった!」

「了承」


 態度を一変させたアウラとメルは、すぐに手分けして休憩できる場所を探してくれた。


 夜逃げしたので、夜通し歩いたわ。


 予め寝ておいて本当に良かった。


 岩場の陰で、遅めの朝御飯。


 朝御飯と言っても、おにぎりよ。


 塩は高かったから、干物をご飯に混ぜた。


 転生モノって米が無いこと多いけれど、この国に米があった。本当に良かった。


「あるじぃ。最高に美味いぞぉ!」

「美味、美味。オニギリ、覚えた」


 美女と美少女がおにぎりを口いっぱいに頬張る姿。

 なんて愛らしいのかしら。

 そのほっぺ、食べてやりたいくらいだわ。


 私は2人の食べ姿をオカズに、おにぎりを食べきった。大満足。


 早速出発するために岩場の陰から出る。


 そこには、荒野の水先案内人がいた……。


 正確に言うなら、水先案内人を作るモンスターも。


「やっぱりスライムなのね……」


 骸骨の前で、水色のスライムが右往左往していた。


 モンスターはアウラとメルが見つけ次第デストロイしてくれるので、今回もすぐにやっちゃうのかと思ったら、微動だにしない。


「アウラ、メル、どうしたの?」


「あるじ。あのスライム、様子がおかしい」

「うん。変。あ、色が変わった」


 メルがそう言うと、水色のスライムは茶色に変わった。

 今度は縦に激しくぴょんぴょんしている。


「あるじ。珍しいぞ。二重属性のスライムだ」

「アクアとロック、水と土。話には聞いたことある。でも、見るのは初めて。記憶にもない」


 世にも珍しいメタルスライム様と伝説のゴールデンスライム様が珍しいというのだから珍しいのでしょうきっとね。


「テイムする?」

「あるじに任せる!」

「マスター、お任せ」


 アウラもメルもそう言うが、仲間にしてほしそうだ。


 そうだね。ちょうど骸骨さんも目の前にいるしね。


 私は覚悟を決めてスライムの前に出た。


 茶色のロックスライムはゴツゴツしており、私が現れるなり高速で足元まで転がってきて、私の目線に合わせるようにぴょんぴょんする。


 ナメてんのかテメェ?


 って言われている気がした。

 絡むスライムを間違えたかもしれない。


 私は工具として購入したトンカチを取り出す。


 トンカチを見るなり、ロックスライムはビクッと震え、高速でローリングバックし、少し離れた位置でぴょんこらする。


 やはり岩には打撃属性が効くらしい。


 私はトンカチを右手に持ち、左手に軽く叩き付けながらロックスライムに近付く。


 ロックスライムは逃げようとジリジリ下がる。


 でも残念。


 ロックスライムの後ろにはゴールデンスライムとメタルスライムが控えていた。


 さすがの貫禄よね。


 ロックスライムはアウラとメルのスライム姿に気付くなり、ビクッと大きく震え、シナシナと動かなくなった。


 え? 気絶した?


 と思ったら、アクアスライムに変わった。


 私は短剣を取り出そうとバックパックをゴソゴソしていたら、アクアスライムが私の足元のに擦り寄ってきた。


 ネコちゃんが甘えてくるような仕草だ、カワイイ。


「あるじ、もうテイムできるのでは?」

「マスターに、いきなり馴れ馴れしい……」


 あらあら、嫉妬してくれてるの?

 やだ、嬉しい。

 今夜はみんなで一緒に寝ることにするわ。


 ぷよぷよのスライムが3匹。

 枕、抱き枕、足枕。

 私の快眠は約束されたわ。


 夜の私のために、私は今、やってやるの。


「私の睡眠のため……全部を注ぐ! ぬおりゃああ!」


 私は全身全霊で、アクアスライムをテイムした。


 光った。

 分かる。これは成功!


「やった! これで水枕……じゃなく、スライムゲットだよ!」


 3度目の成功だけど、嬉しい。


 そして儀式が始まる。

 テイムしたスライムは、目の前の骸骨をムシャムシャしていた……。


 もう諦めたわ。


 罰当たりだとは思う。

 だから骸骨さんには手を合わせた。


 でも、おかしい。


「あれ? 人型に変化へんげしないね?」


 アクアスライムは、左右に揺れては上下にぷるるんと揺れている。

 カワイイ……じゃなくって、頑張って変化しようとしているのかな?


「あるじ、どうやら変化の条件を満たしていないようだぞ」

「変化の条件? あー、素材さえあればってヤツだよね」

「そうだ。おそらくだが……足りていない」


 はぁ? 骸骨1人分じゃだめってこと?


「骸骨なんてその辺に転がってる訳……ハッ……」


 メルが姿を消していた。

 と思ったら現れた。


 その手に持っているのはナーニ?


「アウラ先輩、これを」

「うむ、よくやったメル。あるじ、御所望の品だ」


 メルからアウラに、そしてアウラから私に、さっき見かけた骸骨を渡された。


「所望してなぁぁい! 罰当たりぃいい!」


 私は思わず骸骨を手から落としてしまった。


 アクアスライムはロックスライムへと変わる。


 シナシナのロックスライムは、目の前に骸骨があると知るやいなや、パクパクっと平らげた。


 そして輝き出すロックスライム。

 

 程無くして、水色と茶髪を左右で割ったツートーンカラーなロングヘアのグラマー美女に変化した。


 いつもの真っ裸だよ。


 おっぱ……アウラより大っきくない?

 なんで腰にクビレがあるの?

 お尻、太もも、むっちむち!

 挟まれたい! その全てに!


「お館様。私に名付けを」


 くっ、こうなることは予測していたけど、ツートーンカラーは聞いていない!


 アクアスライムとロックスライムだから……。


「ロア。あなたはロアと名乗りなさい」


 やっぱり安直な名前しか出てこないぃい!


 だって想定外なの!


 もっと、ホントに、時間をちょうだい! 何でもしますからぁ!


 ロアは天を仰ぐ私の前に膝をつき、手の甲へと誓いのキスをした。


 ロアのステータスが明かされる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ロア

Lv40 攻100 守100 MP1000

アクアロックスライム、変化(MAX)

付与(MAX)、並列思考、二重詠唱

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ともかく、荒野に裸のグラマラスはダメだわ。


「ロア、まずは服を着なさい。変化でも良いから、早く!」


 私はロアに着衣を促す。


 目の前に服を生成してわざわざ着なくて良いのよ?


 着替えを見てほしいの?


 見ちゃうから……こんなの絶対見ちゃうから!


 私はロアの着替えを見守らされた。


 アウラとメルは、一生懸命メモを取っていた。


 後でそのメモ、必ず燃やす。


 私は心に強く誓った。

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