第12話 天井

「犯人って窓から逃げたのかしら?」


みんなで輪になって考え込んでいるとき、セーラさんが口を開いた。


「その可能性はありそうですね」


というわけで、カグヤの部屋にみんなで行く。

部屋の窓を確認してみる。


「鍵がかかっているわね」


セーラさんが確認した。


「じゃあ、窓から逃げたってことでもなさそうですね」

「そうね。この部屋は3階だし、ベランダもないし。何かのトリックで窓から抜けるのも難しそうよね」


こうなると手掛かりがない。

鍵のかかった部屋の中でカグヤが死んでいた。

さらっと密室ができてしまった。


「カグヤちゃん本人が中から鍵をかけたってことかな?」


セーラさんがわたしに訊いてくる。


「どうなんでしょうね? カグヤが死んでから鍵をかけるのはできませんし」

「そうよね。カグヤちゃんは寝る前に自分の部屋の鍵はかけたのかな?」

「その可能性はありますね。生きている間に、部屋の鍵をかけて寝た。その後に犯人が侵入してきて殺された」

「つまり、犯人は鍵のかかった部屋に侵入して、カグヤちゃんを平たいもので押しつぶして、部屋から出て鍵をかけた。マスターキーなしで」

「そうなりますね」


どうやら、これはかなりの難事件のよう。

流石、トコヨさんの書いたミステリーだ。

思っていた以上に難解だ。


「しかし、手掛かりがないわね」

「一応、みんなのアリバイを確認しておきます?」


わたしはみんなに提案する。

カグヤの死亡推定時刻は深夜2:00~4:00頃。


「この時間、何をしていましたか?」


わたしが訊くとセーラさんが応えてくれる。


「部屋で寝ていたわよ」


スミレさんが応えてくれる。


「部屋で寝ていたわよ」


ツツジさんが応えてくれる。


「部屋で寝ていたわよ」


まぁ、そうだよね。


「サイリちゃんはどうしていたの?」


逆にわたしがセーラさんに訊かれる。


「部屋で寝ていました」


みんなそうなる。

部屋で寝ている以外のことをしている方が怪しい。

これだと犯人を絞り込めるわけがない。

おそらく犯人は嘘を吐いているのだろうけれど。

だからといってこれだけの証言で嘘を嘘と見破るのは難しい。

ここからどうしようか?

何から考えよう?


「う~ん?」


わたしは考え事をしながら、カグヤの部屋のドアを開け閉めする。

ここに何か仕掛けがあるのかも?

でも鍵をどうこうできるような隙間があるわけじゃない。

ちゃんとしたドアだ。

隙間から糸を繋げて鍵を締めるなんて芸当は出来そうもない。

わたしは所在なくドアをぱったんぱったんと開け閉めしていた。


「なんでドアを開け閉めしているの?」


わたしの意味不明な行動にセーラさんが尋ねてきた。


「ここに何かトリックでもないかと思いまして」

「無駄に開け閉めしていると、手とか挟んじゃうわよ?」

「確かに、危ないですね」


意味の無いことはやめておこう。

無駄に怪我したくないし。

指でも挟むと痛そうだ。

ん?

挟む?


わたしの頭の中に良さそうなものが通っていった。

スマホを取り出して、カグヤの死因を確認する。


==========

被害者:月乃海カグヤ

死因:平らなもので全身を押しつぶされて死亡

死亡推定時刻:深夜2:00~4:00頃

==========


「何か思いついた?」


わたしの表情を見て、セーラさんが訊いてきた。


「もしかして、凶器が違うんじゃないですか?」


わたしの中で段々と仮説が組み上がっていく。


「凶器?」


セーラさんが訊き返す。


「カグヤって、平らなもので全身を押しつぶされたわけじゃないですか」

「死因の報告だとそうね」


この情報はゲームの進行役から送られてきたものだ。

これが誤情報ということはないでしょう。


「わたしたちは盾みたいなものをイメージしているけど、もしかしてもっと大きなものなんじゃないかと」

「もっと大きなもの?」

「ええ。天井とか」

「天井!?」


そう。

犯人はカグヤの部屋に侵入してカグヤを殺して部屋から脱出して密室を作ったわけではない。

部屋そのものを凶器にしてカグヤを殺したんだ。


「うーん、と」


わたしは部屋の天井を見上げる。

正確に言うと、壁と天井の隙間。

何か違和感がある。

もしかして天井が動く仕掛けがあるのではないだろうか?

カグヤが寝ている間に天井が降りてきて、カグヤを潰したんだ。

ここはミステリーハウス。

部屋そのものにそういった仕掛けがあってもおかしくない。


「何かありそう?」

「ちょっと不自然な気がしますね」


壁と天井の境目。

何か隙間のようなものがある気がする。

これなら天井を落とすことが可能かも?

それにもっと不自然なものがある。

それは壁の模様。

いままで気にしていなかった茶色ベースの木目調の壁紙。

これ、何かが擦れた跡じゃないか?


「どう?」

「おそらく正しいと思います。この部屋の天井が動く仕組みになっていると思います」


わたしの中で、かなり確信になっている。

カグヤの殺害方法はこれだ!


「そんなすごい仕掛けがあるのね」

「流石ミステリーハウスですね。大掛かりなトリックです。恐らく部屋の外に天井を降ろすためのスイッチがあるはずです」


わたしはそう言って部屋の外に出た。

廊下の天井を見上げる。

そこには、丁度良く点検口があった。

四角い銀の枠。

天井裏の配線や配管をメンテナンスするためのもの。

あれを開けると、天井に仕掛けがあることが分かるんじゃないかしら?


「あれかしら?」


セーラさんも一緒に点検口を指差す。


「あそこ、開けられます?」

「脚立が欲しいわね」

「あっ、あそこにありますね」


わたしは廊下の奥に脚立を発見した。

都合が良い。

こんなに都合良く見つかるものなのだろうか。

都合が良すぎて不安になるレベル。


「じゃあ、わたしが下で支えているね」


脚立を点検口の下に持ってきた。

セーラさんが脚立を支えてくれるので、わたしが脚立の上に昇ることに。


「では、行きます!」


一歩一歩慎重に足を上げていく。

4段昇った所で、天井に手が届いた。

点検口に触れる。

埃のざらざらした感触。

あまり触っていないのかな?

そんな違和感もありつつ、点検口の蓋を押し上げる。

すると真っ暗な天井裏を覗けるようになった。


「どう? 何か見える?」

「う~ん。暗くて何も分からないですね」


そりゃそうか。

普通は懐中電灯くらい用意してから天井裏に行くものだ。

学びになった。

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