第20話 びっくり箱
ツツジさんが死んでいた場所は、ツツジさんの自室。
4F 8(空 室) 1(スミレ) 6(空 室)
3F 3(サイリ) 5(セーラ) 7(カグヤ)
2F 4(空 室) 9(ツツジ) 2(空 室)
1F ロビー、キッチン、風呂、スタッフルーム
ツツジさんの部屋は2階の中央、9号室。
ツツジさんは部屋の中央に仰向けで倒れていた。
胸には大きなナイフが突き刺さっていた。
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被害者4:ツツジ
死因:胸にナイフを刺されて死亡
死亡推定時刻:朝10:30~11:00頃
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ツツジさんは一旦食堂に来たものの、薬を忘れたと言って部屋に戻った。
「食後の薬ですか?」
わたしはツツジさんに訊いてみた。
「そうよ。花粉症のやつ」
ツツジさんは薬入れを見せてくれた。
からからからと音を立てて中身が入っていることをアピールしてくれた。
「それで、どんな刺され方をしたんですか?」
「えっとね。まず部屋に来て、ドアを開けるでしょ」
ツツジさんが当時の状況を再現してくれる。
ツツジさんは部屋のドアを開ける。
部屋の中央にすたすたと歩く。
「部屋の中には誰もいなかったんですか?」
「そうよ。誰もいなかった。でも、変なものがあったの」
「変なもの?」
「これよ」
ツツジさんは箱を手に持っていた。
ランドセルくらいの大きさの黒い箱。
「これ、なんですか?」
「びっくり箱って言えばいいのかな? これを開けたら、ナイフが飛んできたの」
「ええ!?」
びっくりした。
そんな殺し方だったんだ。
「このびっくり箱が部屋の中央に置いてあったの。不思議に思って開けてみたら、一発で死んじゃったのよね」
ツツジさんは笑いながら説明してくれた。
箱を開けて見せてくれる。
箱の中には穴が開いていた。
ここにナイフを挿入しておく。
箱の蓋が開いたら飛び出してくるびっくり箱。
「中にはバネかなんか入っているんですか?」
「エアガンみたいにガス噴射してナイフが飛んできたわよ」
しっかりしたびっくり箱だった。
おもちゃのナイフじゃなければ、ちゃんと人を殺せる代物だ。
「怪しい箱なんだから開けちゃだめじゃない」
スミレさんが注意する。
「見知らぬ箱があったら、開けたくなるじゃん?」
「危機管理能力を鍛えなさいよ。自分の知らないものが自分の部屋にいつの間にか置いてあるのはおかしいでしょ」
「現状把握も大切よ。これが何か知りたくなるでしょ」
「その結果、死んでるじゃない」
「スミレだって、無防備にシチュー食べたせいで死んでるじゃない」
「あれは避けようがないでしょ!?」
「それならあたしだって避けれないわよ? こんな箱があったら開けちゃうわよ」
「それは避けなさいよ!」
ツツジさんとスミレさんはそんな言い合いをしていた。
相変わらず仲良し。
「あの、ツツジさん?」
そんな中、わたしは気になることがあったのでツツジさんに呼びかける。
「何?」
「周囲に人はいなかったんですよね?」
「そうね。部屋の中には誰もいなかったわ」
「じゃあ、犯人はツツジさんの部屋にびっくり箱を置いていったってことですよね?」
「そうよ。それが、どうかした?」
どうかしているのだ。
「ツツジさん、自分の鍵はちゃんと持っていますか?」
「持っているわよ」
ツツジさんはポケットからすっと取り出して見せてくれた。
確かに9号室の鍵。
「部屋を出るとき、鍵はちゃんと掛けていました?」
「ええ。掛けていたわよ」
「鍵のかかったツツジさんの部屋に侵入してきたってことですよね? そこで箱を置いてから、出て行って鍵を掛けたってことになりますよね?」
「…………そうなるね」
ツツジさんは私の意見に同意してくれた。
犯人は結構な手間を掛けている。
ツツジさんの部屋の鍵を開けて、侵入して、箱を置いて、部屋を出て、鍵を掛け直した。
犯人のやることが多い。
「犯人がツツジさんの部屋を開けるには、マスターキーを使ったのかしら?」
ツツジさん以外が部屋を開けたとなると、マスターキーの可能性しかない。
「マスターキーって今はどこにあるの?」
カグヤがわたしに訊く。
「ロビーのカウンターかしら?」
わたしがカグヤに返答すると、それを訊いたセーラさんが発言した。
「なら、わたしが見に行ってくるわ」
そう言って、セーラさんはロビーの方に歩いて行った。
マスターキーはカグヤの部屋を開けるときにも使った。
ロビーにあることは誰もが知っているので、使おうと思えばすぐ使える。
こうなると、この建物の部屋は密室でもなんでもない。
セキュリティに難ありだ。
「スミレさん、ツツジさん」
わたしは二人に呼びかけた。
「どうかしたかしら?」
スミレさんが受け応えてくれる。
「調理室にいたときのことですけど。調理室には、サイリとセーラさんとスミレさんとツツジさんの4人がいましたよね」
「そうね」
「そこから、サイリが出て、セーラさんが出て、ツツジさんが出たっていう順ですよね?」
「そうよ」
「なら、ツツジさんを殺したのは、スミレさんではなさそうですね」
わたしは推理の筋道が立った。
「そう?」
カグヤは不信そうにわたしに確認を求める。
「そうよ。朝、捜査パートが始まったとき、全員の部屋を見て回ったじゃない?」
「そういえば、そんなこともあったわね」
あのときは盾を探していた。
カグヤの死因が平らなものに潰されたということだったので、誰かが隠し持っていないかを皆で見て回っていた。
「そのとき、ツツジさんの部屋にびっくり箱は無かったわ」
「そうね。そんな怪しいものを見落とすはずないもの」
「だから、ツツジさんの部屋に箱を置くタイミングは、皆が調理室に集まった後でしかないわ」
わたしは自信満々に言い切った。
「あるわよ」
「え?」
しかしカグヤに一刀両断された。
「サイリとセーラさんが天井裏を確認していたじゃない?」
「ああ、あったわね」
カグヤの部屋の天井が気になって調べていた時だ。
「あのとき、スミレさんとツツジさんは二人で朝食を作りに調理室に行っていたわ」
「…………そういえばそうだね」
言われてわたしは思い出した。
「そのタイミングでスミレさんは一人で、サイリとセーラさんを呼びに来たわ」
「スミレさんが一人になるタイミングがあったのね」
「そうよ。だからスミレさんを犯人から除外することはできないわ」
カグヤの言う通りだった。
わたしの推理は大穴が空いていたようだ。
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