第4話 森の異常の理由とは
町への帰り道で、メルに色々と聞いてみる。
服はちゃんと着せたわ。
今は皮の服に短パン……レンジャーみたいなコスプレね。全く実用性は無いわ。
「ねぇ、メル。あなたの記憶は、どうなってるの?」
メルは無機質な口調で答えてくれた。
「元の体の者は、私から逃げるため、魔法で穴を掘ったようです。そこを私が捕食しました」
うぇ? 結構記憶残ってるヤツ?
「骨は最後に頂こうと思いましたが、金ピカスライムに邪魔されて戦闘に。戦闘には勝ちましたが、金ピカスライムは何度やっても捕食できず、目を離した隙に逃げられました」
「それが私だな。その節は世話になった」
アウラがビキビキで参戦してきた。今にも手が出そうだよ。
「あぁ、あなたが無駄に輝いていたあの……これは失礼、煌びやか先輩」
メルちゃんちょっと煽り過ぎぃ!
「あーるじぃ、メルをお借りしたいのだがよろしいか? 大丈夫ダ、チョットお話するダケダ」
アウラのお目めがイッちゃってるヨ!?
そんな目を見て信じることは、さすがの私もできないよ!
「もぉ! 溶かされたくなかったら仲良くしなさい!」
冗談で言ったつもりだった。
アウラとメルは足を止めた。
その顔は青褪めており、膝からガタガタと震え上がっていた。
そしてボソボソと話し合いを始める。
「メタルスライムを溶かすマスター、人間?」
「一応、多分、きっとそうだ。信じろ、あるじは人間だ。すまん、今までの非礼、水に流そう。だから、あるじとは仲良く……あるじの前では仲良く……これは互いにメリットしかないはずだ……」
「了承。私からも深い謝罪を。メタルスライムとゴールデンスライムをテイムした人間など、元の人間の記憶にもない」
「私も同様だ。あるじは弱いが、ステータスだけだ。恐らく魔王に匹敵する……」
「納得。全てに納得。私、従う。アウラ先輩、よろしくお願いする」
「任せろ。可愛がってやる。もちろん良い意味でな」
ねぇ? 全部聞こえてるよ?
勝手に怖がってくれちゃって失礼しちゃうわ。
でもまぁ、二人が仲良くするなら私は喜んで憎まれ役になってあげる。
ああ、なんだか泣きたくなってきちゃった。
「確認。これからの予定」
メルが抑揚のない声で聞いてくる。
「とりあえず、リコさんっていうギルマスに報告かな? メルはどういう扱いで行こう?」
私はアウラに疑問を投げ掛ける。
「そうだな。少しボロボロの服に変化できるか?」
「可能。……コレで、どう?」
メルは体からスライムの溶解液をちょっと出したみたいで、服がじんわり溶けてスケスケになった。
際どい……。でも大事なところは隠れている。
くっ、着エロの良さをこんな所で知るなんて……いや、私が女の子だからこそ、と言うこともある。
今の内に目に焼き付けておこう。眼福眼福。
「よし。メルはメタルスライムに襲撃されていた冒険者を助けたということにする。ギルドカードはスライムに溶かされて紛失した。良いな? 話を合わせてくれ」
「了承」
町へと戻るなり、門兵さんに事情を説明し、すぐにギルドへと向かったわ。
「あんたは……メルって言うんだね」
「はい。メタルスライムと戦い、やられそうなところをアウラ先輩に助けていただきました」
「先輩?」
リコさんの目がグッと鋭くなる。
「先輩のつもりは無いのだ。助けてからずっとこの調子でな」
「アウラ先輩は命の恩人。命の危機を救ってくれた人を敬うのは至極当然」
なんでアウラもメルもチラチラって私を見るのかな?
「なるほどな。その気持ちは分かる」
リコさんもウンウンって納得しちゃったし。
「だが、よく生きていたな」
リコさんはアウラにも尋ねた。
「想定を上回る速さだった。少しでも油断すれば命は無かったと言って良い。逃げられたのは、本当に運が良かった」
メタルスライムとの戦闘は嘘ではないし、逃げたのも嘘ではない。
だからアウラも迫真の演技だよ。
「分かった。メタルスライムの出現が嘘じゃないことはギルドも承知している。メルのギルドカードも新調しよう。しばらくはパーティーを組むのか? 組むなら登録もしておくが」
冒険者はソロとパーティーで受けられる依頼が違ってくるらしい。
Bランクまでは、パーティーの最高ランク者より一つ上のランクが受注できるようになる。
もちろんギルドが承認すればということなので、どのパーティーも背伸びして受注できる訳じゃないんだって。
しかも、パーティーには商人ギルド員も帯同が許可され、パーティーの一員として正式に加入できる。
荷運びや食材、アイテムや武器管理、お金の管理を担うんだって。
システムとしては、結構しっかりしてるよね。
「ではパーティー名は【ボスはユリ】で登録しとくわ」
「へ!? なにそれ!?」
「事実だからな」
「周囲へ認知のため、必要」
いや待って、ダサ過ぎるし恥ずかしい!
「……ぷふ……大丈夫だ……半年に一度変えられるから……ぷぷぷ……」
リコさん笑ってるじゃん!
私は激怒した。でも、メルの言葉に、誰もが目と耳を奪われた。
「森の異常、思い当たる節がある。聞いてほしい」
リコさんはカウンターを飛び越え、ギルドの椅子へと私達を案内した。
ここで話せってことなんだと思う。
リコさんは地図を広げて、話を促した。
「この町の西に、スライムの森がある。北西に真っ直ぐ。ここ」
森のハズレというか、端っこに、メルは印を付けた。
「無属性だと思う。姿は見ていないが、そこにいた。咆哮を聞いた。ソレのせいで、わた……スライム達が反対方向……こちら側に追い遣られた。ソレは……多分今、この辺」
無属性や咆哮という言葉に、アウラもリコさんも固まってしまった。
とうすれば良いか分からないという顔だ。
「はは、よりによって無属性か……属性有りなら対処のしようもあるんだがな……速ければ明日にも圏内か」
リコさんは天を仰いでいた。
「ね、ねぇメル。ソレとか無属性とか、私分からない。だから……教えて?」
私は除け者になりたくないから聞いたんだ。
でも、聞かなくて良いことはたくさんあるって知ってたはずなのに、そこまで頭が回らなかったの。
「それは、龍。ドラゴン。最強種の一角。国の軍隊が総出で何とかできる災厄の権化。私達にできること、それは逃げることだけ」
はぁ? ドラゴン?
突然ファンタジーな単語出た?
いや、スライムがいたから十分ファンタジーなんだけどさ。
「不幸中の幸いにして、今こちらに軍が向かってきている。規模こそ小さいが、ドラゴンの情報があるなら増援も来るだろう。問題は――」
「間に合わないということだな」
アウラの言葉に、リコさんは頷く。
「それもあるが、一つの証言だけでは、町の者に避難を促すことすらできやしない。領主に話も通さなきゃならん。時間が足りなさ過ぎるのさ」
「え? じゃあどうするの?」
私の問いに、アウラは言った。
「あるじが決めるんだ。今すぐこの町から逃げるか……戦うか。いや、私がドラゴンを見付ければ良いのか。リコよ、複数の証言があれば、何とかなるか?」
リコさんは頷く。
「もちろんだ。鱗か体液、糞でも良い。物証があれば即座に私の権限で避難命令を下せる」
だから私は即断した。
「アウラ、お願い。ドラゴンを見つけて。でも、無理はしないで。メルもお願い」
「相分かった」
「マスター命令、了承」
「私は……買い出しとか、できること、やっておく」
アウラとメルは頷き、駆け足でギルドを出て行った。
「ユリ、ありがとう。多くはないが、他の冒険者にも戻り次第声を掛けていく。領主にも報告する。ユリも無理はするなよ」
「はい」
私はリコさんと別れ、私なりの準備を進めた。
予備の武器を買い、食糧と水に、地図も2枚買う。近場の地図と、大きな地図。
逃げる先を考えておかないと。
地図を買う時に聞いたの。
候補は交易都市アントワープ。むしろここ一択。
ギルド規約によれば、商人としての実績を作らないと1年で商業ギルドを退会させられちゃう。
商売なんてやったこともないけれど、アウラに養ってもらうのは忍びないもの。
アウラとは……ううん、メルとも、私は友達になりたい。
テイムしておいて、自分勝手だとは思う。
でも、私がそうしたいからそうするんだ。
だから、アウラもメルも、まずは無事に帰って来てね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます