第36話 サイコメトリー
アゲハさんの占いに行った翌日。
わたしとカグヤは図書館に来ていた。
「カグヤはアゲハさんのことどう思う?」
「目が見えているかどうかってこと?」
カグヤと作戦会議だ。
「そうよ。あの動きは絶対に不自然なのよね」
わたしは昨日のアゲハさんを思い返す。
アゲハさんはわたしたちにお辞儀を返したり、目線を合わせたりした。
なんでアゲハさんは、わたしたちの動きが見えているかのような反応ができるのか。
今日はカグヤと話し合うことにした。
「でも、目が見えているってことはないでしょ」
「そう思う?」
「だって目を開けていなかったし」
「やっぱそうだよね」
わたしもそれは気になっていた。
アゲハさんの顔をじっと見ながら話していた。
その間、アゲハさんが瞼を開いたことは無かった。
瞳の色は分かっていない。
「ただの偶然じゃないのかな?」
「カグヤはそう思う?」
「お辞儀だってなんの意図もなくてもすることだってあるでしょ。それがたまたま私達とのタイミングと合ってただけでしょ」
「そう考えるのが自然よね」
それが自然ではある。
けれども、何か引っ掛かるものもある。
奇妙に感じたから、占いの最後でアゲハさんに聞いてみたんだけども。
「他に説明できる仮説ある?」
「……荒唐無稽なやつなら」
「例えば?」
「アゲハさんは赤外線を探知できて、わたしたちの動きを熱で追っているとか」
「カエルじゃないんだから。赤外線見える人間はいないわよ」
「そうだよね……」
他に良い仮説も思いつかない。
「超音波でわたしたちの動きを探知できるとか」
「コウモリじゃないんだから」
「耳が良くてわたしの身体の動きが探知できるとか」
「イルカじゃないんだから」
よくそんなに動物の例が出てくるものだ。
動物シリーズに正確に突っ込んでくれるカグヤは優しい。
「実際アゲハさんはさ、未来なんて見えないって言っていたけど、何かは見えていそうなのよね」
やっぱり偶然で片付けるには納得できない。
アゲハさんも「順を追って説明しようかしら」って言っていたから、何かしらあるに違いない。
「まぁ、次に行ったときに訊けば良いんじゃない?」
カグヤはあっさりしていた。
「それはそうなんだけど。カグヤは気にならない?」
「気にはなるけど、優先順位は低いわね。それより本を読んでも良いかしら?」
「まぁ、いいけどさ。わたしはこの難問を考えるわよ」
「どうぞ」
カグヤはそう言って、本棚の向こうに消える。
わたしたちのデートはだいたいこんな感じ。
二人で図書館に来て、お互いに好きな本を読む。
読み終わったら読んだ本の感想を喋る。
ただ今日は、わたしの読書は中止。
アゲハさんの秘密を考える。
「う~ん?」
紙にペンで思いつくだけのことを書き出す。
アゲハさんの額に第三の目があって、それで見ているとか?
それだとわたしもカグヤも気づいていないのおかしいか。
裏で誰かがこっそりカメラで監視していて、アゲハさんに指示を出しているとか?
イヤホンモニターとかでこっそり音声指示ならできそう?
でも、そんなことをする理由がなさそう。
そう。
一番謎なのは動機だ。
アゲハさんは目の見えない占い師。
それはメディアにも取り上げられている事実だ。
そのアゲハさんが、目の見えている振りをする意味が想像できない。
そんなことをするのは全くの無駄。
何か良いことでもあるのかな?
何も思いつかない。
「良い案でも思いついた?」
本を片手にカグヤが戻ってきた。
「なんにも思いつかないわね」
「そっか。残念」
カグヤは席に着いて読書を始める。
「今日は何を読むの?」
「サイコメトリー」
カグヤは表紙をわたしに見せてくれた。
科学的な解説書。
しかしそのタイトルは馴染みのない言葉だった。
「サイコメトリーって超能力だっけ?」
「そう。物体に残る人の残留思念を読み取るやつ」
アゲハさんのことは気にならないって言っていたのに、しっかり調べる気でいてくれる。
可愛い。
「残留思念?」
「物に残った思い出のことよ」
「物の思い出?」
難しい概念だった。
「過去の記憶を持っているのは生物だけなんだけど。無生物も記憶を持っていて、それを読み取るのがサイコメトリーよ」
とんでも話だった。
「そのサイコメトリーが使えれば、目が見えなくても物の動きが分かるってこと?」
「そうよ。ただしサイコメトリーって、きちんと科学的に説明できるものではないけどね」
「アゲハさんがサイコメトリーできる可能性があるってこと?」
そんな超能力でした! って話をアゲハさんがするとは思えない。
いきなり哲学の話をしてきた占い師だし。
きちんと科学に沿って話をしそうな気がする。
「これを読んでみてから判断する」
カグヤはそう言って、本を読み始める。
白い指が丁寧にページをめくる。
表情は至って真剣。
文字を追って素早く目線が上下している。
図書館で本を読む美少女。
いつも見ている顔だけど、とても様になっている。
……いけないいけない。
カグヤに見惚れている場合ではない。
わたしはわたしで考えなきゃ。
「むむむ……」
考えなきゃとは思うものの、良い考えが思いつくはずもなく。
わたしはペンを動かせずにいる。
通常の人間の能力を超えたものなのか。
それとも手品のようなトリックがあるのか。
また、何のために目が見えているかのような仕草をしたのか。
合理的な理由を説明できない。
わたしが眉間に皺を寄せて悩んでいるときだった。
胸ポケットに入れていたスマホが振動した。
「おや」
カグヤも同時にスマホが反応したらしい。
わたしたちはそれぞれスマホを見る。
「おっ、やった!」
それはセーラさんからだった。
嬉しい知らせ。
ミステリーハウスの第二回が開催決定したとのこと。
わたしとカグヤに同時に案内が送られてきた。
「こんなに早く第二回が決まるのね」
カグヤも嬉しそうだった。
前回の動画が好評だったみたい。
第二回もまた同じメンバーで、またトコヨさんが台本を書いたようだ。
「楽しみだね」
来月の予定が決まった。
「次は犯人もやってみたいわね」
「カグヤが犯人だと、すぐばれるわよ」
「そうかしら?」
「ええ。わたしにはカグヤの嘘がすぐ分かるから」
前回も試してみた。
カグヤの心音を聞けば、動揺しているかどうかすぐに分かる。
「それはそれで超能力だと思うのよね」
「いやいや。愛の賜物だって」
そんな話をしながら。
結局アゲハさんの謎は謎のままになっていた。
四季咲サイリの占い 司丸らぎ @Ragipoke
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