第24話 わたしが犯人である証拠
「流石カグヤね! わたし以上にわたしのことが分かっているわ!」
わたしはカグヤの興味と洞察に感動していたけど、カグヤは呆れた顔をしていた。
「サイリは自分のことは自分のこととしてちゃんと覚えていなさいよ」
「そんなちょっとしたことなんてすぐ忘れるわよ。カグヤのことならちゃんと覚えているけど」
「私のこと?」
「今朝、シチューを食べようとしたけど、ゲーム上で幽霊になっちゃったから食べられなくて落ち込んでいたでしょ?」
「なんで分かるんだよ!」
カグヤは大きな声を出した。
恥ずかしかったらしい。
「表情見ればそれくらい分かるわよ。お互い様ってことで」
わたしたちはお互いのことをよく理解している。
お互い自分のことより相手の方に興味が強い。
「まぁ、それならそれで良いわよ。この部分の話はここで終わりにしましょう」
セーラさんが仕切り直した。
ひとまずこの件でわたしが大きく劣勢になることはなかった。
大丈夫。
まだわたしが犯人だという証拠は出ていない。
みんなの中でも、わたしに対する疑惑は深まっていない。
「続きをお願いします!」
「続きを話す前に、一つ宣言しておきたいんだけど」
「?」
意味深な前振り。
「私はカグヤちゃんも疑っているからね」
それは予想外の宣言だった。
「犯人はわたしだと思っているんですよね?」
「それをカグヤちゃんがかばっていると思うのよね」
そのパターンね。
「実行犯はわたしだけど、カグヤも嘘をついていると?」
「そういうことよ。だからカグヤちゃんの証言もそこそこ信憑性が低いわよ」
「なんでそうなるんですか?」
疑われているわたしはともかく、カグヤの発言の信憑性を下げられると困る。
追い詰められたらカグヤにわたしの潔白を証言してもらおうと思っていたのに。
「だってカグヤちゃんは幽霊としてサイリちゃんをずっと見ていたんでしょ?
サイリちゃんが何をしていたか全部分かるじゃない」
それはそう。
「でも、このゲームは犯人を当てられなかったら、負けですよ?
カグヤが嘘をつくメリットはあんまりないはずです」
このミステリーゲームは既にかなり複雑になっていて。
犯人以外→犯人を当てたら勝ち
犯人→皆に犯人を誤認させたら勝ち
という構図。
ほぼ人狼ゲーム。
カグヤだって勝つためには真犯人を当てないといけない。
むやみに嘘をついたり、わたしをかばったりはしないだろう。
「カグヤちゃんだけ勝利条件が違うかもしれないじゃない?」
「そんなことありますか?」
「人狼ゲームにはあるじゃない? 狂人って役職が」
「あぁ、ありましたね」
狂人は人狼に協力する人間。
村を混乱させる役職。
「これは進行役のトコヨに確認したいんだけど」
セーラさんがトコヨさんの方を見て話しかける。
「何かしら?」
「このゲームに狂人みたいな、他の人と違う勝利条件の人はいるかしら?」
するとトコヨさんは難しい顔をして天井を見上げた。
「うぅ~ん?」
「難しいんだ?」
イエスorノーで答えられそうなものなんだけど。
「ノーコメントで。
わたしが何か言うとゲームの公平性が損なわれる気がするわ」
トコヨさんは賢明だった。
ゲームの進行係として、全体のことをしっかり考えて言葉を選んでいる。
「了解」
はっきりしない答えだったけれど、セーラさんはそれで納得したようだ。
「まぁ、実際の殺人事件だって犯人をかばう人がいるかもしれないですしね」
カグヤがコメントした。
そのコメントは自分の首を絞めるかもしれないけど大丈夫か?
「というわけで犯人はサイリちゃんだと思っているけど、カグヤちゃんも怪しいと思っているわよ」
セーラさんはそうまとめた。
「……なるほど」
カグヤは頷いた。
これからはカグヤの発言も慎重になる。
さっきはカグヤのおかげでわたしの疑いは払拭できたけど、次からは危ういかもしれない。
下手にカグヤが喋ると一層わたしが怪しくなる。
セーラさんの立ち回りがうまいなぁ。
わたしを追い詰めるためにいろんな話術を使ってくる。
「じゃあ、次はツツジちゃんの事件ね」
==========
被害者4:ツツジ
死因:胸にナイフを刺されて死亡
死亡推定時刻:朝10:30~11:00頃
==========
「これはわたしである証拠はなさそうですよね」
ツツジさん事件に使われた凶器はびっくり箱。
皆が調理室に集まった後、誰かがマスターキーを使ってツツジさんの部屋に侵入。
部屋にびっくり箱を置いて、部屋を施錠して出て行った。
ツツジさんが部屋に帰ってきて、びっくり箱を開けた瞬間、胸にナイフを刺されて死亡。
犯人の動きははっきりしている。
問題はそれが誰かということ。
「これは証拠があるわよ」
「えっ!?」
何の心当たりもないのだけれど!?
「この時間、サイリちゃんは何をしていたんだっけ?」
なんだか誘導尋問のような気もする。
迂闊なことを答えるわけにはいかない。
「スタッフルームに閉じ込められていましたよ」
事実そうなのである。
幽霊のカグヤも一緒にいた。
「事件が全部終わって、幽霊になってから皆でスタッフルームに行ったじゃない?」
「そうですね」
「そこで見つけたの。これ」
セーラさんはスマホを見せてくれた。
証拠写真を撮影していたようだ。
それは段ボールの写真だった。
金属製のブロックとか、何に使うか想像もできないスポンジとか。
おもちゃの刀もある。
「これ、何ですか?」
わたしが訊くとセーラさんは意気揚々と答える。
「スタッフルームにあった段ボールの一つよ」
「それが、何か関係あるんですか?」
「ツツジちゃんを殺したびっくり箱ってどこにあったと思う?」
「……あっ!」
それは、わたしを追い詰めるには充分な論理だった。
「スタッフルームにはいろんな段ボール箱が置いてあった。
ツツジちゃんを殺したびっくり箱もここにあったと思うのが自然よね。
ここに似たような箱がいっぱいあるんだから」
そういえば、わたしがスタッフルームに閉じ込められたとき、段ボール箱をいっぱい調べた。
何に使うか分からなかったけれど、このミステリーハウスで使う用の道具だったんだ!
そしてあのスタッフルームは、殺人道具の保管庫だったんだ!
「つまり?」
わたしはセーラさんに続きを促す。
「サイリちゃんがあのタイミングでスタッフルームに行ったのは、ツツジちゃんを殺すためのびっくり箱を取りに行くためだったのよ!!」
セーラさんの人差し指がわたしに向けられる。
うん。
かなり追い詰められてしまった。
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