第17話 スタッフルーム
「これって、どうやって天井を下げるのかしら?」
廊下に5人が集まっている。
そんな中、スミレさんが疑問を投げかける。
「どうやって?」
わたしは聞き返す。
「さっき天井裏を見た感じだと、スイッチみたいなものはなかったわよ」
もっともな疑問だった。
確かに天井が動きそうだって分かっただけでどうやって動かしたかは分からない。
ボタン一つで動かせるのか、船の舵みたいにぐるぐる回さないといけないのか。
まだ何も分かっていない。
でも、手掛かりはある。
「それらしい場所はありましたよ」
「それらしいって?」
「天井を操作できそうなものです」
「そうなの!?」
スミレさんの声が大きくなった。
ああ、そうか。
他の人は知らないんだった。
スタッフルームに行ったのはわたしとカグヤだけだものね。
「ついてきてください」
わたしはみんなを連れてスタッフルームに向かう。
4F 8(空 室) 1(スミレ) 6(空 室)
3F 3(サイリ) 5(セーラ) 7(カグヤ)
2F 4(空 室) 9(ツツジ) 2(空 室)
1F ロビー、キッチン、風呂、スタッフルーム
スタッフルームは1F。
ぞろぞろと階段を降りて到着。
「ここ?」
「はい。朝食前に、わたしがこの部屋に入って妙なパソコンを見つけたんです」
「妙なパソコン?」
「そうなんですよ」
わたしはスタッフルームの扉を開ける。
朝見たときと同じ、雑然とした部屋。
机にダンボール箱がいくらか。
中には色々なものが入っている。
ペンとかセロテープとかの文房具とか。
おもちゃの刀とか。
そんなことよりも。
部屋の隅にはパソコン。
「ここ?」
「はい。あのパソコンが怪しくないですか?」
みんなでモニターの前に集まる。
画面には見慣れないアイコンが並んでいる。
「これは…………」
「ここ、見てください」
わたしは画面の端を指差す。
この建物の間取りが書いてあった。
そう。
朝、このパソコンを見たときに気にはなっていたのだ。
画面にこのホテル魔方陣の部屋番号が表示されている。
もしかして、ここで天井を操作できるのではないか。
「この建物の何かを管理していそうね」
セーラさんが気付いたことを口にする。
わたしもそう思う。
建物の部屋が表示されていて、何らかを電子制御していそうなのだ。
「これで天井を操作できそうじゃないですか?」
わたしはみんなに問いかける。
みんなも、できそうだという期待の眼差しを返してくれる。
「触ってみる?」
セーラさんがわたしに訊く。
「ちょっと待ってください。これが本当に天井を操作するシステムなら、触らないでください」
わたしはみんなをパソコンに近寄らせないようにした。
「どうしたの?」
セーラさんの疑問。
「触る前に、指紋を採取したいです」
わたしの返答に、みんなが驚きの顔を見せる。
ただ、わたしは朝からずっと指紋のことを考えていた。
だからこのパソコンには一切触らなかった。
犯人がこのパソコンを操作したのなら、ここに指紋が残っているはずだから。
「指紋採れるの?」
カグヤから質問が来た。
「採っていいですよね?」
わたしは司会進行のトコヨさんに訊く。
ルール上問題無いか確認しないと。
「採れるなら採っても良いけど、採れるの?」
トコヨさんはわたしに訊き返す。
「昨日、漫画で見ました!」
わたしは元気よく返事をする。
やったことはないけど、今ならできる気がする。
「いや技術的な面じゃなくて、道具的な面で出来るの?」
トコヨさんが念押しの質問をする。
「…………指紋採取キットってないんですか?」
「そんな便利なものないわよ」
トコヨさんに即答されてしまった。
「…………ないんですか?」
「なんであると思ったの?」
逆に質問されてしまった。
「捜査パートを開始するって言われた時から、指紋採取する気満々だったので…………」
どうやら指紋採取すれば良いという考えはわたしの早とちりだったようだ。
このミステリーゲームにそんな便利アイテムはないらしい。
「みんなは普通に旅行に来たっていう設定だから、指紋採取の準備なんてしてないわよ」
「誰かかばんの中に常時携帯している人はいないの!?」
わたしは一人一人と顔を合わせる。
全員、持っているわけがないと苦笑いする。
「ミステリーゲームのルール上は、この建物の中に有るものは使って良いわ。でも外から持ち出すのは駄目よ」
トコヨさんがルールを丁寧に説明してくれる。
わたしの作戦は瓦解していた。
その場に膝を突くわたし。
「じゃあ、どうする? パソコン触ってみる?」
カグヤがわたしの傷心を気にせず、パソコンに向かおうとしていた。
「…………ちょっと待って。指紋採取の方法を考えるから」
「考えても無いものは無いわよ?」
カグヤの冷たい言葉が身に染みる。
「それにしても、サイリちゃんはなんでこの部屋を知っていたの?」
セーラさんが疑問を口にする。
そうか。
わたしがここに来たタイミングでみんな別々に行動していた。
それぞれ何をしていたか知らないのだ。
わたしは順を追って話すことにした。
「朝食の用意ができて、みんな一旦キッチンに集まりましたよね」
「そうね」
「わたしはすぐお手洗いに行きました」
「そうだったわね」
セーラさんが適宜相槌を打ってくれる。
「お手洗いに行く途中、このスタッフルームが気になって入ってみたんです」
「ふむ」
「そうしてわたしが部屋に入ったら、外から閉じ込められて」
「え? 閉じ込められた?」
「中から出られなくなっちゃったんですよ」
不思議な状況だ。
自分でも信じがたい状況を口にしているのは分かる。
「それで、閉じ込められてどうしたの?」
「部屋の中で鍵を探して、どうにか部屋から出ることができました」
「それ、どのくらいの時間がかかったの?」
セーラさんに質問される。
「30分くらいですね」
「はい!」
わたしの言葉を聞いて、スミレさんが元気よく手を挙げる。
「どうかしました?」
「サイリちゃんが怪しいと思うわ」
おっと。
わたしが疑われている?
「どうしてですか?」
「だって、その30分の間に、私たち3人が殺されているのよ」
そうか。
そうなるのか。
わたしがスタッフルームに閉じ込められている間。
セーラさんはトイレの洗面台で血を流して死んでいた。
スミレさんはキッチンで血を吹いて死んでいた。
ツツジさんが自分の部屋でナイフを刺されて死んでいた。
その後、わたしも自分の部屋で毒ガスを吸って死ぬ。
「確かに、わたしは怪しいですね」
客観的に見ると、わたしが3人を殺しているように思える。
スタッフルームで30分も閉じ込められていたって嘘っぽいし。
「さっきもいい加減な推理で私を犯人扱いしたし」
「それに関してはかまをかけただけです。ごめんなさい」
しまった。
思い付きで適当なプレイングをしたせいで、犯人に仕立て上げられそうになっている。
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