第2話 最初の町〜カノーコ

 やっと町に着いた。


 アウラがいなかったら、私は絶対に死んでいた。


「あるじ〜、お待ちくだされ〜」


 私は金ピカのスライムを連れ、ようやく森から街道へ出た。

 町は目の前。木で作られた簡単な門があって、2人の門兵がい。


 アウラには、今までスライム姿になってもらっていた。


 スッポンポンで動き回られても困るし、森の移動はスライム姿の方が楽だとアウラも言っていたから、スライムに戻ってもらったの。


 森の中でのアウラは凄かったわ。


 スライムの群れに襲われても、触手で木の棒を操って瞬殺。

 大きなスライムに襲われた時は、変化で金髪美女になって目にも止まらぬ速さでボコボコにして倒してくれた。


 スライムを倒したら、魔石がポロポロと出てきたわ。

 きっとこれを換金するのね。

 これで飢えることはないし、ちゃんとベッドで眠れるわ。多分……。


「あるじ〜、魔石が重いのです〜。お待ちを〜」

「ごめんねアウラ。私も持てるだけ持つわ」

「かたじけぬ〜」


 金髪美女がスライム化したら、なんというか気が抜けるというか……。

 抱き枕にして寝ても良いかな?


 私がよこしまなことを考えていると、スライムアウラが体を傾けながら聞いてきた。


「あるじよ、人の姿で入りますか? それともこのままで?」


 私の答えは決まっている。


「スライムのままで行くわ。だって服無いでしょ?」


 金髪美女の裸を衆目に曝す訳にはいかない。


 オトコ達の目は当然あるだろうし、普通に猥褻物陳列罪だわ。

 門兵に連行されてあんなことやこんなことされて『くっ、殺せ』みたいな展開になるに決まってる。


 アウラ、無駄にそのセリフ似合いそうだもの。


「あるじ……【変化へんげ】する」


 アウラは勝手に変化した。


 全裸ではなく、軽装騎士の格好だ。

 ちょっとデコルテ出過ぎてない?

 谷間をそんなに強調しなくても良いんじゃないかな?


 アウラはなぜかプルプルしていた。

 私って、怖い?


「あ、あるじよ。出過ぎた真似だとは思うが聞いてほしい。テイマーはこの世界にごまんといる。スライムのまま町へ入ることも可能だ。しかし、そうなると変化が使えなくなる。この者の記憶に拠れば、変化するスライムなど……いや、モンスターが変化するなど聞いたこともないらしいからな」


 どゆこと?


「ってゆーか、この者の記憶に拠ればって……。骸骨さんの記憶?」

「そうだ。断片的にしか見ることはできんがな。それでも、この世界の常識くらいは垣間見える。本当は記憶の穴埋めを頼みたかったのだが、私の方が詳しそうだな……」


 ああ、神様ありがとう。

 私自身が弱くても、テイムしたスラちゃんが有能過ぎるSSRでした。


「お願いしますアウラ様」


 私は頭を深く下げた。


「ふふん、あるじのためなら何だってやろう」


 ドヤるアウラは可愛い。

 この子になら踏まれたって構わない。


 アウラに連れられ、あっさりと門を通過した。


 私は山奥の村娘。商売を始めるために、ギルドへ登録しにやってきた設定だ。

 アウラはその護衛ということ。

 スライムの森を突っ切った際、身分証をスライムに溶かされたということにした。


「それは災難でしたね。頑張って」


 普通に信じてくれた。

 見送ってくれた門兵は良い人なのかも?

 女の人だったし、同性のよしみで良くしてくれたのかな?


 門から先は、寂れた田舎の商店街みたいな感じだ。


 コンクリートの建物は無い。藁葺わらぶきの家が多く、たまに木造の平屋があるくらい。


 人通りもそんなに多くない。

 

「もうすぐ2階建ての木造建築があって、そこが冒険者ギルド兼商業ギルド……だったはず」


 アウラは腕を組んで頑張って思い出そうとしてくれている。


「がんばれ、アウラ。ファイト、アウラ」


 私は応援しかできない。

 でも、応援する度に口元が弛むアウラ。


「にへ、ふへへ」


 金髪美女がして良い顔じゃないよ?


 そう思っていた矢先、それっぽい建物が見えた。


 近くに行く。


 文字は分からない。少なくとも日本語じゃない。

 でも読める。


「冒険者ギルド&商業ギルド! やっと着いた!」


 そうだよね。門兵さんとは話できたもんね。


 ともかく、これで助かった。


 中には誰もいない。


「たのもーう! 誰かおらぬかぁ!?」


 アウラが大きな声を出してくれる。

 誰がどう見ても、私がアウラの従者よね。


「へーい! ちょっと待ちなぁ!」


 バタバタと階段を駆け下りる音がして、奥の扉から浅黒い肌の姐さんが現れた。

 赤いバンダナにドレッドヘアー、薄手の白布で胸の前で雑に結ばれただけで、こっちに来る度にバルンバルンにしている。


「やぁやぁ待たせたね。おや? 新顔だね。あたしゃリコ・イルバーン。この町、カノーコの冒険者及び商業ギルドのマスターをしている。規模が小さいから兼任しているよ。よろしくな」


 元気なお姉さんだ。何だかとっても頼りになりそう。


「紹介感謝する。私はアウラ。こちらは我が主だ」

「ユリです」


 アウラに紹介されて頭を下げる。

 本当なら私が前面に出なきゃいけないって分かってるけど、アウラがやってくれないと私ムリ。


「ほぉ? ユリが主でアウラが従者……覚えたよ。で? こんな真っ昼間にどうしたんだ? もう依頼はほぼ残ってないよ?」


 そう言って、リコさんは依頼の貼り付けてある掲示板を指差した。

 紙は1枚しか残っていない。


「実は山奥から初めて出てきたのだ。私も地理に疎くてな。森を突っ切れば早いと思ったのだが、スライムに身分証を溶かされてしまった。再発行か新規発行をお願いしたい」

「わ、私はあきないをするために家を出たので、商業ギルドに新規登録を!」


 リコさんは私達をジッと見る。

 疑われているのかな?


「まぁ良いだろう。新規は銀貨2枚、再発行は1枚だが、金はあるかい?」


 あー、お金かぁ。そりゃそうだよね。お金掛かるよね……。


「金も溶かされた。だが、魔石ならある。換金できるか?」


 アウラは魔石をカウンターに置いた。


「お? 本当はダメだが……こりゃ良い。スライムの魔石だ。ユリ、そこの掲示板に残ってる依頼書持ってきな」


 私は言われるまま、掲示板の依頼書を剥がす。


 ーー スライムの魔石50個の納品 ーー


 こう書かれた依頼書をリコさんに出した。


「ギルマスからの特別依頼ということにしといてやるよ。特別依頼だが、特別扱いじゃないとだけは言っておく」


 リコさんは溜息を吐いた。

 チラチラこっちを見ている。


 理由を聞いてほしそうだ。


「何かあったんですか?」


 リコさんは待ってましたと言わんばかりに、身を乗り出して語り始めた。


「そうなんだよ。スライムの森に……メタルスライムが出ちまった」

「メタルスライム?」

「メタルスライムだと?」


 アウラもスライムなのに反応している。


「メタルスライムって、危ないの?」


 リコさんが答えてくれた。


「メタルスライムは最弱スライム中でも特殊な存在だ。速い、強い、何より硬い。倒せば高値で売れる魔石が手に入るが、A級冒険者がな……2人森に入って、もう1か月は出てこねぇのよ。やられちまったんだろ。ゴールデンスライムも出たとか言う噂まで立っちまった。もう軍隊呼ぶしか手段がねぇのさ。実際呼んでる。まだ来ちゃいないがね」


 私は堪えた。吹き出すのを耐えた。

 アウラは背中を見せて天を仰いでいる。

 冷や汗ダラダラなの、丸見えだよ?


「あの、参考までに聞きたいのですが、ゴールデンスライムとは?」


 リコさんは、さっきより深い溜息を吐いて言った。


「スライムが何らかの条件で進化した超特殊個体だ。もはや伝説のスライムと言って良い。黄金を生み出し、引き連れるスキルを持つと言われており、富と名声の象徴と言われる……まぁ都市伝説なんだがな。黄金を引き連れるなんて意味不明だし。にしても……」


 リコさんは笑って話し、アウラをジッと見る。


「アウラって、森に入ったA級冒険者の一人に似てるんだよな。髪色は紫だったし、お嬢様みたいな出で立ちだったから全くの別人なんだが……雰囲気がなぁ」


「そうだとも。それは気のせいだ。が、確かに森にスライムが多かった。関係しているのか?」


 アウラの声は上擦っていたけれど、上手く誤魔化したわね。


「……そうだ。メタルスライムのせいで冒険者が森に入らなくなっちまった。おかげでスライムが絶賛増殖中。スライムの魔石は安いから、割に合わねぇ。そんな時にお前らが、スライムの魔石を100個ちょい持って来た。だから特別報酬として、冒険者ギルドカード及び商業ギルドカードを事前に受け付けよう。魔石も色を付けて換金してやる。宿や飯代にはしばらく困らんだろう。ほら、持ってきな」


 リコはそう言って、茶色のプレートを私とアウラに、そして銀貨の入った袋をくれた。


「できれば、しばらくここに滞在してスライムを狩ってほしいところだ。アウラの冒険者ランクはF級だが、お偉い方が来るまでスライムを狩ってくれたらD級にしてやろう。ユリもな。これは破格の対応だぞ?」


 そうなのかな?

 私はアウラを見る。

 アウラは頷いた。


 そっか。まぁランク高くて困ることはないでしょ。


 しばらくはここで落ち着きたいし。


 私はリコさんの紹介で宿屋に行き、ようやく身体を休めるのだった。


 もちろん、スライムアウラと寝た。


 抱き心地は最高だったわ。

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