第25話 凶器を隠す時間
わたしが閉じ込められたスタッフルームには段ボール箱がいくつかあった。
ツツジさんを殺したびっくり箱と似たような箱がいくつか。
わたしがスタッフルームにいたと発言したせいで、びっくり箱を取りに行ったと思われている。
「でも、ツツジさんを殺したびっくり箱があの部屋にあったとは限らないじゃないですか?」
わたしは反論を試みる。
ただ自分でもこんな反論では弱いことは分かっている。
「じゃあ、あのびっくり箱ってどこにあったと思う?」
セーラさんが逆にわたしに訊き返す。
「どこって、犯人が持っていたんじゃ?」
「朝一番に持ち物検査したよね?」
「ああっ!!」
そういえばそんなことしていた。
あのときはカグヤを殺した盾を探していた。
実際には盾なんて使用していないんだから、見つかるわけがない。
あのとき、誰かが平べったいものを持っていなかったか、皆で見て回ったけれど。
怪しい物は見つからなかった。
「いかにも怪しいびっくり箱なんて誰も持っていなかったわよね?」
「……そうですね」
「だったらどこかに取りに行かないといけないわ。それがあのタイミングでサイリちゃんがしたことよ」
「うむむ……」
反論が難しかった。
わたしがびっくり箱をスタッフルームからツツジさんの部屋に持って行ったなんて事実はない。
実際にには犯人がどこかに隠し持っていたんだろう。
おそらく真実はそうなんだけど。
わたしにはそれを証明する手段がない。
「さて反論はあるかしら?」
セーラさんはわたしに挑戦を投げかける。
正直なところ反論材料はないのだけれど。
これ以上、この場の空気をわたしに不利にしたくない。
強引にでも反論してみるか。
「逆にセーラさんは証明できますか?
あの箱がもともとスタッフルームにあって、それをわたしがあのタイミングでツツジさんの部屋に持って行ったって。
似たような箱がスタッフルームにあったってだけだと根拠が薄くないですか?」
わたしは苦しい反論をしてみる。
「薄いかしら? サイリちゃんを疑うには充分だと思うけど」
「裁判だったらこれで有罪にはできないと思いますよ?」
わたしに裁判の知識はないけども。
多分、有罪が確定するほど強力な証拠ではないと思う。
思う。
「そうかもね」
意外にもセーラさんはわたしの弁に納得してくれた。
「まだわたしを犯人で確定するのは早いと思います!」
よし。
まだ、粘れる。
「じゃあ、次の事件に行こうか」
「え? まだ他にあるんですか?」
わたしがちょっと安心したのも束の間。
「全部の事件でサイリちゃんが怪しい要素があるわよ」
「…………なんでだ?」
わたしは無実なのに。
やっぱりわたしは罠に嵌められているのか?
犯人がわたしに罪を着せようとしている可能性が出てきた。
「次は私が殺された事件ね」
==========
被害者2:セーラ
死因:鋭いもので頭部を斬られて死亡
死亡推定時刻:朝10:30~11:00頃
==========
「セーラさんはトイレに行っていたんですっけ?」
「そうよ。その時間、一階にいた人は限られるわ」
4F 8(空 室) 1(スミレ) 6(空 室)
3F 3(サイリ) 5(セーラ) 7(カグヤ)
2F 4(空 室) 9(ツツジ) 2(空 室)
1F ロビー、キッチン、風呂、スタッフルーム、トイレ
この時間帯にそれぞれがいる場所は
カグヤ → スタッフルーム(幽霊)
セーラ → トイレ
スミレ → キッチン
ツツジ → 自室
サイリ → スタッフルーム
となっているはず。
セーラさんはトイレのドアを開けて、数歩歩いたところで後ろから、がつんとやられたと言っていた。
「セーラさんは犯人を直接見ていないんですよね?」
そういえば凶器も分かっていなかったな。
ナイフとか包丁とかの刃物だとは思うんだけど。
「直接見てはいないけれど、手掛かりは残していったわ」
「手掛かりがあったんですか?」
「凶器が見つかっていないことね」
「見つかっていないこと?」
ないものがあるみたいなややこしい話だ。
「ここで、わたしを殺せるのが可能なのは3人よね」
「わたしと、スミレさんと、ツツジさんですね」
除外されるのは2人。
セーラさん本人は違う。
自分で自分を殴れないからセーラさんではない。
カグヤも違う。
この時点では幽霊になっているから、ゲームの盤面には干渉できない。
「順番に考えていこうか。まずスミレちゃんが犯人の場合。
やらないといけないことはいっぱいあるわ。
1.マスターキーを取りに行く
2.サイリちゃんを閉じ込める
3.私の殺害
4.ツツジちゃんの部屋にびっくり箱を置く
5.サイリちゃんの部屋に毒ガスを仕掛ける
6.自分はキッチンでシチューを食べて死ぬ
これがスミレちゃんの必要な手順ね」
「そうなりますね」
この30分くらいの間に犯人がやったことはとても多い。
よく成功したわよね。
ダ・ヴィンチもびっくりの早業だわ。
「この間に、私を殺した凶器を隠す暇がないの」
「あっ!」
言われてみるとそうだ。
ただでさえ時間がタイトなのだ。
血の付いた凶器なんて派手なものをどこに隠すというのだろう?
その辺の廊下に放り投げていたら、わたしたちが既に見つけている。
ツツジさんの部屋や、わたしの部屋にも置いておけるはずがない。
凶器を隠す暇なんてなさそうだ。
「ツツジちゃんも同じようなものだわ。
ツツジちゃんが犯人の場合、
1.マスターキーを取りに行く
2.サイリちゃんを閉じ込める
3.私の殺害
4.サイリちゃんの部屋に毒ガスを仕掛ける
5.自分の部屋のびっくり箱を起動して死ぬ
ツツジちゃんも忙しいわね」
「……確かに、凶器を隠す暇はなさそうですね」
ミステリーハウスの外に凶器を隠すような時間はない。
スミレさんほどではないにしろ、とても余裕があるようなスケジュールではない。
「その点、サイリちゃんは時間に余裕があるのよ」
「……そうですね」
わたしが犯人だと時間的余裕は結構ある。
1.マスターキーを取りに行く
2.セーラさんを殺害する
3.ツツジさんの部屋にびっくり箱を置く
4.自分の部屋に毒ガスを仕掛ける
5.トイレでセーラさんが死んでいるのを発見する
6.キッチンでスミレさんが死んでいるのを発見する
7.ツツジさんの部屋でツツジさんが死んでいるのを発見する
8.自分の部屋で死ぬ
こんな流れ。
うん。
凶器を隠すくらいなら問題ない。
特に5~8の間は誰にも見られていないし、時間的に余裕がある。
誰にも見られずに凶器を隠す時間がある。
というか、わたしにしかその時間がない。
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