第13話 閉じ込められる
「朝ご飯にしない?」
わたしとセーラさんが天井の点検口を調べていると、スミレさんが提案してきた。
「そうね。まだ食べていなかったわね」
セーラさんは食べたいみたいだ。
「じゃあ、こっちは一時中断しますか」
わたしは脚立から降りた。
「昨日のシチューが余っていたから、温め直したわ」
わたしとセーラさんが捜査をしている間に、スミレさんとツツジさんは朝ご飯を用意していたみたいだ。
キッチンに行くとシチューが既に皿に盛られていた。
「昨日の続きね」
「カグヤも食べる?」
わたしはカメラを持っているカグヤに訊いた。
カグヤは首を傾げる。
「カグヤちゃんはこっちのスタッフ用の食事にしてね」
進行役のトコヨさんが説明してくれる。
トコヨさんはパンを指差した。
そっちの用意もちゃんとあるようだ。
「あっ、ちょっと手を洗ってきますね」
わたしはトイレに行くことにした。
さっき天井の点検口を触ったせいで、手が埃っぽい。
キッチンの流しで手を洗っても良いけれど。
一人でトイレに行って、念入りに手を洗おう。
そう思って、キッチンを出る。
カグヤがカメラを持って付いてきた。
手を洗ってくるぐらいだから、わざわざ撮影しなくても良いのにとは思ったけれど。
見られて困ることをするわけでもないから問題無い。
「ただ、ついてきてもらってもお喋りできないのは残念ね」
カメラを持ったカグヤは無表情でわたしを撮影している。
何かのヒントを口走るわけにはいかないから、カグヤは口を開かない。
ただただわたしを撮影している。
なかなかのプロ意識だ。
「おっ?」
トイレに行く途中。
廊下に懐中電灯を見つけた。
壁に付いている非常用の懐中電灯。
「使えるかな?」
わたしは懐中電灯を手に持ってみる。
自動的に灯りが点いた。
おっ。
これなら行けそうだ。
あとで、これを持って天井裏を見てみよう。
おそらく仕掛けが見えるはずだ。
「でも、なんでこんなところに懐中電灯が?」
非常用の懐中電灯なら非常階段とかに備え付けてあると思うのだけど。
もっと分かりやすいところにあるのが自然だ。
ここは廊下の中途半端な位置。
目の前には部屋が一つ。
「スタッフルーム?」
気になるな。
関係者以外立ち入り禁止のような場所だけど、入って良いのかな?
進行役のトコヨさんからは、この建物内は自由に捜査して良いと聞いている。
ここに凶器や手掛かりが隠されている可能性もあるし。
「行ってみるね」
わたしはカメラを構えているカグヤに宣言した。
カグヤは「大丈夫かな?」みたいな顔をしたけど、わたしを止めることはなかった。
わたしは細長いレバーのドアノブを捻る。
そこは8畳くらいの大きさの部屋だった。
部屋の中の電灯を付けて中を見回す。
物置のように煩雑になっている。
机にダンボール箱がいくらか。
部屋の隅にはパソコンもあった。
「いかにもスタッフルームね」
わたしは第一感をカグヤに伝えた。
カグヤは返事をしてくれなかったが、なんとなく同意してくれた雰囲気だけは伝わってくる。
ここにもしかしたら手掛かりがあるかもしれない。
このパソコンで天井を操作できないかな?
そう思って画面を覗く。
パソコンの電源は付いている。
ごく普通のデスクトップ。
見慣れないアイコンが並んでいる。
ちょっと触って何が起きるか試してみたい。
「触るのはやめておくね」
わたしはカグヤに宣言した。
カグヤは疑問を顔で示した。
こういうときに喋れないのは不便だ。
「これが本当に天井を操作できるシステムなら、重要な証拠よ。もしかしたら犯人の指紋が出てくるかもしれないし」
そんなことを考えていたときだった。
入り口のドアで、がちゃりっという音がした。
「!?」
ドアの鍵が締まる音。
わたしは慌てて、ドアを内側から開けようとする。
しかし、ドアはびくともしない。
廊下側から鍵を掛けられた。
こちら側に鍵穴はある。
つまり鍵が無いと開きそうもない。
「まずい……」
あれ?
これは、もしや?
わたしも死ぬパターン?
そっか、そうだよね。
被害者が一人だなんて言ってないものね。
このミステリーゲームが連続殺人の可能性もある。
カグヤの次の被害者はわたしか?
このまま閉じ込められて、毒ガスでも流し込まれるか?
そんなことを考えたとき、スマホの通知音がした。
急いで画面を見る。
==========
スタッフルームに閉じ込められた。
室内のどこかに部屋の鍵がある。
探して脱出しよう!
==========
「ミステリーゲームじゃなくて宝探しが始まった!?」
わたしは画面を見て驚いた。
このまま犯人に殺されるのかと思ったけれど、そうではなかったようだ。
まだミステリーゲームには参加できるらしい。
しかし、鍵探しか。
地味な作業だな。
わたしは部屋を見回す。
何かがあるとしたら、あのダンボール箱かな?
いくつかあるうちのダンボール箱の一つを開けてみる。
パソコン関係の機器が入っている。
配線とかマウスのような小物。
「ここには無さそうかな?」
他のダンボール箱も探してみる。
文房具が入っているな。
ペンとかセロテープとか。
こっちはよく分からないガラクタが入っている。
金属製のブロックとか、何に使うか想像もできないスポンジとか。
おもちゃの刀もある。
何に使うんだろう?
「見つからないなぁ」
わたしは段ボールを合計5箱も調べた。
結局見つからなかった。
ここに閉じ込められて結構な時間も経つ。
スマホの時計を見る。
11:00
閉じ込められてから30分くらいかな?
朝ご飯も食べ損ねちゃった。
そのとき、スマホの通知音がした。
わたしではなく、カグヤのスマホから。
カグヤは一旦撮影しているカメラを置いた。
スマホの画面を確認して、久し振りに口を開く。
「鍵のヒントを出して良いみたい」
「ヒントがあるの?」
それは嬉しい。
「ヒントというか、もう答えね。机の横に引っ掛かっているってさ」
「え?」
わたしは机の横を見る。
鍵がかかっていた。
「段ボール箱はフェイクだったみたいね」
「隠してもなかったってこと!?」
こんなに簡単なことなら、すぐに見つけてもおかしくなかった。
わざわざ段ボール箱がいくつかあるから、真っ先にそこを調べたのに。
全く関係なかったらしい。
「随分無駄な労力を使ったわね」
「そうね。すぐに戻って、ご飯を食べましょう。お腹が空いたわ」
わたしは部屋の鍵を開ける。
カグヤと一緒にスタッフルームから出た。
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