第29話 占い再び

「さて、困ったわね」


カグヤは浮かない顔をしていた。

セーラさんを殺した凶器は分かったのに。


「冷凍庫に凍り跡があったから、これを使ったのは確定でしょ?」


特に不安要素はないと思う。


「それはそれで良いわよ。でも次の問題よ」

「次?」

「凶器が分かっても、犯人を絞り込めないじゃない」

「あぁ~~」


言われてみればそうだった。

凶器が見つかれば終わりではない。

これは犯人を見つけるゲームなのだ。


「これで手がかりがなくなったわ。どこから推理を進めて良いか分からないわ」


このセーラさんを殺した凶器が手がかりだった。

あわよくば犯人につながる何かがあれば良かったんだけど。


「この氷の刀を使えたのって誰?」

「全員使えたわよ。誰がセーラさんを殺していてもおかしくないわ」

「カグヤだけは使えないわね」

「そういえばそうね」


カグヤだけはもう死んでいるから、セーラさんを殺すことはできない。

つまりセーラさんを殺せるのは


カグヤ ×

セーラ 〇

スミレ 〇

ツツジ 〇

サイリ 〇


〇が犯行可能で×が犯行不可。

候補は4人。

わたし自身を抜けば3人。

ここから犯人を絞りたい。

絞りたいのだけれど絞り方が分からない。

わたしたちの手元に手がかりはもうない。


「どうする?」


わたしはカグヤに訊いてみた。


「新しい手がかりを探すしかないわね」

「でも、もう事件の全容はほぼ分かっているのよね」


どうやってみんなを殺されていったのかは分かっている。

犯人の動きを整理する。


カグヤ

就寝中に部屋の天井が降りてきて圧死。

犯人はスタッフルームから天井を操作。


セーラ

1階のトイレで氷の刀で斬られて死亡。

犯人は氷の刀を持ち運んでいる。


スミレ

朝、毒入りのシチューを食べて死亡。

犯人は夜中の内にシチューに毒を盛っている。

ツツジ

びっくり箱から飛び出たナイフに刺されて死亡。

犯人はツツジさんの部屋に侵入してびっくり箱を置いてきた。


サイリ

部屋に充満した毒ガスを吸って死亡。

犯人はサイリの部屋に侵入して線香を焚いている。


「もうこれ以上、何を調べたらよいか分からないわね……」


カグヤは難しい顔をしていた。

わたしも合わせて難しい顔をする。

この状態から、何を調べてみれば良いのだろうか?

実際の殺人事件だったら、指紋とかDNAとかの痕跡を調べるんだけど。

このミステリーハウスにはそんな便利なものはない。

これ以上、犯人に迫れるヒントはないかしら?

スタッフルームで二人、頭を悩ませていた。


「あっ、二人そろってここにいたんだ」


そのとき、スタッフルームにツツジさんが入ってきた。


「どうも、ツツジさん」


わたしは軽く挨拶をする。

カグヤはぺこりと軽く頭を下げる。


「何か良い証拠とか見つかった?」

「いや、行き詰っていますね。これ以上、犯人への手がかりが見つけられずに困っています」


わたしはお手上げのポーズをして見せた。

するとツツジさんも似たような仕草を見せてくれる。


「あたしも何も見つからないわ。だから占いに頼ろうかと思って」

「占い?」


ツツジさんが突拍子もないことを言い出した。

特に手がかりになるような話ではない。

と思ったけど、昨日も全員で占いをしたんだった。

カグヤが大凶だったやつ。

わたしが中吉、ツツジさんが中吉、セーラさんが吉、スミレさんが吉。


「昨日、みんなにこのアプリで占いをしてもらったから、今日もしてもらおうかと思って」


そう言って、ツツジさんはスマホを見せてくれた。

昨日もやってみた占いアプリ。


「カグヤ、やってみてよ」


わたしはカグヤに催促する。


「私から?」

「また大凶だったら面白くない?」

「さすがにそれはないでしょ」


そう言ってカグヤはスマホを受け取る。

誕生日を入力する。

占い結果がすぐに表示される。

カグヤの顔が固まっていた。


「どうしたの?」

「………」


カグヤは無反応。


わたしはカグヤの手元のスマホを覗き込む。

そこに表示されていたのは


「大凶。気分転換に化粧を変えてみたら?」


二日連続で大凶だった。


「なんで……」


カグヤは目に見えて落ち込んでいた。

そもそも大凶なんて出にくいアプリなのに。

二日連続で大凶なんて。


「ある意味、幸運じゃない? こんな占い結果はなかなか出ないわよ」

「さすがに悪意を感じてくるわね……」

「占いアプリに悪意なんてあるわけないじゃない」


わたしは事実を突きつける。

カグヤは推理中より難しい顔になった。


「なんでこうなるの?」


そんな落ち込んでいるカグヤを見てツツジさんは、けたけたけたと笑っていた。


「これはカグヤちゃんが犯人かもねぇ」


二日連続の大凶は尋常でなく運が悪い。

これでカグヤが犯人だったら更に笑えるんだけど。


「しかも何なんですか? 

 この『気分転換に化粧を変えてみたら?』なんて適当なアドバイスは? 

 何の気休めにもならないじゃないですか!?」


カグヤは憤っていた。

これでカグヤはますます占いを信用しなくなりそう。


「でも試しにメイク直しをしてみる?」


スタッフさんに頼めばすぐしてくれるはず。

「撮影の途中でもメイクが気になったら言ってね」

なんて言われていたし。


「化粧が推理の役には立つとは思えないわよ?」


カグヤは私の提案に懐疑的だった。


「行き詰っているから気分転換は役に立つかもよ?」

「それも、そうね……」


わたしの意見は口からでまかせだったんだけど、カグヤは一理あると思ってくれた。

優しい。


「せっかくだしヤマンバメイクでもしてみる?」

「絶対しない」


良かった。

わたしもヤマンバのようなカグヤは見たくない。

いつも通り日本人形のような清楚系でいてほしい。

ファンデーションは白に限る。


ん?

ファンデーション?


その時、わたしの脳内でパズルのピースが気持ち良く繋がった。

これは……使えるかも?


「どういたの? サイリ?」


わたしの閃いた表情に、カグヤが問いかける。


「あのパソコン、まだ触ってなかったよね?」

「あのパソコン?」

「カグヤを殺した天井をコントロールできるやつ!」


ここ、スタッフルームにあるパソコン。

指紋を採取しようかと思っていて、触らなかったやつ。

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