第18話 人狼的作戦

「こうなるとサイリちゃんが一番怪しいわね」


セーラさんまでわたしを疑い出す。

まずいな。


「でも、わたしがみんなを殺すことが出来るなら、みんなだってわたしを殺すことが出来ると思うんです」


わたしは反論を試みる。

ただ、苦しい。

わたしが一番怪しいことをひっくり返せない。


「そうなの?」

「そうかしら?」

「そうなる?」


口々にわたしに対する疑義が発される。

う~ん。

まずいかも?

わたしはカグヤと目を合わせる。

カグヤがわたしと一緒に閉じ込められたことを証言してくれれば、疑いが減らせるかも?


そのとき、カグヤがわたしの裾を引っ張った。

他の人達に聞こえないように顔を寄せて小声で話しかける。


「私は助けないわよ?」


唐突に見放された。


「え? なんで?」


わたしは泣き顔を作ってカグヤに訊く。


「サイリが疑われていた方が面白いから」

「ひどくない?」


良い趣味しているな。


「それは半分嘘で」

「半分は本当なんだ?」

「人狼的な戦略よ」

「戦略?」

「サイリが疑われていると、本当の犯人が油断してくれるかもしれないから」

「なるほど。犯人の油断を誘うのね」


なかなか効果的な作戦かもしれない。

みんながみんな平等に疑われていると、常に警戒してしまう。

でも、みんながわたしに疑いを向けていると、犯人は気が緩んで尻尾をみせてくれるかもしれない。


「だから、サイリはぎりぎりまで疑われていてね」

「…………努力する」


こうしてわたしとカグヤの秘密作戦が始まった。

うまくいくかしら?


「みんなの死因を確認できるかしら?」


セーラさんがトコヨさんに訊く。

トコヨさんは驚いて肩を揺らした。


「そういえば忘れていたわ。これをみんなに送らないと」


そう言ってトコヨさんはスマホを操作した。

みんなのスマホにメッセージが届く。


==========

被害者1:月乃海カグヤ

死因:平らなもので全身を押しつぶされて死亡

死亡推定時刻:深夜2:00~4:00頃

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被害者2:セーラ

死因:鋭いもので頭部を斬られて死亡

死亡推定時刻:朝10:30~11:00頃

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被害者3:スミレ

死因:朝食に混入された毒で死亡

死亡推定時刻:朝10:30~11:00頃

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被害者4:ツツジ

死因:胸にナイフを刺されて死亡

死亡推定時刻:朝10:30~11:00頃

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被害者5:四季咲サイリ

死因:毒ガス

死亡推定時刻:朝11:00~11:30頃

==========


全員分の死亡記録が届いた。


「これは確かな情報なのね?」


セーラさんがトコヨさんに確認する。


「そうよ。犯人だから情報に嘘があるということもないわ。全員これの通りに死んだという設定よ」


トコヨさんが説明してくれる。


「これを見ると、やっぱりサイリちゃんが怪しくない?」


スミレさんがわたしに追い打ちをかける。


「そうですか?」

「そうよ。だって、死亡推定時刻が一番遅いじゃない」


深夜に殺されたカグヤはともかく。

セーラさん、スミレさん、ツツジさんの死亡推定時刻は朝10:30~11:00頃。

それに対してわたしの死亡推定時刻は朝11:00~11:30頃。


「そうなっちゃってますね」


実際、わたしは他のみんなが死んでいることを自分の目で確認している。

みんなが死んだのを発見してから、最後にわたしが死んでいる。


「サイリちゃんがみんなを殺してから、自分で死んだって考えるのが自然じゃない?」


確かに。

そう考えるのが自然だ。


「いや、でも朝10:30~11:00ってこのスタッフルームに閉じ込められていたんですよ?」


実際に閉じ込められていたから、他の人を殺し回っている訳にはいかなかった。


「それが嘘くさいのよね」


スミレさんは疑いの眼でわたしを捉える。

それはそう。

わたしだってこの状況なら、わたしが一番怪しいと思う。


「わたしは殺していないんですよね…………」

「犯人はそう言うよね」


スミレさんの追求が襲ってくる。

そのとき、カグヤが声を出した。


「ちょっと気になることがあるんですけど」


全員がカグヤに注目した。


「おっ、助け船?」

「いや、サイリは自力で疑いを払拭して」


冷たくあしらわれた。


「そんなぁ」


消沈するわたし。

まぁ、これもみんなの疑いをわたしに向ける作戦の一部。

そしてカグヤは話を続ける。


「他の人が死んだときの様子を詳しく見てみませんか?」


カグヤの提案にセーラさんが質問する。


「それは良いと思うけど、どこか気になることがある?」


カグヤは大きく頷いた。


「スミレさんの死因なんですが、朝ご飯に毒が盛られたっていうことですよね?」

「ええ、そうよ。朝ご飯のシチューに毒が盛られていて、それを食べたら死んじゃったの」


スミレさんが自分の死の様子を語ってくれる。


「それなら、その場にいなくても殺せますよね。朝の早いうちに毒を盛っておけば良い。犯人が殺すタイミングでスミレさんのそばにいる必要はないんです」

「おぉ!」


わたしは感激した。

これならわたしが一方的に怪しまれることはない。

みんなが平等に怪しい。

カグヤの意見にみんなも同調していた。

良かった良かった。

わたしを犯人と決めつけるのに待ったがかかった。


「他の人もどうやって殺されたか、詳しく確認してみましょう。何か分かるかもしれないです」


というわけで、みんなで順番に死んだ状況を確認していくことになった。

まずはセーラさんの殺人現場に行く。

セーラさんが死んでいたのは1階のトイレ。


「わたしが死んでいたのはここよ」


セーラさんが説明してくれる。


「セーラさんはどのタイミングでトイレに来ましたか?」


カグヤが質問する。


「朝ご飯の前よ。サイリちゃんがご飯の前にトイレに行くって出て行ったあとね。わたしもすぐ調理室を出てこっちに向かったわ。いつの間にかサイリちゃんを追い抜いちゃっていたみたいだけど」


なるほど。

わたしとカグヤがスタッフルームに寄り道したところ、追い抜かれちゃったみたいだ。

わたしたちが閉じ込められている間に、セーラさんが先にトイレに行ったと。


「それで、トイレに来て襲われたんですか?」

「そうよ」

「どんなタイミングでした?」

「トイレのドアを開けて、数歩歩いたところね。後ろから、がつんっとやられたわ」


セーラさんは死んでいたときと同じ姿勢をとって説明してくれる。

洗面台に突っ伏したセーラさん。

朝見たときは首から血が流れていたけど、今は無い。


「犯人の顔はみていないんですね?」

「流石に見ていないわね。見ていたら、ミステリーゲーム終わっちゃうしね」


実際の殺人事件も、死んだ被害者が喋ってくれたら話がすぐ終わりそう。

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