第27話 再捜査

「じゃあ、証拠集めに戻りましょう」


進行役のトコヨさんが皆に号令をかける。


「了解」

「セーラは推理披露権がないから、証拠を見つけたら誰かに教えてあげてね」

「分かったわ。さっきので犯人を決めてしまいたかったわね」

「もっとちゃんと整理しないと、ここの参加者は納得してくれないわよ」


セーラさんはトコヨさんから説明を受ける。


「まぁ、推理の大筋は間違いなくできたから、あとは証拠が揃ったら犯人を確定できるでしょ」

「そうかもね」


セーラさんとトコヨさんはそんな話をしていた。

一方、わたしとカグヤ。


「カグヤ、ありがとうね。カグヤがいなかったらわたしが犯人で確定になっていたかも」


わたしはカグヤにお礼を言う。


「私もこのゲームをちゃんと勝利したいからね。サイリも頑張ってよ。自分の無実をしっかりアピールしないと」

「そうよね。でもセーラさんの推理はかなり練られていたわよ」


ぱっと聞いただけじゃ粗なんて気付かない。

カグヤだから気付いたようなものだ。


「それはそれで引っ掛かるのよね」

「引っ掛かる?」

「私ね、セーラさんが犯人だと思うの」

「えっ!?」


わたしは慌てて周囲を見る。

周囲にゲームの参加者はいなかった。

ここにいるのはわたしとカグヤ、それにカメラを撮影しているスタッフ。

良かった。

誰にも聞かれていない。


「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。特に根拠があるわけでもない勘の話だから」

「どこからきた勘なの? なんでセーラさんが犯人?」


カグヤは落ち着いて説明する。


「セーラさんが犯人でないとすると、スミレさんかツツジさんが犯人ってことになるじゃない?」

「そうね」


参加者は5人。

サイリ、カグヤ、セーラ、スミレ、ツツジ

わたしとカグヤは犯人でないことが互いに分かっている。

セーラさんが犯人でないと仮定すると、スミレさんかツツジさんが犯人ってことになる。


「セーラさんが推理を披露している間、スミレさんとツツジさんの顔を観察していたの」

「そんなことまでしていたんだ……」


わたしがセーラさんに問い詰められている間、カグヤも頑張っていたらしい。

セーラさんの推理の聞きながら、推理の穴を探して、なおかつスミレさんとツツジさんの顔まで気にして見ていたなんて。

器用だな。


「そこでは二人とも特に怪しい挙動はしていなかったわ。

 真実を知っている犯人だったら、セーラさんの間違った推理に何か不自然な反応をしてしまうかもって思ったんだけど」

「なるほどね」


スミレさんかツツジさんが犯人なら、セーラさんの推理は間違っていることになる。

その推理に対して、真実を知っている犯人ならほくそ笑んだり、首を傾げたりする反応が出てしまうかもしれない。

そういうのが無かったってことか。


「でも犯人の根拠としては薄いから、勘のレベルでしかないわ」

「なるほど。それなら推理とは言えないわね」


心の隅にとどめておく程度の勘だった。

推理の材料にするのは弱すぎる。

でも、今後の心構えとしては何かの役に立つかもしれない。


「これからどうする? 何か調べたいものあるかしら?」


カグヤがわたしに訊く。


「そうね。セーラさんの凶器が気になるわ」


==========

被害者2:セーラ

死因:鋭いもので頭部を斬られて死亡

死亡推定時刻:朝10:30~11:00頃

==========


さっきのセーラさんの推理でも論点になっていた。

セーラさんを殺した凶器は見つかっていない。

この凶器を隠す時間があったかどうかが重要。

カグヤが言った通り、水で溶けるような隠しやすい凶器だったかどうか。


「それから探してみましょうか」


わたしとカグヤは二人でトイレに行くことにした。

セーラさんを殺した凶器を探そう。

他の人たちも思い思いの場所で証拠探しをしているようだ。

できることなら、わたしたちが先に証拠を見つけて推理を披露したい。

他の人から疑われるのは、なかなかしんどい。

これ以上、遅れをとりたくない。

真犯人を暴いてしまおう。


というわけで二人でやってきた一階のトイレ


「一番気になるのはこの流し台ね」


カグヤは流し台で水を流す。


「お湯は出る?」

「出るわよ」


わたしが訊くと、カグヤは即答した。

ちゃんとお湯が出ている。


「じゃあ、本当に氷で殺した可能性はない?」


カグヤの仮定反論では、氷を鋭い形にしてセーラさんを殺害。

その後、お湯を流して溶かしてしまえば凶器隠滅。

という話だった。

ただ実際に氷を凶器にできるくらい凍らせるのは難しいらしい。


「あるかも」

「あるんだ?」


てっきり否定されるかもと思ったんだけど。


「これって本当の殺人じゃなくて、ミステリーゲームなのよ」

「そうだね」

「だからちゃんと殺さなくて良いのよ。殺した振りだけ出来れば充分なのよ」


確かにそうだった。


「じゃあ、氷を使った可能性も?」

「考えられるわ。でも氷だったら完全に流してしまえるから、ここに証拠はなさそうね」


カグヤは溜息交じりに言った。

ここで証拠を見つけるのは諦めたようだった。

でも、わたしにはひらめくものがあった。


「だったら、あっちには証拠が残っているんじゃない?」

「あっち?」

「行ってみよう!」


わたしはカグヤの手を引く。

連れてきた場所はキッチンだ。


「ここに何かあるの?」


カグヤはまだぴんと来ていないようだった。


「氷で凶器を作ったとしたら、ここじゃない?」


わたしは冷凍庫を指差した。

そこでカグヤも察したようだ。


「まさか氷で凶器を作った痕跡が?」

「わたしもまさか証拠が残っているとは思わないけど、確認するだけならリスクはないわよ」


冷蔵庫の下部にある冷凍庫。

昨日はシチューを作るお肉とかが入っていた。

そこにこっそり氷のナイフでも作っていたのではないか。

そんな薄い望みを持ってわたしは冷凍庫を開けた。


「まぁ、そうよね」

「う~ん」


中には何もなかった。

ただちょっと凍りついた部分があるだけ。


「昨日、シチューに使った肉も使い切ったし、ここに入れておくものは何もないわね」

「そうなっちゃうわね」


わたしは落胆した。

別に決定的な証拠はなくても、何かのヒントくらい落ちていても良かったのに。

そう思って、冷凍庫を閉めようとした時だった。


「ちょっと待って」

「ん?」


カグヤの手が冷凍庫の底に伸びる。

ただそこには氷があるだけだ。

水がこぼれたときにできる氷の跡。


「こんな跡、昨日は無かったわ」

「え?」


冷凍庫の氷の跡まで覚えているの!?







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