第16話 幽霊パート
というわけで幽霊パートが始まった。
わたしたち5人は幽霊になって、この事件の真相を推理していく。
「わたし、中途半端でやり残したことがあるんですよ」
わたしはみんなの顔を見て語りだした。
「やり残したこと?」
カグヤが聞き返してくれる。
「カグヤの部屋の天井よ」
「ああ、そういえば調べている最中だったわね」
第一の事件、カグヤが殺された事件の後。
残った四人でカグヤの部屋を捜査していた。
カグヤは鍵のかかった自室で死んでいた。
死因は平らなもので全身を押しつぶされたこと。
犯人は一体どうやって、カグヤを殺したのか。
わたしはドアを開け閉めしていたところ閃いた。
カグヤは天井に挟まれて殺された。
その予測を立てて天井を調べているところだった。
朝食に呼ばれたので調べるのを一時中断していた。
そこから立て続けに事件が起きて忘れてしまっていた。
「もう一度、天井を調べてみたいわ」
わたしは懐中電灯を取ってきた。
スタッフルームの前にあったもの。
この懐中電灯を持って、カグヤの部屋の前に行く。
他の4人もぞろぞろとついてくる。
気分は探検隊の隊長だ。
「じゃあ、カグヤは下で支えていてね」
「了解」
天井の点検口の下に脚立を構える。
脚立はカグヤに支えてもらう。
わたしは懐中電灯を持って点検口を開ける。
奥を照らしながら、天井裏を覗き込む。
「あ~」
わたしは気の抜けた声を出す。
「どうしたの?」
カグヤに聞かれる。
「妙な歯車とか変な配線がたくさんあるわ」
一目でただの天井裏で無いと分かった。
明らかに不自然な歯車がたくさんある。
普通はこんな天井裏になるとは思えない。
天井裏というのは電気の配線や水の配管が通るもの。
この天井裏には明らかに多すぎる配線が通っている。
「そっか。それなら」
「うん。天井が動く仕掛けがあるのは間違い無さそうね」
わたしは一旦脚立から降りた。
「わたしにも見せて」
セーラさんがわたしに言ってくる。
わたしはセーラさんに懐中電灯を渡した。
今度はセーラさんが脚立に昇る。
するするするっと上に昇って天井を覗く。
「どうですか?」
わたしはセーラさんの下から訊いてみる。
「これは、かなり複雑な構造をしているわね。
犯行に使ったのは間違いなさそうね」
セーラさんも確認してから脚立を降りた。
その後、スミレさんとツツジさんも順番に脚立を昇って天井裏を確認した。
「カグヤは昇ってみないの?」
わたしは廊下の隅っこで考え事をしていたカグヤに話しかけた。
「私は昇らなくていいわよ」
「そうなの?」
「天井に動きそうな仕掛けがあることが分かったんだから、自分の目で見るまでもないわよ」
「自分の目で見た方が確信が持てるから、見た方が良いと思うわよ?」
「自分の目と同じくらいサイリを信用しているから大丈夫よ」
予想外の角度から信頼されていた。
「えへへ」
「それよりこの後が問題よ」
「この後?」
「動く天井でわたしを殺したのは誰かということよ」
そう。
カグヤの殺人方法は分かった。
鍵のかかった扉の中で、どうやってカグヤを殺したのか。
その答えは判明した。
天井を操作して密室のままカグヤを圧し潰したんだ。
そして、いまから考えるべきは、誰がそれをしたのかということ。
「カグヤを殺すのって、誰でも出来そうよね」
わたしは第一感を述べる。
そう。
天井を操作すれば良いのなら、誰でも犯行が可能だ。
夜中、みんなが寝静まったときに、操作しにいけば良い。
難しいことは何もない。
「そうなのよね。ここで言えるのは誰でも犯行が可能。容疑者は5人のままよ」
カグヤが不思議なことを口にした。
「5人? 4人じゃないの?」
カグヤを殺せたのは、わたしかセーラさんかスミレさんかツツジさん。
4人では?
「私が自分で自分を殺した可能性もあるから」
「あ~」
そんなことまで考慮して考えるのか。
確かにボタン一つで天井を作動させられるのなら、自分で自分を殺すことも可能だ。
よくそんなところまで考えが回るものだ。
「だからここで分かることは何もないわね。私自身が犯人でないことを訴える材料もないわ」
「そうだねぇ」
結局、天井裏を見ても状況は進んでいないということなのね。
「このミステリーゲームでは自分の潔白を証明するのも大事なの」
「そうなの?」
「ええ。この中の誰かが犯人なのは決まっているから、犯人以外が潔白を証明できれば自然とゲームの勝利よ」
「まぁ、確かに」
普通の事件だったら警察は、犯人が犯人である証拠を並べて犯行を立証しないといけない。
でも、このゲームだと消去法でも犯人が割り出せる。
「このゲームは、真正面からミステリーに挑む以外にも色んな戦い方があるわよ」
「そうなるわね」
わたしはカグヤに言われて少し考えてみた。
真正面からミステリーに挑む以外の方法。
…………うん。
すぐに閃いた。
「よし、やってみよう」
「何を思いついたの?」
不安げな顔のカグヤは置いておいて、わたしはスミレさんの眼前に立つ。
「犯人はスミレさんですね?」
「え? どうしたの、急に?」
わたしは笑顔でスミレさんに対峙する。
スミレさんはただただ戸惑っているようだった。
「この仕掛けは、恐らく本当にカグヤを殺すときに使われたものです」
「そうね」
スミレさんは落ち着いた声で返答してくれる。
「朝のことを思い出して欲しいんです」
「朝?」
スミレさんは小首を傾げる。
「朝に、わたしとセーラさんがこの点検口を調べましたよね?」
「ああ、そうだったわね」
「そのとき、スミレさんがわたしたちを呼びに来ましたよね。『朝ご飯にしない?』って」
「そうね」
朝にも一度、点検口を確認している。
そのときは懐中電灯が無くて何も見えなかった。
そんなタイミングでわたしたちの捜査を中断したのが、スミレさんだった。
「あのとき、もしかしてわたしたちの捜査を中断したのって、わたしたちに天井のトリックを知られたくなかったからじゃないですか?」
わたしは力強く言い切った。
もしかしたら、スミレさんが動揺してくれるかもしれない。
そう、期待していたのに。
「あっ、それはあたしがお腹空いたって言い出したからだね」
スミレさんからではなくツツジさんから返答があった。
「あら?」
「お腹がぺこぺこで、早く朝食にしたかったんだよね。サイリちゃんとセーラさんは捜査をしていたけれど、先に食堂行って支度していたの」
「そうだったんですね」
「そうよ。だからスミレがタイミングを見て朝食に呼んだわけじゃないわ」
まるっきり見当違いの推理を披露してしまったようだ。
ツツジさんの擁護によってスミレさんも胸を撫でおろしたようだ。
「ああっ、いきなり疑われてびっくりした」
「いきなり疑ってみれば、犯人が動揺してボロを出してくれると思ったんですけどね」
わたしは負け惜しみを口にする。
「適当にかまかけるのはやめなさいよ」
カグヤに注意される。
「そうね。もっとちゃんとミステリーした方が楽しいかも」
もう少し正攻法で考えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます