第19話 死人の殺人
「セーラさんの事件で気になるのは凶器ですね」
カグヤがスマホを見ながら言う。
==========
被害者2:セーラ
死因:鋭いもので頭部を斬られて死亡
死亡推定時刻:朝10:30~11:00頃
==========
鋭いものか。
「ナイフとか包丁とかの刃物かな?」
わたしはカグヤに言ってみる。
「そうね。問題はそれがどこにあるかね」
「この辺に落ちていないかな?」
わたしはトイレの室内をぐるっと見回す。
しかし、凶器なんて分かりやすいものは落ちていない。
「さすがに犯人が持って行ったのかもね」
他の皆もトイレ内に手掛かりがないかと探しているが、何も見つからない模様。
あるのは床にこぼれている赤い跡。
セーラさんが使った血糊の跡だ。
「これ、掃除して良いかしら?」
セーラさんが司会進行のトコヨさんに訊く。
「ん~、ゲーム上関係ないから綺麗にしてしまっても良いわよ」
「了解。じゃあ、拭いてしまうわね」
セーラさんは使い捨ての雑巾を持ってきて、血糊を綺麗に拭きとった。
その間も、わたしはカグヤと相談していた。
「セーラさんを殺せるのは誰かしら?」
「私とサイリがスタッフルームに閉じ込められていた間だからね。誰でもできるわよ」
そうなってしまう。
死亡推定時刻の朝10:30~11:00頃にお互いを監視できていた人はいない。
朝食時に一旦集まって。
その後、それぞれ単独行動になっている。
複数で集まっていたのは、わたしとカグヤだけ。
他の皆は、それぞれの行動が把握出来ていない。
「はいはい、質問!」
ツツジさんが元気よく手を挙げた。
トコヨさんが承る。
「どうかしたかしら?」
「死んでしまったカグヤちゃんが、化けて出てきて殺した可能性はあるの?」
かなり突飛な発想だった。
それを聞いたセーラさんとスミレさんは大笑いしていた。
ミステリーでそれはない。
幽霊なんて超常現象を持ち出すと、推理ゲームにならない。
ところが。
「一応、その可能性もあるかもよ?」
トコヨさんは意味深に告げた。
「え? あるの?」
セーラさんが驚いて聞き返す。
「冗談よ。ないわ。死んでからはゲームの盤面に参加していないことにしておいて。そうでないと話がややこしくなってしまうわ」
なんだ、冗談か。
良かった。
幽霊の可能性を考えるのはややこしくて仕方がない。
「ただ、」
「ただ?」
「生前に罠を仕掛けておいて、その罠で死ぬことはあるかもね?」
その言葉に全員が驚いた。
そうか、そういうのがあるのか。
実際にその場にいなくても殺せるパターンね。
「わたしが朝食に毒を盛られて死んだやつとか?」
スミレさんが発言した。
確かにその通りだった。
==========
被害者3:スミレ
死因:朝食に混入された毒で死亡
死亡推定時刻:朝10:30~11:00頃
==========
スミレさんを殺すのは簡単だ。
予め朝食のシチューに毒を盛っておけば良い。
シチューは昨日の残り。
鍋を冷蔵庫に入れてあった。
夜のうちにこっそり毒を入れて置けば、スミレさんを簡単に殺せる。
これは誰にでもできる。
わたしやセーラさんやツツジさんだけじゃない。
先に死んでしまっているカグヤにだって殺すことは可能だ。
「そういうことね。このゲームにおいて死んだからって犯人じゃないなんてことは言えないわ」
トコヨさんが説明してくれる。
わたしもそう思う。
最後に死んだわたしだってそうなんだ。
わたしは誰かに殺された。
既に死んでいた誰かの罠にはめられて殺されてしまったんだ。
「スミレちゃんを殺すのは誰でも出来そうね。でも一応その現場を確認しておきましょう」
セーラさんが提案する。
そこでわたしたちは調理室に行くことにした。
テーブルにはシチューの皿がまだ置いてあった。
「これを食べたら死んじゃったのよね」
スミレさんが当時の状況を語る。
「誰もいないタイミングで食べたんですか?」
わたしがスミレさんに質問する。
「そうなのよ。まず、サイリちゃんがトイレに行くって言ったでしょ?
それからセーラさんもトイレに行くって言っていなくなっちゃって。
その後、ツツジが部屋に薬を忘れたって言って、いなくなっちゃったの。
しばらく待っていたけど、待ちきれなくなって先に食べちゃったら、毒が入っていて死んじゃったのよ」
スミレさんがシチューを食べたとき、調理室には誰もいなかったらしい。
それならこれ以上、分かることは無い。
犯人が誰かを絞り込めるわけでもない。
スミレさんの目の前で誰かが毒を入れていたら分かりやすかったんだけど、そんなばればれの犯人ではなかったようだ。
「スミレはさ、シチュー見てなんかおかしいとは思わなかった?」
ツツジさんが訊く。
「思わないわよ。見た目は普通だし、匂いも変なところは無いし」
「味は?」
「毒であることが分かりやすいように、辛子が入っていたわ」
辛子入りのシチューか。
嫌だなぁ。
「よく吐かなかったわね」
「代わりに涙がいっぱい出たわ」
スミレさんが苦々しい顔をする。
結構な辛子の量だったのかもしれない。
わたしの死に方が毒ガスで良かった。
わたしは辛子を食べたあと死んだ振りをしてくれって言われてもできない。
その場で暴れまわっていたかもしれない。
「う~ん」
カグヤは腕を組んで考えていた。
「何か気になることがある?」
わたしはカグヤにだけ聞こえる声で話しかける。
「サイリは、セーラさんを殺したのって誰だと思う?」
「スミレさんかツツジさんでしょ?」
わたしでもカグヤでもなかったらそうなる。
「スミレさんの今の話なら、セーラさんを殺すことも出来そうじゃない?」
「確かにね。セーラさんとツツジさんが調理室を出て行った後に、スミレさんもトイレに行ってセーラさんを殺しに行けば良いものね」
「その間に、スタッフルームに私達を閉じ込めることも出来ただろうし」
調理室からトイレまで一直線。
全部、一気にやってしまえそうではある。
「でも、それはツツジさんでも出来ることなのよね」
「そうね」
他に目撃者がいるわけでもない。
スミレさんでもツツジさんでも犯行は可能そうだ。
「ともかく、ここで推理できることはもう無さそうね」
セーラさんがここまでの話をまとめる。
セーラさんの言う通りだった。
犯人を絞り込めそうなものは無い。
「じゃあ、次はツツジさんが死んだ所に行ってみましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます