第11話 二日目 カグヤの死因

ミステリーゲーム二日目。

9:00

事件発生。

カグヤが死んでいた。


「それじゃあ、捜査パートを開始するわね」


進行役のトコヨさんがわたしたちに指示を出す。


「捜査パートって何ができるの?」


セーラさんが訊いた。


「死体の発見現場を調べても良いし、他の人のアリバイを調べても良いわ」


結構自由に動いても良いようだ。


「カグヤちゃんが死んだ部屋に行っても良いの?」

「良いわよ。事件に関する情報を集めてね」


トコヨさんがみんなに説明する。

ミステリーゲームが本格的にスタートだ。

まずは何をしようかな?


「平らなもので全身を押しつぶされて死亡っていうのが気になるわね」


まずセーラさんが口を開いた。

それはわたしも気になっていた。

周囲のメンバーの顔色を伺う。

この場にいる参加メンバーは4人。

セーラさん、スミレさん、ツツジさん。そしてわたし。

この4人でカグヤが死んでいた部屋の捜査をする。


「平らなものってフライパンとかですかね?」


わたしが適当な思い付きを口にする。


「全身を押しつぶされてって話だから、フライパンみたいな小さいものじゃないかも?」


セーラさんは冷静に返答してくれる。

確かにそうだ。

フライパンで人を殺そうと思ったら『頭を強打』みたいな書かれ方になるはず。

それが『平らなもので全身を押しつぶされて死亡』になっている。

ちょっと想像しにくい。


「じゃあ、盾みたいなもので体当たりして殺したんですかね?」

「そうかもね。ただ、この部屋に盾なんて無いわね」


特に物の無い6畳間。

畳の上に布団があるだけ。

机もないし、棚もない。

部屋の隅にリュックが一つ。

カグヤのものだ。


「犯人は凶器も回収していったんですかね?」

「だとしたら、この建物のどこかに盾がありそうね」


普通なら盾なんて無さそう。

西洋のお城みたいに甲冑が展示してあるわけではない。

至って平凡なホテルに、人を押しつぶせるほどの大きな盾があるとは思えない。

そもそも展示品なんてなかったし。


「誰か隠し持っていますかね?」


個人で盾なんて大きな物を隠し持っているとは思えないけど。


「一応、持ち物検査してみよっか?」


セーラさんはみんなに提案してみた。

全員がすぐに了承してくれた。

4人でそれぞれの部屋を見て回ることになった。


4F 8(空 室)  1(スミレ)  6(空 室)

3F 3(サイリ)  5(セーラ)  7(カグヤ)

2F 4(空 室)  9(ツツジ)  2(空 室)

1F ロビー、キッチン、風呂


まずはわたしの部屋。

殺風景な6畳間。

畳の上に布団があるだけ。

机もないし、棚もない。

部屋の隅にスーツケースが一つ。

わたしの部屋もカグヤの部屋も同じようなもの。

これなら盾なんて隠し持てるはずがない。


「盾なんてないですよね」

「やっぱりみんなシンプルな部屋ね。捜査しやすいわ」


セーラさんが部屋の感想を述べる。

わたしも同感だ。

このミステリーハウスは設計理念としてわざと物の少ない部屋にしたのかもしれない。

こういうふうに部屋の捜索が楽になる。

ミステリーゲームとして余計な手間のかからないシンプルな部屋にしたのだろう。


「他の人の部屋も見てみますか」


そうして、他の人の部屋も確認する。

セーラさん、スミレさん、ツツジさん。

でも結局同じだった。

みんながみんな6畳間に鞄が1つ。

盾なんて隠し持っている人はいなかった。


「凶器が見つかれば、犯人なんてすぐに分かったのにね」


セーラさんが残念そうに言う。


「さすがにそこまで簡単なミステリーゲームではないみたいですね」


持ち物検査をして終了だったらミステリーにならない。

警察の捜査体験にしてもしょぼい。

いろいろな手掛かりを集めて、正しく並べて真実を見つけ出すのがミステリーの楽しみなのだから。


「凶器が盾だったとしたら、どこかに隠してあるんでしょうか?」

「そうでしょうね。隠してあるとしたらこの建物のどこかかしら?」


この建物の部屋を全部見て回るのも面倒だな、なんて考えていた。

空き部屋とロビーとあとは、キッチンとか風呂とか。

隠せそうなところはあまり無さそう。

それとも、もうミステリーハウスの外に捨てたっていうこともありえる。

するとスミレさんが疑問を投げかけた。


「もし盾みたいなものがあったとしても、それでカグヤちゃんを殺すのって難しくないかな?」

「どういうことですか?」

「カグヤちゃんの部屋って、鍵がかかっていたじゃない?」


ああ、そういえば。

朝、カグヤがロビーに集合していないから、わたしたちは迎えに行った。

そのとき、カグヤの部屋には鍵がかかっていた。

このミステリーハウスの部屋はオートロックではない。

抜き差しするタイプの鍵。

つまり内側から鍵をかけたか、外から鍵をかけたか。


「カグヤの部屋の鍵ってどこにありますか?」

「カグヤちゃんの部屋の中にあったわよ」


わたしの疑問にセーラさんが応えてくれた。

さっきカグヤの部屋を捜査したときに見つけていたらしい。

鍵がカグヤの部屋の中にあったということは、部屋の鍵はカグヤが中からかけたのかな?

いや、違うか。

他にも方法はある。


「セーラさん」

「うん?」

「マスターキーってロビーにあったんですっけ?」


そう。

さっきはセーラさんが持ってきたマスターキーでカグヤの部屋を開けた。

マスターキーが無いと入れなかった。

カグヤの持っている鍵が無くても、マスターキーで出入りすれば問題無い。


「そうよ。マスターキーでどこの部屋の鍵も開くみたい」

「それって、誰にでも使えるんですか?」

「ロビーに使用記録があるから見てみる?」

「行きましょう!」


わたしがそう言うと、セーラさんは案内してくれた。

ロビーのカウンターにマスターキーのキーケースがあった。


「ここにマスターキーがあるの。それでマスターキーを使うと自動的に記録されるわ」


セーラさんがキーケースを操作する。

マスターキーの使用記録が表示される。


==========

9:05 持ち出し

9:23 返却

==========


「これは、今日の使用した分ですね」


カグヤの部屋を開けた時刻だ。


「そうね。その前は、……一週間前ね」

「一週間前!?」


昨晩遅くではないのか。

一週間前ならわたしたちとは関係がない。

つまり、カグヤを殺した犯人はマスターキーを使っていないことになる。


==========

被害者:月乃海カグヤ

死因:平らなもので全身を押しつぶされて死亡

死亡推定時刻:深夜2:00~4:00頃

==========


犯人がカグヤを殺したのは深夜2:00~4:00頃。

この時間にカグヤの部屋に入って殺したはず。

でもマスターキーは使っていない。

なんで鍵がかかっているんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る