変スラ道中百合粟毛〜最弱テイマーと7匹のスライム

Norinα

第一章 黄金の町

第1話 黄金の出会い

 私の名前は粟毛ユリ。

 栗毛くりげじゃない。粟毛あわけ


 中学はリンゴみたいな体型で男子からからかわれ、高校デビューに失敗し、やつれて痩せて二浪して、名門大に入ったは良いものの、いきなりヤリサーの飲み会に引っ掛かった。


 イケメンがいれば良かったのよ。


 でも全員サルゴリラ。チンパンジーの方がまだマシな連中に、処女を奪われてたまるか。


 イケメンが来るって釣られた私はバカよ。


 オシャレのために履き慣れない13cmピンヒールで来た私もバカ。


 初めて飲む酒を一口。飲んだ私は、本当にバカ。


 こんなにお酒が弱いなんて思わないわよ。


 バカじゃなければ、繁華街の脇にある川に沈むこともなかったのにね。


 こんな娘でごめんね、パパ、ママ。


 プカプカする意識の中。

 声がした。


『レベルガチャ……限界値1……ザコじゃのぅ。せめて攻撃力は……ガチャ結果、MAX1!? 稀に見るザコじゃ……。守備力は1が限界値じゃないが平均。せめてMPガチャこそ……限界値2!? 神懸かり的なザコになったわぃ』


 私の前で、スロットを回すお爺さんがいた。


 神懸かり的な雑魚ザコって、私のこと?


『そうじゃ。でも安心せい。これよりスキルガチャじゃ。ふんっ! 職業はテイマー! 普通じゃな。んん!? 制限有りじゃと!? スライムのみ……レベルも攻撃力も低過ぎたわぃ』


 は? どうしてくれるの?

 というか、どういうことなの?


『お主は死んで、生まれ変わる。その世界の名は、ザッツイート、そう呼ばれておる頃じゃ。頑張ってスライムをテイム……飼い慣らして生きるが良い』


 は? 待って、意味分かんないし。


『スキルガチャは変化へんげ(MAX)、付与(MAX)か。どっちもそこそこの当たりなんじゃがのぅ……変化は素材があれば何にでもなれる。ただMPを食う。限界値2じゃクソスキルじゃ』


 私生まれ変わるの?

 生まれ変わるのに、神懸かり的な雑魚なの?

 そんなの……あんまりだよ!?


『あんまりなモノではない。それがそちら新たなる世界では普通じゃ。力もスキルも無いなら、肉体労働で地球と同じように生を営むが良い。そんな人間は山のようにおるわぃ』


 だったら、生き返らせてよ!

 やだよ! こんな死に方……天国に行かせてよ!


『残念じゃが、転生に選ばれた者はもう一度生を全うせねばならん。自死は問答無用で地獄行きじゃ。覚えておけ。それが嫌なら魔王を倒せ。まぁそんなステータスじゃまず無理じゃろうが』


 そんな、魔王までいるの? ひどい。あんまりだよ……。


『とはゆーてものぉ。これもルールじゃからなぁ。あぁそうじゃ。付与は中々のレアスキルじゃぞ。味方にだけしか使えぬが、自分のステータスに表示されるモノをレベルに応じて付与できる。それがMAXじゃ。……付与できるもんは……無いか。消費MP無しとは言え、クソスキルじゃったな。すまんの』


 もうやだ。

 生まれ変わるらしいけど、すでに絶望じゃん。


 これ、よくある転生アニメ的な?


 せめて美少女に転生させ……いやダメ、そんなことしたら薄い本に――。


『良かろう。容姿くらいならイジる権限はある。とびっきり可愛い美少女に転生させてくれようぞ! 神の力を知るがよい!』


 だぁぁぁめええええ!


『では、達者でな!』


 ああああ! ゴブリンにあーんなことされる未来しか見えないぃ!

 もう殺してぇ!

 リスキルしてぇ!


 そして私は静かな湖畔で目覚めた。


 湖畔に映る私は、黒髪ストレートのザ日本人。

 胸やおしりはちっちゃいけど、アイドル顔負けのかわい子ちゃんになっていた。


「やった! 私可愛い! じゃない! ステータスオープン!」


 アニメにも精通している私に、狼狽うろたえる暇などない。こういう時はソッコー。時間との戦いよ。


 私のステータスが表示された。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ユリ・粟毛

 Lv1(MAX)攻1(MAX)守1 MP2(MAX)

 テイマー(制限:スライムのみ)

 変化(MAX)、付与(MAX)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 絶★望。


 ステータスが表示されるということは異世界確定ね。

 夢であってほしいけれど、夢じゃなかったらこの先地獄でしかない。


 嘆くのは後。


「がんばれ私、頑張れユリ。明るい内に、やれるだけやるの! スライム狩りの時間だわ!」 


 そして私は森へと駆けた。


 後で気付いたんだけど、すぐ街へ行くべきだったわ。


 運良く、ここはスライムの森で、スライムしか居なかった。

 木の棒で、私が倒せるくらい弱かったの。


 本当に、運が良かった。


 でも、私の運はここで尽きたわ。


 だって、森で死ぬ程テイムしたのに、全部失敗したんだから。


 森を彷徨って、骸骨を発見したわ。

 分かる? 骸骨よ? 死体とも言えるわ。


「私もこうなるのかな?」


 もう心は折れた。

 

 だって、空が茜色になってきたんだもん。


 もうすぐ夜。


 今からじゃ絶対に、夜までに町へ着かない。

 そもそも方角が分からない。


「詰んだ……」


 私は途方に暮れた。

 膝を抱えて三角座り。

 もう、泣いても良いよね?


 でも、薄汚い黄土色のスライムが、ゆっくりと私に近付いてきたの。


 木の棒を握る。

 でも、私は立てなかった。


 薄汚いスライムは、弱々しく、私に擦り寄ってくる。


「ナニよあなた、私の仲間になりたいの?」


 私はスライムを撫でながら聞いたわ。

 答えるはず無いって思ったけれど、プルプルって、嬉しそうに震えたの。


 ……可愛いヤツ。


 よし、決めた。


「だったら、私の全部を注いでやる! 私の全部! 持ってっけぇえええ!」


 私は全身全霊で、黄土色のスライムをテイムした。


 ダメ元でやってみたけど、光った。

 これ、成功よね?


「やった! やったわ! 初めてテイム、成功しちゃった!」


 柄にもなく、はしゃぐ私。

 でも、テイムしたスライムは、目の前の骸骨をムシャムシャしていた。


「ぎぃぃいやああぁぁああ! 罰当たりぃい!」


 きっと可愛い乙女が出したらいけない声を出していたと思う。


「もしかしてスライムって、激ヤバモンスター? なんでも食べて消化する的な? え? 私、木の棒で戦ってたけど、実は超絶無謀なことしてたの? あわわわわ!」


 今になって恐怖が一気に襲ってくる。


 私の戦力は黄土色のスライム1匹だけ。


 と、思っていたのよ。


 そこには、骨を食べ終え、輝き始めるスライムがいたわ。


 程無くして、金髪ロングヘアーの激カワ美女に変化した。


 真っ裸じゃん。


 おっぱ……でっか!

 しかもロケッツン!

 腰ほっそ!

 お尻はもっも!

 重力ちょっとは仕事して!


「あるじよ。私に名付けを」


 ふぇ?


「あぅら?」


 いきなり言うもんだから変な声出ちゃったじゃない。


「アウラ……良き名だ。私はゴールデンスライム改め、アウラ。あるじ、私を救ってくれてありがとう。これより我が全てを、あるじに捧げ、尽くそう」


 なんか名付けも終わっちゃったし。


 ゴールデンスライム?

 薄汚い黄土色のスライムじゃなくて?


 アウラは腰を抜かした私の前に膝をつき、手の甲へと誓いのキスをした。


 アウラのステータスが明かされる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アウラ

Lv30 攻100 守50 MP1000

ゴールデンスライム、変化(MAX)

付与(MAX)、黄金の冠

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私の付与で、変化も付与されたってこと……ね?


 どーして? なんで? これって有りなの?


 ともかく、こうして私は1匹のスライム? と出会い、翌日の昼前、無事に最初の町、カノーコへと辿り着くことが出来たのだった。

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