第3話 最強を仕留める最弱テイマーの女

 宿屋での目覚めは意味不明だったわ。


 だって、目を覚ましたら金髪美女が裸で隣に寝てるのよ?


 ふかふか、もちもち、ふわふわ。


 これ女の子でも堕ちるわ。


 思わず谷間に顔を埋める。


「ふふふ、あるじは可愛いな」


 頭をナデナデされた。


「起きとるんかい!」


 私は飛び起きた。恥ずかし!


「あるじ、ほら」


 アウラは私に両手を広げている。


 飛び込みたい衝動に駆られるけれど、グッと堪える。

 私がオトコなら間違いなく飛び込んでいた。

 悔やまれる。

 しかし、私は女で良いのよ!


 アウラとは友達……いや、親友みたいな付き合いをしていきたいんだもの。


「ふふふふ、今日はこれくらいにしておこう。あるじ、明日からはもっと行くぞ?」


 やだ、アウラに食べられちゃう……じゃなくって!


「アウラ、私が主よ? 程々にして! 心臓に悪いから!」

「ぶーぶー」


 駄々っ子か!


「だがあるじよ、本当にどうする? リコの言う通り、スライムを狩り続けるメリットはある。ただ、危険だ。恐らく、この肉体の元の者や、スライムだった私をズタボロにしたのは……そのメタルスライムだろう」


 え? なにそれ怖過ぎる。

 昨日は疲れていてナニソレ感が強かったけれど、今改めて聞くと恐ろしいわね。


「記憶……あんまり無いの?」


 ぼんやりと聞いてみる。

 アウラはちゃんと答えてくれた。


「スライム時代の記憶はほぼ無い。この知能は、遺骨を捕食して得たモノだ。ただ、ボコボコにされて食われそうになっても、何とか食われず逃げ延びた……。この者の記憶にもない。不意打ち一発でやられた可能性もある」


「メタルスライム強過ぎない? アウラもゴールデンスライムなんだから強いんじゃないの? スキルも【黄金の冠】なんて大層なモノもあるんだし」


 アウラは首を横に振ったわ。


「コレにそんな力はない。効果は同族のみ。つまりスライムのみに効く。闘いで勝った者を絶対服従させるだけだ」


「それってつまり、テイム?」


「そう、この世界ではありふれた力。それもスライムだけ。あるじならその価値分かるだろう?」


 うん、クソスキルね。自称神様も言ってたし。


「それでもアウラは、私に必要なの。だから私に力を貸して」


 アウラはキョトンとした後、笑った。

 無邪気で優しい笑顔。初めて見せる顔だったわ。


「よし! ならば行くぞ! スライムを狩ってランク上げだ! ふはははは!」

「え!? ちょ、まぁああって! せめて買い出しさせてぇえ!」


 無理矢理手を引かれ、私は何とか買い出しを済ませ、再び森へと入るのだった。


 森は鬱蒼としているけれど、視界は悪くないわ。


 1度踏破しているから、精神的な余裕もあるんだと思う。


 金ピカスライムになったアウラが、買った剣で普通のスライムをスパスパと倒していく。


 私は道具屋で買ったリュックみたいな背負った袋に、火バサミで拾って入れる。


 ゴミ拾いをしている気分だわ。


 でも、昨日よりは楽ちんよ。


 目標の魔石が半分集まったところで、アウラが止まった。


「あるじ〜、落とし穴だ。気を付けろ〜」


 やっぱりスライム姿のアウラは、なんだか間延びした口調になっていて可愛い。


 ぽっかりと開いた大きな穴を覗き込む。

 私3人分の深さがありそう。


 底には骸骨があった。


「見なきゃ良かったぁぁああ!」


 時すでに遅し。


 転生して1日1骸骨、それを2日連続なんて私くらいなもんよ、きっと。


 アウラも覗き込んでいる。


 心無しか涎を垂らしているのは気の所為かしら?


「アウラ、食べないでね?」

「わ、分かっているとも、あるじ〜」


 絶対に食べようとしていたヤツだわ。

 釘を刺しておいて正解だった。


 でも、アウラは人間の姿になる。

 その顔は至って真面目だった。


「あるじ、ここをセーフポイントにする。もしヤツと遭遇したら、一目散にここまで逃げろ。あとは私が何とかする」


「うん、アウラに任せる。その時は、頼んだよ」

「任された。じゃあ早々にノルマを達成するとしよう」


 私とアウラは笑顔で頷き合い、ノルマ達成に向けて勤しんだ。


 森の奥へとだいぶ入ったが、ランチを食べ終えた直後にノルマは達成できた。


「ふぅ、今から町へ戻れば、日暮れ時に間に合うだろう。急ぐ必要もない。注意しながら帰るとしよう」


「いやー、余裕だったわね。今日は美味しいご飯を注文しようね」

「うむ、人間の体は良いな。食事がこんなに満たされるものだとは思わなかった。こんなことなら朝食もしっかり摂るべきだった……悔やまれる」


 スライムモードのアウラが悔しそうにプルプル震えていた。

 アウラはランチのサンドイッチを、目をキラキラさせて食べていたものね。

 見てるコッチが幸せになったわ。


「あるじ! 止まれ!」


 でも、アウラは人間の姿になり、私を制した。


「え? なに? まさか……」


 私は手で口を塞いだ。

 次の瞬間、前にいたはずのアウラが、私を後ろから押した。


 直後、後ろを何かが横切った。


 ソレは木にぶつかり、大穴を開けて木を倒した。


「走れ! あるじ! メタルスライムだ!」


 私は振り向くことなく、来た道を真っ直ぐ走る。


 無我夢中。いや、何も考えない。とにかく走る。足を止めるな。


 横からカサカサ音がする。

 私に並走している。

 何かが背丈の高い草の中にいる。


 それでも私は、森を駆ける。


 何かが飛び出して私に襲い掛かろうとする。


「っさせるかぁ!」


 ガキンと鉄を打ち鳴らす音が後ろで何度も鳴らされる。

 音は遠くなるけれど、私の足は止まらない。


 アウラが守ってくれている。


 ならば私は、走るだけだよ。


 ――どれだけ走ったのだろう?


 元々の運動能力が高くない私は、攣りそうな足に鞭打ちながらも走り続けた。


 そして、着いた。


 アウラがセーフポイントと言った落とし穴の向こう側まで。


 そこでようやく足を止めた。


「ぷっは! もうダメ……走れな……走れない!」


 足は棒になったわ。もう全然動かない。


 遠くの剣戟が、近付いてくる。


 ザッと音がした。


 目の前には、ボーリング大の金属球があった。


 私に向かって飛んできて――。


 アウラが現れ、落とし穴に叩き落とした。


 メタルスライムは飛び上がるけれど、アウラに叩き落される。

 目にも止まらぬ速さで飛び上がってくるけれど、アウラは全てを叩き落とし続けた。


「あるじ! もう大丈夫だ! メタルスライムはここに封じた! ヤツを倒すのは至難の業だが、私が壮健である限り、ここから出ることはできん!」


 ん? それって、膠着状態なのでは?


「アウラは、倒せるんじゃないの?」


 アウラは首を横に振った。


「硬過ぎる。私の攻撃力は100だが、コイツの防御力は500あるだろう。致命傷を負わすのは難しい。メタルスライムに弱点があるという話も聞かんからな。町へ戻り、ギルドマスターに報告するのが早いだろうが……あるじ、どうする?」


 アウラの言う通り、私が町に帰って報告するのが一番確実だと思う。


 でも、アウラをここに置いていくのは心配。


 多分、一瞬の油断が命取りになる。


「……少し待って。試したいことがあるの」


 だから、私は行動する。


 伊達に科学の発達した日本で生活していた訳じゃないわ。

 大学に受かるだけの勉学はしてきたつもりよ。


「メタルスライムって、つまり金属よね。ちょっと灰を作るわ」


 私は土を掘り、簡易かまどを作る。

 そして、枯れ木、枯れ草を見繕って拾い、燃やす。


 もーえろよもーえろーよー、炎よもーえーろー。


 ハイ!


 灰ができたわ。


 これをソロソロっと落とし穴へ入れていく。


「あるじ? 灰を入れて、何とする?」

「金属って、腐食するのよ。酸だったり、アルカリだったりで」


 アウラは目線を落とし穴に向けたまま首を傾げた。


「腐食? 酸は分かるが……アルカリ?」


 私は簡単に説明した。


「腐食っていうのは、金属を溶かすってことよ。アルカリっていうのは、酸と逆の性質を持つけれど、酸と似たように溶かすの」


 アウラは、え? という顔をしていた。


「メタルスライムを……溶かすのか? 溶かして捕食するスライムを……溶かすのか?」


「もちろん、灰だけじゃダメ。それに確証は無い。だって、メタルスライムって何の金属か分からないし。でも、やってみる価値、あるよね~」


 私は火をかけるついでに沸騰させたお湯を落とし穴にそぉっと流し込んだ。


 灰とお湯、これで強アルカリ液が完成よ。


 さぁ、メタルスライムよ。どうかな?


「アウラ、どう?」


 アウラはガタガタと震えていた。

 落とし穴からジュージュー音がする。


 私は落とし穴を覗いた。


「やたっ! 良い感じに溶けてる!」

「あるじ! 鬼畜! オニ! デーモンの末裔! いや、グレーターデーモンの化身!」


 それ、悪口なのかな?


 あ、メタルスライムがデロデロになっている。


 もうアルカリ液は土に染み込んでしまった。


 大した量は作れていないからしょうがない。


 でも、弱ってるってことだよね?


 ……今こそテイムの時!


 私の全力テイム、喰らえぇい!


 光った。


「やったぁ! メタルスライム、ゲットだよぉ!」


 但し、私がはしゃぐ間に骸骨をムシャムシャと……。


「ぎゃぁぁああ! なんでぇ!? なんで骸骨食べるのぉ!?」


 一度ならず二度までも骸骨を捕食するとはコレ如何に?


 ん?


 骸骨を捕食?


 次は……まさか!?


 そこには、骨を食べ終え、輝き始めるメタルスライムがいたわ。


 程無くして、銀髪ボブヘアの華奢な美少女に変化した。


 また真っ裸じゃん。


 おっぱ……私より貧弱イェエェス!

 でも桜ピンク!

 腰ほっそすぎぃ! 折れちゃう!

 お尻ちっさ!

 もっとご飯食べようね!


「マスター。私に名付けを」


 うぐっ……アウラみたいなことにならないようにしないと!


 メタルスライムだから……。


「メル。あなたはメルよ」


 ダメだ安直な名前しか出てこないわ!


 だって突然過ぎるのよ!


 もっと時間をちょうだい? お願いしますからぁ!


 落とし穴から出てきたメルは、頭を抱える私の前に膝をつき、手を強引に取って甲へと誓いのキスをした。


 メルのステータスが明かされる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

メル

Lv40 攻10 守500 MP1000

メタルスライム、変化(MAX)

付与(MAX)、絶対なる壁

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 こうして私は新たな美少女スライムを仲間に加え、町へと帰るのだった。


 リコさんに何て説明すれば良いの?


 誰か助けてぇえええ!

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