第30話 推理披露


「みなさん、お集まりいただきありがとうございます!」


わたしは集まってもらったみんなに声をかけた。

さぁ、わたしの推理披露の始まりだ。

ここはスタッフルーム。

プレイヤーが5人。

わたし、カグヤ、セーラさん、スミレさん、ツツジさん。

あと進行役のトコヨさんとかスタッフの人が数人。

みんなが入るにはちょっと狭い。


「随分気合が入っているわね」


カグヤがわたしをなだめるように声をかける。


「ここが山場だからね!」


わたしは更に気勢を上げていく。

もうゴールが見えている。

楽しくって仕方がない。

ここは動画で良い感じに編集されるはず。

とびっきり良い顔をして推理を披露しよう。


「犯人が分かったのね」


セーラさんが声をかけてくれる。


「いえ、まだ分かっていません」

「?」


わたしの説明に皆が不審そうな顔をする。

この時点でわたしが何をするか分かっているのは二人。

カグヤとツツジさん。

この二人はわたしが準備するのを見ていたから知っている。

他の人たちはわたしが何をするのか想像もしていないだろう。


「それでは犯人を見つけていきたいと思います!」


わたしは宣言した。

今から犯人を導き出す。

これを使って。

わたしは必要な道具を机の上に並べる。

ファンデーションとセロテープ。

ファンデーションはスタッフさんに借りたもの。

セロテープはこのスタッフルームの段ボール箱の中に入っていたもの。


「これを何に使うの?」


セーラさんはわたしに訊く。


「その前に事件の振り返りをしましょう」


わたしはパソコンの前に立って、説明を始める。

ばっちりカメラ目線。


「事件の振り返りって、どの事件?」


カグヤが質問してくれる。

カグヤはわたしがしたいことは全部分かってくれている。

だからカグヤ自身に疑問はない。

ただ「動画にしたときに見やすいように質問してね」とお願いして、こういう形式で推理を進めていくことにした。

ゆっくり霊夢と魔理沙のつもり。

動画映え意識。


「最初にカグヤが殺された事件よ」

「私が寝ている間に、天井が落ちてきて潰されたやつね」


==========

被害者:月乃海カグヤ

死因:平らなもので全身を押しつぶされて死亡

死亡推定時刻:深夜2:00~4:00頃

==========


「そう、それよ。ここでの犯人の動きを確認したいわ」

「犯人の動き? 夜中にこのスタッフルームに来たってだけじゃない?」

「そうなのよ。犯人は夜中にこのスタッフルームに来た。そしてこのパソコンで天井の仕掛けを作動したのよ」



カグヤを殺すのは簡単。

夜中にこのスタッフルームに来れば良いだけ。

ここにいる全員に可能なことだ。


「それは誰にでもできるわよね? 犯人が誰かに絞れるのかしら?」


カグヤがわざとらしく訊いてくれる。

死体の振りは下手だったのに、こういうのは上手に演技できるじゃない。

可愛い可愛い。


「捜査パートが開始したとき、みんなでスタッフルームに来た時のことを思い出してほしいわ」

「ここに来た時の事?」

「ええ。わたしがこのパソコンの指紋を採ろうとしたときのことよ」



以下回想。


~~~~~~~~~~


画面にこのホテル魔方陣の部屋番号が表示されている。

もしかして、ここで天井を操作できるのではないか。


「この建物の何かを管理していそうね」


セーラさんが気付いたことを口にする。

わたしもそう思う。

建物の部屋が表示されていて、何らかを電子制御していそうなのだ。


「これで天井を操作できそうじゃないですか?」


わたしはみんなに問いかける。

みんなも、できそうだという期待の眼差しを返してくれる。


「触ってみる?」


セーラさんがわたしに訊く。


「ちょっと待ってください。これが本当に天井を操作するシステムなら、触らないでください」


わたしはみんなをパソコンに近寄らせないようにした。


「どうしたの?」


セーラさんの疑問。


「触る前に、指紋を採取したいです」


わたしの返答に、みんなが驚きの顔を見せる。

ただ、わたしは朝からずっと指紋のことを考えていた。

だからこのパソコンには一切触らなかった。

犯人がこのパソコンを操作したのなら、ここに指紋が残っているはずだから。


「指紋採れるの?」


カグヤから質問が来た。


「採っていいですよね?」


わたしは司会進行のトコヨさんに訊く。

ルール上問題無いか確認しないと。


「採れるなら採っても良いけど、採れるの?」


トコヨさんはわたしに訊き返す。


「昨日、漫画で見ました!」


わたしは元気よく返事をする。

やったことはないけど、今ならできる気がする。


「いや技術的な面じゃなくて、道具的な面で出来るの?」


トコヨさんが念押しの質問をする。


「…………指紋採取キットってないんですか?」

「そんな便利なものないわよ」


トコヨさんに即答されてしまった。


「…………ないんですか?」

「なんであると思ったの?」


逆に質問されてしまった。


「捜査パートを開始するって言われた時から、指紋採取する気満々だったので…………」


どうやら指紋採取すれば良いという考えはわたしの早とちりだったようだ。

このミステリーゲームにそんな便利アイテムはないらしい。


「みんなは普通に旅行に来たっていう設定だから、指紋採取の準備なんてしてないわよ」

「誰かかばんの中に常時携帯している人はいないの!?」


わたしは一人一人と顔を合わせる。

全員、持っているわけがないと苦笑いする。


「ミステリーゲームのルール上は、この建物の中に有るものは使って良いわ。でも外から持ち出すのは駄目よ」


トコヨさんがルールを丁寧に説明してくれる。

わたしの作戦は瓦解していた。

その場に膝を突くわたし。


~~~~~~~~~~



回想終わり。


「指紋を採ろうとして断念していたわね」

カグヤと昼のことを振り返る。


「あのときのわたしは指紋採取キットがあると思っていた」

「でもこのミステリーゲームにそんな便利なものはなかったのよね」

「そうなの! でも進行役のトコヨさんは言ってくれたわ。


『この建物の中に有るものは使って良い』


 ってね」


「もしかして?」

「ええ。ここにあるものだけで指紋は採れるわ!」


わたしは極めた台詞を口にする。

そしてトコヨさんの方を見る。

トコヨさんは苦々しい顔をしていた。

指紋採取なんてできないと思っていたようだ。

できないと思っていたから『採れるなら採っても良い』なんて迂闊なことを言ってしまったんだ。

よし。

主催者の想定を上回った。

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