第31話 決着
わたしはトコヨさんを上回ることができた。
台本を作成したトコヨさんの想定を上回って指紋を採取する方法を見つけた。
『この建物の中に有るものは使って良い』と言われたので存分に利用することにした。
「このパソコンはカグヤを殺すために犯人が使ったものです」
「ここから採取できる指紋は犯人のものだってことね」
カグヤが合いの手を入れてくれる。
「ええ。今日、わたしは触っていないし、みんなにも触らせなかったわ。触ったのは犯人しかいないの」
わたしがこのパソコンを発見してからは誰も触っていない。
だからこの5人の指紋がこのパソコンに付いているはずはない。
「それで、本当に指紋が採れるの?」
「もちろんよ」
わたしは道具を手に取る。
使うものはファンデーションとセロハンテープ。
まずは指を押し付けた場所に化粧筆を使ってファンデーションをまぶす。
すると指紋の皮脂に沿ってファンデーションの粉が模様を描き出す。
息を吹きかけると指紋の形状に粉が残る。
その粉をセロテープで貼りつける。
指紋の見やすい黒い紙にセロテープを貼り替えて指紋採取の完成!
「ちゃんと指紋が見えるわね」
「すごいでしょ!」
「これで30回目だしね」
「それは言わないでよ!」
実は皆に見せる前にたくさん練習した。
さらっと手順を説明したけど、ちゃんとした指紋を採取するのは相当難しかった。
採取の途中で粉の形が崩れたり、指紋がいくつも重なっているせいで判別しにくかったり。
何度も何度も繰り返し練習してようやくそれらしい指紋が5種類ほど採取できた。
「しかし、よくこんな方法を知っていたわね」
「昨日読んだ本に書いてあったの。実際の捜査にはチタニウムやアルミの粉末を使うけれど、ファンデーションやベビーパウダーみたいな身近なものでもできるって」
昨日の寝る前にミステリーを読んでいて良かった。
直前のインプットがこんなにクリティカルに役立つなんて。
「それで、この指紋が犯人のものってことで良いかしら?」
「ええ。もしかしたら昨日以前に使用した人の指紋が混ざっているかもしれないわ。でもこのパソコンから5種類の指紋を採取できた。この指紋のどれかがこの中のだれかの指紋と一致すれば犯人が確定よ!」
わたしは皆に宣言した。
今から全員の指紋を調べる。
採取した指紋と照合すれば犯人が確定できる。
「じゃあ、みんなの指紋も採取させてもらおうかしらね」
カグヤが言った。
これからみんなの指紋を採取して一致しているかどうかの確認だ。
「その必要はないわ」
張り切って採取しようかと思ったけど、トコヨさんが遮った。
「えっ?」
「その方法なら、犯人は確実に特定できるわね。わざわざやらなくて良いわ。犯人はセーラよ」
トコヨさんの口から犯人の名前が明かされた。
「トコヨ!?」
セーラさんもびっくりして声を出す。
「ゲームセット。サイリちゃんの勝利!」
トコヨさんからゲーム終了の合図が出る。
周りのスタッフさん達が拍手してくれた。
わたしは一瞬とまどったけど。
だんだんと嬉しくなってきて、えへへと笑った。
そしてカメラに向かってピースして見せた。
~~~~~~~~~~
その後、みんなで夕食になった。
メニューはステーキ。
スタッフさんが焼いてくれた。
「面白かったですね」
みんなでミステリーゲームを振り返りながら美味しく食べる。
「サイリちゃん、すごいわね。あんな方法で指紋を採取するなんて」
セーラさんが褒めてくれる。
「それに関しては、わたしの失策だわ。指紋を採取しても良いなんて言うんじゃなかった……」
進行役のトコヨさんも一緒に夕食を食べていた。
トコヨさんは自分の進行の甘さを悔いているようだった。
「仕方ないわよ。まさかここにあるものだけで、指紋が採れるとは予想できないわ」
セーラさんが慰める。
「台本を考えるときに、指紋のことはちょっと頭によぎったのよね……でも大丈夫だと思って油断しちゃった」
「まぁ、メイク道具で指紋が採れるのは私も初耳だったし」
「念には念を入れて、セーラにゴム手袋を付けて犯行してもらえば良かった……」
「そうしたら、ゴム手袋を安全に捨てないといけないわよ?」
「それはそれで難しいか……」
トコヨさんとセーラさんの反省会が続く。
「良かったわね。サイリの大勝利よ」
カグヤが褒めてくれた。
「それはそれで嬉しいんだけどね。でもわたしが一人勝ちしたみたいな形は申し訳ないかな」
「そうかしら?」
「そうよ。カグヤと一緒に証拠集めたし、最後に指紋を思いついたのも占いのおかげだし」
自分一人で頑張ったわけじゃない。
自分一人だけの自力だったら犯人までたどり着けなかったと思う。
「でも良いんじゃない。最終的に指紋の採取にまでたどり着けたのはサイリだけだったんだし」
「そこは自慢できるとこではあると思うんだけどね」
かなりの偶然も重なってのことだ。
しかもとどめは占いだったし。
偶然も偶然だ。
「もっとスマートに解決したかった?」
カグヤがわたしの心を見抜いたように訊く。
「スマートっていうか、わたし一人の手柄に見えるのがしっくりこないのよね。カグヤも頑張っていたのに」
「私は道中頑張ったから良いのよ。サイリが迷走しているのを正しい順路に導けたわけだし」
そう言われてわたしの行動を振り返る。
……言われてみればかなり迷走していたな。
わたしが迷子になるたび、カグヤが正しい推理のきっかけをくれたっけ。
ここまで推理が完成したのは相当にカグヤのおかげだ。
「ありがとうね、カグヤ」
「ん。お疲れさん」
カグヤは照れくさそうに言った。
カグヤは目立つのが得意じゃないから、これくらいのポジションの方が居心地が良いのかもしれない。
推理ゲームとしてもしっかり楽しめたようだし、カグヤとしては満足の立ち回りだったんだろう。
「楽しかったね」
「ええ、またやりたいわ。今度は犯人役の方もやってみたいわ」
それはわたしもやってみたい。
指示通りに上手に殺して、推理パートで皆を口で騙す役。
「でも、次があるかしら?」
「やるわよ!」
わたしの疑問にトコヨさんが威勢よく答えてくれた。
「おっ! あるんですね!」
「もちろん! このままだと、わたしが一人負けしたみたいなものだからね。リベンジさせてもらうわ」
トコヨさんの瞳に火が付いていた。
今回の失敗を相当悔いているようだ。
「楽しみに待っています」
「ええ。今度こそ完璧なシナリオを書いて、進行係として完璧な立ち回りをしてみせるわ」
やった!
第2回があるらしい。
楽しみだな。
次はもっとかっこよく勝てるようにしたいな。
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