第22話 犯人候補

カグヤは手元のメモをにらみながら説明してくれる。


「サイリとセーラさんとツツジさんは全員を殺すことが可能よ」

「そうね」


今書いた表でまとめるとそうなる。


「でもこのゲームって、犯人は一人なのかしら?」


その指摘に驚いた。

その発想はなかったから。

確かにルールの説明の時にそんな話はなかった。

ということは、犯人が複数のことも考えられる。


「一人で五人を殺したとは限らないわけね」


二人を殺した人と三人を殺した人が別々にいるかもしれない。

一人と四人かもしれない。


「そうよ。一番複雑な事件として一人が一人ずつ殺して全滅した可能性も考えられるわ」


何というウロボロス。

そうなってくると、考え方を変えないといけなくなる。

全員を殺せるのは誰か、というアプローチではだめだ。

一つ一つの事件の犯人を、逐一証拠を集めて推理しないといけない。


「どうする?」


考え方の方針が分からなくなってきた。

何からすれば良いかも案がない。

五人全員の殺人トリックを一人で用意したものと思っていた。

その労力はとんでもないと想像していたけれど。

実際には分業体制かもしれないのだ。


「事件一つ一つの犯人を絞っていくしかないわね」


カグヤは溜息交じりに言った。

それは相当労力のかかる捜査をしないといけないことに対する諦観だった。


「やっぱりそうなる?」

「それしかなさそうね」


これは長丁場になりそうだ。

時刻は14:00。

今日中に終わるかな?

わたしがそんなわき道にそれた心配をしているときだった。


「よし、分かったわ!」


セーラさんが嬉しそうに声をあげた。

その声にみんなが注目する。


「何が分かったんですか?」


わたしはセーラさんに尋ねる。

セーラさんは得意げな顔でわたしに微笑む。


「この事件の犯人はサイリちゃんよ!」


セーラさんはわたしと目を合わせて、しっかり指を突き付ける。

わたしは驚いたけれども冷静だった。

指を突き付けたセーラさんの立ち姿があまりにもかっこ良かったので、ここは動画で良い感じに編集されるんだろうなぁ、なんて的外れたことを考えていた。


「なるほど」


適当な返事になってしまった。

いけないいけない。

ここは見せ場だ。

良い顔してカメラに映らないと。


「あんまり驚いていないわね。やっぱり犯人だからかしら?」


セーラさんはわたしを追い詰めようとしてくる。

いやはや。

楽しくなってきた。


「どういうわけでわたしが犯人になるというんですか?」


わたしは笑顔でセーラさんの目を睨みつける。

これは勝負所だ。


「順番に説明してあげるわ。全員注目してね」


セーラさんは周囲の皆にも呼びかける。


「長くなりそうだし座ったら?」


進行係のトコヨさんが声をかける。

皆で椅子を持ち寄って丸くなる。

セーラさんの向かい側にわたしは座る。

周囲には、カグヤ、シミレさん、ツツジさん。


「じゃあ、事件を順番に振り返っていこうかしらね」

「あっ、ちょっと待ってね」


セーラさんが話始めようとしたけど、トコヨさんがいったん止めた。


「どうしたの?」

「あんまり行き当たりばったりで推理を披露されると時間がもったいないから、この推理パートに制限を付けましょう」

「制限?」


トコヨさんが新たなルールを説明する。


「このゲーム中に推理を披露して犯人を暴くチャンスは一回だけね」

「一回だけ?」

「そう、一回だけ」

「推理が外れだったら?」

「捜査はして良いけど、みんなの前で犯人を指摘できないというルールにするわ」


なかなか厳しかった。

つまり当てずっぽうで「犯人はお前だ!」って言いまくることはできない。

一発で犯人を当てる推理をしないといけないのは、けっこう難しい気がする。

でも、そのくらいしないとゲームにならないか。


「推理の当たり外れはどうやって判定するの?」


セーラさんが質問した。


「そうね。推理を披露したあと、みんなで投票しよっか。

 プレイヤー5人で多数決ということで。

 合っている人が多いと思ったら採用」


それはとても大事なルールだった。


「推理を披露したあとにトコヨが正誤判定をするわけじゃないのね?」

「ええ。わたしが正誤判定をする前に、みんなで5人の中での判断をしてもらうわ」

「5人の中での判断が、実際と違ったら?」

「犯人の勝ちよ」


そう。このゲームは、全員が被害者で探偵なんだけど。

探偵が勝つとは限らない。

犯人が勝つ場合がある。


「逆に5人の中での判断が正解だったら?」

「探偵側の勝ちね」


村人と狼に分かれる人狼ゲームそっくりだった。


「今からの私が推理を披露するけど、その後5人で正しいかどうか議論するってことよね?」

「そうよ。5人で議論して、推理が不十分だったら推理パート続行。

 議論で犯人に確信が持てたら、その時点でゲーム進行役から勝敗判定をするわ」

「なるほどね」


セーラさんは追加ルールを聞いても余裕綽々だった。

自分の推理に自信があるらしい。

これからすることを整理すると。


一.セーラさんが推理を披露する。

二.5人でセーラさんの推理が正しいかどうか議論する。

(三).セーラさんの推理が間違っているようなら、引き続き捜査に戻る

三.セーラさんの推理を5人の結論とする。

四.進行役から勝敗判定が下る。


こんな感じかな。


「どうする、セーラ? このまま推理を披露しても良いし、もうちょっと考え直しても良いわよ?」

「いや、考え直す時間は必要ないわ。このまま推理を披露するわ」


セーラさんは一回の推理披露権をここで使うことにした。

自信満々だ。

そしてわたしの正念場でもある。

今から披露されるセーラさんの推理は二種類に分かれる。


一つはセーラさんの勘違いによってわたしが犯人となった推理。

だってわたしは自分が犯人でないことが分かっているから。

セーラさんの推理はどこかが間違っているに違いない。


そしてもう一つは、セーラさんが犯人で、わたしに罪をなすり付けようとしている場合が考えられる。

こっちの場合、セーラさんは確信を持って、みんなに嘘の推理をしてくる。

さっきの場合と違ってセーラさんは自信満々にみんなを騙してくるに違いない。

こっちの場合の方が手強いだろう。

でも逆にチャンスだ。

セーラさんがわたしに犯人をなすり付けようとしている場合。

わたしが推理のカウンターを決めて、真犯人を暴き出せるかもしれない。






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