間章〜黄金の町
夜が明ける。
その町には、黄金の龍が、立ったまま絶命していた。
家屋の倒壊や焼けた跡があることから、ドラゴンが暴れたことは間違いない。
町の民も全員が無事だった。
リコは領主の女と、龍の前で話す。
「誰かが……倒したのだよな?」
「……えぇ、信じられませんが……」
リコも領主も、目の前に実物があるのに、信じられずにいた。
「誰がどう見てもドラゴンだ」
「……ですなぁ……」
「勇者が来たのか?」
「ならば報告くらいするでしょう……。ですが、今は全員王都にいるはずじゃないんですかねぇ?」
「我もそう聞いている……」
「何か思い当たる節は無いか? 最近変わったことでも何でも良い。思い出せ」
領主に言われ、リコは唸る。
あぁ、そう言えば、と、ユリとの話を思い出す。
「ゴールデンスライム……」
「はぁあ?」
領主に睨まれ、リコは萎縮する。
「いや、すまん。まぁ、気持ちは分かる。これを見れば、そうも言いたくなるな。許せ、リコ。恐らく同じ目に、私も遭うだろう……相手は大統領だ……」
「ご愁傷さまです」
領主は大きな溜息を吐いた。
「しかも、まさか、全てが黄金か? 金貨の価値が下がるぞ……」
「隠しようもありませんなぁ。直に軍も来るでしょうし」
領主はもう一度溜息を吐く。今度はリコも一緒だ。
だが、2人は顔を上げた。
「しかし、民は全て無事。町の被害もこれだけ。奇跡としか言いようがない」
「ええ。勇者でも、ここまでのことはできねぇでしょう」
領主は意を決した。
「……ゴールデンスライムの仕業にした方が良いな」
「私もそう思いますわぁ」
「大統領にこってり搾られるとしよう……」
「まずは軍団長ですね」
リコがそう言うと、領主はずっと遠い空を見た。
その空の下には、軍がいた。
軍団長アンナ・ヒロハノはボヤく。
「ドラゴンが現れた? 討伐された? 人的被害ゼロ? ……意味不なのだ!」
さらに早馬から話を聞く。
「ゴールデンスライムゥ? 眉唾伝説物語が現実に? あああ! 大統領に締められるのだああ!」
勇者がやったことには絶対できない。
アンナは勇者達に見守られて出発したのだから。
「絶対に誰かが倒したのだ! 探せ! ゴールデンスライムを矢面に立たせた奴が必ずいるのだ! 見つけ出した奴には金貨10枚出す! 男の奴隷を買っても良いのだ! とにかく探せ! 探し出すのだぁ!」
アンナは叫び、軍の士気を上げる。
そして、探した。
見つからなかった……。
「許さんのだ……いつか必ず探し出してくれるのだ! 大統領に……いつか差し出してやる! 覚えておくのだぁあ!」
アンナは大地を叩いて叫ぶ。カノーコの領主の前で。
リコはそれを遠目に見て思う。
「ユリのことは黙っておいてやろう」
リコだけは気付いていた。
ユリが来て、アウラとメルがドラゴンの存在を教えてくれた。
町の者からも聞いた。
ユリが逃げ遅れた人達を助けてくれたと。
ユリは勇者じゃない。
「でも、勇者だよ。カノーコの民は、みんな知ってる。達者でな。ユリ、ありがとう」
ユリ達がいないことには気付いた。
違うかもしれないが、リコは祈るように、御礼の言葉を口にした。
カノーコは、黄金の龍が住まう黄金の町として、これから賑わうことになる。
ゴールデンスライムの伝説、その始まりの町としても、大いに賑わったとさ。
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