第33話 占いの仕組み
「今日はどんなご縁でいらっしゃったのかしら?」
アゲハさんの声は柔らかく、まるで包み込むようだった。
わたしは少し緊張しながらも、口を開いた。
「わたしたちが仲良くなる方法が知りたいのと、占いの仕組みについても聞きたくて来ました」
アゲハさんは驚いた顔をした。
目を瞑ったままでも驚いていることが分かる。
人間の表情とは豊かなものだ。
「占いの仕組み?」
「ええ、なんで占いって当たるのかなって、気になって」
わたしはかなり芯を食った質問をしたつもりだった。
「そんなもの、適当に言えば当たるときもあるし当たらないときもあるわよ」
アゲハさんの答えは力の抜けるものだった。
わたしもカグヤも間の抜けた顔をしてしまった。
アゲハさんは占い師だから「私の占いは絶対当たるわよ」みたいな返答が来ると思っていたのに。
「そんなに適当なんですか?」
「そりゃそうよ。未来を確実に言い当てられるなら、みんな人生に苦労しないわよ」
大雑把な総括だった。
「占い師って未来を言い当てる仕事じゃないんですか?」
カグヤが訊いてみる。
「そういう人もいるけど私は違うわ。
私はお悩み相談カウンセラーに近いの。
お客さんのお悩みを聴いて、アドバイスするだけよ」
どうやら。
アゲハさんはわたしたちの思っていた占い師のイメージとは全然違うようだ。
「未来予知をしないんですか?」
今度はわたしが訊いてみる。
「しても良いけど、当たる保証はないわよ。
別に私に不思議な力があるわけじゃないし」
アゲハさんはかなりラフに話してくれる。
こちらの肩の力も抜けていく。
「占い師って、水晶とかタロットとか使って未来を言い当てるものじゃないんですか?」
カグヤが占い師のイメージを語る。
「そういう人もいるかもしれないけど私は違うわよ。
未来なんて見えないわ。
あなたたちの顔も見えないんだから」
目が見えない人のなかなか斬れのあるブラックジョークだった。
笑いづらい。
「でも、受付には水晶玉やタロットカードがありましたよね?
あれを使って未来を見るんじゃないですか?」
カグヤは続けて訊いてみる。
そういえば受付には占いでよく見るアイテムがあった。
「私はあれを使わないわよ。使うのは占って欲しい人なの。選択の痛みを和らげるためにね」
「痛みを和らげる?」
不思議な言葉が出てきた。
「逆にあなたたちに訊きたいんだけど、占いが当たったことある?
占いの通りに行動して良かったことあるかしら?」
わたしはそう言われて最近のことを思い返す。
「ありますよ! 占いがあたったこと」
「聴かせてもらえるかしら?」
「はい!」
わたしはこの間のミステリーゲームの話をした。
わたしとカグヤは動画の企画でミステリーゲームに参加した。
そこでたくさんの事件が起きた。
わたしたちは捜査を続けるも犯人にたどり着けない。
そんなとき占いアプリを試してみると、カグヤが大凶を引いた。
「大凶。気分転換に化粧を変えてみたら?」
占いにはそんなアドバイスが書かれていた。
そこからファンデーションで指紋を採取することを思いついた。
そして犯人を追い詰めることができてゲームに勝利したのだった。
「……随分楽しそうな占いをしたのね」
わたしの話にアゲハさんは圧倒されていた。
「占いのアプリが役に立ったんです。
これって未来を正確に予測したってことになりませんか?」
あのときの占い結果にはとても感謝している。
あれがなかったらわたしはゲームに勝てていなかった。
「でも、未来を正確に予想するんだったら、サイリさんの占い結果でそれが出ないとおかしくないかしら? カグヤさんの占い結果でそれが出たんでしょう?」
「…………たしかに?」
「正確な予測だったらサイリさんの占いの方に『大吉。化粧を変えてみると良いことがある』って出ないとおかしくないかしら?」
「本当だ!」
言われてみるまで気付かなかった。
あの占い結果はカグヤが大凶なことを示していた。
けれどわたしにとっては大吉を招いていた。
きちんと対応がとれていない。
ちぐはぐである。
「単にサイリさんの頭が良かっただけよ」
「そうですよね」
アゲハさんの言葉にカグヤが同調した。
なぜかカグヤが鼻高々だった。
「でも、占いが役には立ったんですよね」
わたしは食い下がる。
「言葉一つが役に立つこともあるし立たないこともある。
それが占いの厄介なところよね」
「厄介ですか?」
「ええ。なんの根拠もなく言った言葉が当たるときも外れるときもある。どんなに下手な占いでも、それっぽい言葉を並べれば正答率ゼロにはならないわ」
正答率ゼロにはならない。
以前カグヤが言っていたバーナム効果。
誰にでも当てはまるようなことを言われても、自分に強く当てはまると感じてしまう現象。
それと似たような話。
「それっぽい言葉って、例えばどんなものでしょうか?」
「「例えば、『あなたは過去に困難を経験したことがありますね』とか、『今、何かを決断しようとしているはずです』といった言葉を聞いたら、どう感じますか?
それはきっと、多くの人にとって、何かしらの形で当てはまるでしょう?
ほとんどの人が、何かしらの困難を乗り越え、日々何かを決めて生きていますからね」
アゲハさんの言葉を聞いてわたしは納得した。
確かにそれっぽい。
「でもあなたたちは面白いことをしているわね。わたしもあなたたちに興味が湧いてきたわ」
「あら」
占い師さんに興味を持ってもらえた。
なんか嬉しい。
「そうね。あなたたちは賢そうだし、順を追って説明しましょうか。
私の占いの仕組みを」
そう言ってアゲハさんは椅子に深く座り直した。
この瞬間からわたしはわくわくが止まらなかった。
もうこの占いに来て良かったと確信している。
絶対に面白い話になる。
カグヤも同じ気持ちだろう。
「お願いします」
あんなに占いを嫌がっていたカグヤも嬉しそうな声を出す。
この人は当たりの占い師だった。
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