第28話 氷の容器
冷凍庫に氷の跡があった。
ということは。
「昨日の段階で誰かが何かを凍らせたってことだよね?」
わたしはカグヤと情報の確認をする。
「そうね。私達が夕食を食べ終えた時間は19:00頃。それ以降に誰かが何かを凍らせているってことよ」
頼もしい記憶力だった。
「その後、今の時間帯までに冷凍庫から取り出しているってことよね?」
現在15:00。
「今日は朝も昼も冷凍庫を使う用事はなかったはず」
朝は昨日のシチューの残り。
ただしほとんどの人が食べ損ねている。
スミレさんが毒(からし)入りのシチューを食べて死んでしまった。
昼は時間がなかったから各自でパンなどを食べていた。
ゲームの盤面から一旦退場した人用のパンだ。
みんなで一斉には食べていない。
しかしそのタイミングで冷凍庫に用事がある人はいなかったはず。
そんなことを考えながらカグヤと話しているときだった。
調理室にスタッフの人がやってきた。
「あれ? 調査中?」
「そうです」
わたしはすぐに答える。
「今日の夕飯の食材入れて良い? 今日のみんなの夕飯はスタッフが作ることになっていて」
「そうなんですね。ありがとうございます」
わたしはお礼を言った。
「ちょっと待ってくださいね。写真を撮るので」
カグヤはスマホを手にする。
そして急いで写真を撮り出した。
念のため冷凍庫だけじゃなくて他の部分の写真も大量に撮影していた。
その間にわたしはスタッフさんに確認する。
「スタッフさんって昨日から今日にかけて冷凍庫使いました?」
スタッフさんは即答してくれる。
「いや、誰も使っていないよ。スタッフはみんな事件に関わるものはなるべく触らないようにしていたからね」
「わたしたちが幽霊になってからも使っていませんか?」
「うん。スタッフが触るのは今が初めてだよ」
どうやらこの凍り跡はスタッフさんのものではないらしい。
ということは参加者の誰かが、ここで何かを凍らしたのは間違いない。
「やっぱりこれは重要な手がかりね」
カグヤは自分の撮った写真をじっくり眺めていた。
ここに何があったんだろうか。
「やっぱり凶器があったのかな?」
わたしはカグヤに話しかける。
「おそらくね。凍らした何かがあったとは思うわ」
「凍らした何か? 凍らしたのは水じゃなくて?」
「水を冷凍庫にそのまま入れることはないでしょ。水を刃物の形に凍らせる容器が必要よ」
「ああ、容器ね」
確かにそうだ。
水をそのまま入れても凶器にはならない。
「ペットボトルに入れた水が尖るわけはないし、専用の容器を使ったと思うのよね」
「専用の容器ねぇ。でもそんな怪しいもの、みんな持っていたかしら?」
持ち物検査したとき、そんなものは見つからなかった。
「持ち物検査は2回したわ。午前中9:30頃と午後の14:30頃ね。でもそのときには持っている必要はないわ」
「持っている必要がない?」
「そのタイミングだったら冷凍庫に置いたままでも良いからね」
「なるほど。ということは持ち物検査のあとに、この冷凍庫から場所を動かしたんだ」
それなら誰でもできそうだ。
幽霊になってからは個人行動が多い。
一人でこっそり調理室に来て、冷凍庫から容器を動かすくらい簡単にできる。
「凶器は氷の刃物で正しそうね」
「なら、どうする? もう一回持ち物検査してみる?」
「多分何も見つからないわよ。誰にも分からない場所に隠していると思う」
「そう?」
「マスターキーも見つかっていないし」
「その問題もあったわね……」
皆が調理室に集まった後、誰かがマスターキーを使ってツツジさんの部屋に侵入。
部屋にびっくり箱を置いて、部屋を施錠して出て行った。
「多分、犯人はマスターキーと氷刃物の容器をどこかに隠しているわね」
カグヤは天井を見上げた。
どこかありそうな場所を考えている。
わたしも天井を見上げる。
なぜ人は考え事をするときに上を見るのか。
目から入る情報を減らして脳のリソースを思考に割くためだったかしら。
「んっ!」
わたしの脳内検索に引っかかるものがあった。
「何かあった?」
「もしかして、あそこにあった刀じゃないかしら?」
「刀?」
わたしはカグヤを連れてスタッフルームに行く。
8畳くらいの大きさの部屋。
物置のように煩雑になっている。
机にダンボール箱がいくらか。
「ここにある気がするのよね」
「刃物があったかしら?」
そうか。
わたしとカグヤがスタッフルームに閉じ込められたときのこと。
鍵を探すタイミングで、わたしがダンボール箱を開けて調べたから、カグヤは刀を見ていないのか。
わたしはダンボール箱を開く。
ペンとかセロテープとかが入っているダンボール箱。
「こっちじゃないな」
「?」
わたしは他のダンボールを開ける。
こっちだ。
よく分からないガラクタが入っているダンボール箱。
金属製のブロックとか、何に使うか想像もできないスポンジとか。
おもちゃの刀もある。
そう。
このおもちゃの刀だ。
「じゃじゃ~ん!」
わたしは口で効果音を鳴らして刀を高々と掲げ挙げた。
刃渡り20センチくらいの刀。
プラスチック製。
「そんなものがあったのね」
「このミステリーハウスの備品でしょうね。珍しいものがいっぱいあるわ」
「さすがミステリーハウスね」
「でも、おかしいわね」
「何が?」
わたしはこのダンボールに違和感があった。
「午前中に閉じ込められたときも、このダンボール箱を調べたの」
「そうだったわね」
「そのときはこの刀は1本だったわ」
「そうなんだ?」
カグヤは見ていないから知り得ない情報だ。
でもわたしの記憶では確かに1本だった。
「それが今は2本になっているわ」
「刀が増えているの?」
「そうなのよ」
不思議だった。
誰がいつの間に増やしたんだろうか?
わたしは刀の1本をていねいになぞる。
「何か変なところがある?」
「ええ、あるわ。ほら、ここ」
わたしは刀の峰をなぞる。
その峰には留め具が付いていた。
手で簡単に開けられる。
「すごい!」
「当たりね!」
カグヤも驚いているがわたしも驚いている。
予想がここまで的中するとは。
刀の刃は左右に割れた。
刃の中には溝がある。
「ここに水を流し込むのね!」
「それを凍らしたら氷の刀ができる!」
この刀は氷のケースになっていたのだ。
午前中に一目見たときには気付かなかった。
こんな不思議アイテムがミステリーハウスにあったのだ。
セーラさんを殺した凶器はこれに違いない。
「午前中に1本しかなかったのに、今は2本あるってことは、」
「犯人が使い終わって、ここに返しに来たのね」
つまり犯人がとった行動は
1. 夜のうちに刀に水を入れて冷凍庫で凍らす。
2. サイリがスタッフルームに閉じ込められている間に冷凍庫から氷の刀を取り出す。
3. セーラさんを殺害する。
4. お湯で凶器の氷を溶かす。
5. 全員が死んだ後、冷凍庫の刀ケースを回収。スタッフルームに隠す。
こういうことに違いない。
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