第21話 嘘つきパズル

「マスターキーは無かったわよ」


ロビーのキーを確認しに行っていたセーラさんが戻ってきた。


「無かったんですか?」

「ええ」

「キーっていつ取り出されていました?」


マスターキーには使用記録が残る。

いつ持ち出して、いつ返却されたか分かるようになっている。


「これよ」


セーラさんはスマホを見せてくれた。

使用記録の写真を見せてくれた。


==========

9:05 持ち出し

9:23 返却

10:40 持ち出し

==========


前二つの時刻は分かる。

カグヤの部屋を開けたときのタイミングだ。

セーラさんが持ってきてくれた。

9:05に持ち出して、9:23に返却した。

そこまではわたしも確認出来ている情報だ。

しかし、10:40の持ち出しは分からない。


「この10:40というのが、犯人が持ち出したタイミングでしょうか?」


わたしはセーラさんに確認してみる。


「そうでしょうね。みんなが調理室に一旦集合した後の時刻ね」


すると、カグヤがわたしに告げた。


「良かったじゃない。サイリの推理が当たっていたわよ」

「わたしの推理?」

「スミレさんを犯人から除外しても良さそうよ」

「そうなの?」

「ええ。マスターキーを取り出したのが、調理室に集まった後ってことが分かったから」


みんなが調理室に集まったのが10:30。

それ以前にも単独行動はできたし、そこから散り散りになっている。

つまり10:30の前後には全員にマスターキーを持ち出すチャンスがある。

でも、マスターキーを取り出したのが10:40。

調理室に集まった後になる。

こうなると、スミレさんはマスターキーを取りに行くタイミングはない。


「おお! 少し犯人が絞れたね」


わたしの推理に空いていた穴を埋めてくれた。

とは言うのものの、まだまだ犯人を当てるにはほど遠い。


「今、マスターキーは返却されていないんですよね?」

「そうなのよ」

「じゃあ、犯人が持っていることになりますか?」

「犯人が持っているか、どこかに隠したかね」


そうか。

犯人が持っていることはなさそう。

持ち物検査したらバレちゃうし。

どこかに隠した可能性が高そう。


「一応、持ち物検査します?」


カグヤがみんなに提案した。


「してみよっか」


セーラさんは賛同してくれた。

みんなで持ち物検査をすることになった。

わたしたちは幽霊という体裁なのに、鍵を隠し持ったり服を脱いだり出来るのかという奇妙さはあるのだけれど。

一人一人順番に下着姿になる。

服のポケットやバッグに隠し持っていないか点検する。


「うん。誰も持っていないわね」


持ち物検査を終えて、セーラさんが言った。

どうやら犯人はマスターキーをどこかに隠したようだ。

やっぱりこの程度で見つかる犯人ではない。


「あと手掛かりがあるとしたら、どこかしら?」


わたしの呟きにカグヤが反応してくれる。


「サイリが死んだ部屋はまだ調べてないわね」

「ああ、そうね。行きましょうか」


というわけで、みんなでわたしの部屋に行くことになった。


4F 8(空 室)  1(スミレ)  6(空 室)

3F 3(サイリ)  5(セーラ)  7(カグヤ)

2F 4(空 室)  9(ツツジ)  2(空 室)

1F ロビー、キッチン、風呂、スタッフルーム、トイレ


わたしの部屋は3階の7号室。

ここでわたしは毒ガスを吸って死んだ。


==========

被害者5:四季咲サイリ

死因:毒ガス

死亡推定時刻:朝11:00~11:30頃

==========


カグヤはスマホの情報を見ながらわたしに訊く。


「部屋に入った瞬間死んだのよね?」

「そうよ。部屋では線香が焚いてあったから、それが毒ガスって体で死んだわ」

「体裁のことは言わなくていいのよ」


注意されてしまった。


「わたしの部屋に忍び込んで、毒ガスを仕込んだってことよね」

「そうなるわね」

「犯人はマスターキーを持っているから、簡単に出来そうではあるよね」

「そうね。ただ、」

「ただ?」

「めちゃくちゃ忙しそうだけどね」


カグヤの言う通りだった。

わたしたちがスタッフルームに閉じ込められている間、犯人がしたことは多い。

まずフロントにマスターキーを取りに行く。

わたしをスタッフルームに閉じ込める。

そしてセーラさんを1階のトイレで殺す。

次に、2階のツツジさんの部屋にびっくり箱を置く。

さらに3階のわたしの部屋で線香を焚く。

これを全部こなして、全員殺人が完成したわけだ。

かなりの仕事量。


「よく成功したわよね」

「それで誰がやったかってことなんだけど。誰でも犯行は可能そうなのよね」

「そうなの?」

「まとめるとこんな感じね」



カグヤはメモ帳にさらさらと表を書く。


・サイリが犯人の場合

カグヤ 〇

セーラ 〇

スミレ 〇

ツツジ 〇

サイリ 〇


・カグヤが犯人の場合

カグヤ 〇

セーラ × 殺害時刻には死んでいたため、直接切りかかれない

スミレ 〇

ツツジ × 殺害時刻には死んでいたため、びっくり箱を置くことはできない

サイリ × 殺害時刻には死んでいたため、線香を置くことはできない


・セーラが犯人の場合

カグヤ 〇

セーラ 〇

スミレ 〇

ツツジ 〇

サイリ 〇


・スミレが犯人の場合

カグヤ 〇

セーラ 〇

スミレ 〇

ツツジ × マスターキーの時刻により、びっくり箱を置くことはできない

サイリ × マスターキーの時刻により、線香を置くことはできない


・ツツジが犯人の場合

カグヤ 〇

セーラ 〇

スミレ 〇

ツツジ 〇

サイリ 〇


〇が犯行可能で×が犯行不可。

分かりやすい表だった。


「誰が嘘をついているでしょう? っていう論理パズルっぽいわね」


わたしはこのミステリーゲームとは関係のない感想を述べた。


「論理パズルと決定的に違う点があるわ」


カグヤは難しそうな顔をする。


「決定的に違う点?」

「ええ。論理パズルは基本的に一つの答えが導けるように作問してあるわ。でも、この表は解けるかどうか分かっていないもの」


それはそうだった。

今分かっている状況をまとめただけだもの。

犯人を導き出すには、まだまだ情報が足りない。


「でも、わたし視点だと犯人はかなり絞れたわよ」


わたし視点だと、わたしは犯人じゃないことが分かっている。

だから、この表を見ると、犯人はかなり絞れる。

セーラさんかツツジさんのどちらかだ。


「ちょっと怪しいかも」


カグヤは深刻な顔でわたしに言う。


「どうしたの?」

「もしかしたら、犯人を誰にも絞れないかも」

「え?」

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