第10話 二日目 カグヤ死亡

ミステリーゲーム二日目。

7:00

スマホに指示が来た。


==========

7:00 起床

起きたらロビーへ行ってメイクをしてね

8:00 ロビーに全員集合

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布団の中でスマホの画面を確認する。

昨日送られてきたものと同じだ。

特に変更はないみたい。


「むう~ん」


わたしは布団から身体を起こす。

寝巻から撮影用の衣装に着替える。

ささっと自分の部屋を出てロビーに向かう。

今日は事件が起きるかな?


「おはようございます!」

「おはよう、サイリちゃん。早いわね」


ロビーにはスタッフさんが2人いた。

1人はカメラを持って撮影している。

もう1人はメイクの準備をしていた。


「いつもはもっと早起きなので、かなりぐっすり寝ていた方ですね」


いつもは6:00前には起きている。

7:00なら朝食を食べ終えた頃だろう。

それと比べるとかなりゆったりした生活だ。


「サイリちゃんが一番だから、早速メイクをしようか」

「お願いします!」


わたしは化粧台の前に座った。


「今日は一日中撮影ね」

「そうですね。昨日は何も起きなかったので、今日こそは何か起きるはずなんですが」

「どきどきだね」


そのとき、わたしの頭を妙な想像がかすめた。


「……もしかして、死体のメイクもする予定なんですか?」

「あはは、しないわよ。どうやったら血飛沫に見えるかなんて知らないし。わたしはそういう特殊メイクはできないわ」


それはそうか。

見当違いの妄想だったようだ。

普段のメイクと演出用のメイクは別物だものね。

そんな話をしていると、他のメンバーも続々とやってきた。

まずはセーラさん。


「おはよう、サイリちゃん」

「おはようございます」

「ゆっくり眠れた?」

「はい。いつもよりぐっすりでした」

「今日もよろしくね」

「はい!」


次に来たのはスミレさん。


「おはよう」

「おはようございます」

「結局、昨日は何も起きなかったわね」

「ですね」

「どんな事件か楽しみね」

「ええ」


次に来たのはツツジさん。

まだ眠そうな顔をしていた。


「おはよ~」

「おはようございます」

「みんな早起きだね」

「ツツジさんは普段は遅起きなんですか?」

「うん。だいたいこの時間にお母さんに叩き起こされる」

「今日は自分で起きたんですか?」

「さっきスミレに布団ごとひっくり返された」


それを聞いてスミレさんの方を見る。

スミレさんは笑顔で手を振ってくれた。

ああ見えて、意外と剛腕のようだ。


時刻は8:00。

集合時刻である。

4人は揃ってメイクも終えた。

しかしここに集合するべきは5人。

1人足りない。

我が愛しのカグヤが来ていない。


「どうしたんだろ?」


わたしは一人呟いた。

普段から寝坊するようなカグヤではない。

時間にはとても正確なカグヤである。

遅刻するなんて見たことがない。

おかしいな。

カグヤの部屋に様子を見に行こうかな?

そう思ったとき、スマホに指示が来た。


==========

カグヤの部屋を見に行こう

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わたしは嫌な予感がした。

このタイミングでこんな通知が来る。

これは、もう。

事件が起きたに違いない!


4F 8(空 室)  1(スミレ)  6(空 室)

3F 3(サイリ)  5(セーラ)  7(カグヤ)

2F 4(空 室)  9(ツツジ)  2(空 室)

1F ロビー、キッチン、風呂


わたしは慌ててカグヤの部屋に向かう。

エレベーターはない。

カグヤは右端の7号室。

階段をかけあがり、カグヤの部屋に向かう。

他のメンバーとカメラの人もわたしに続く。

すぐに7号室の前に着く。

ドアを開けようとする。

しかし当然のように鍵がかかっていた。

防犯意識は高いようだ。


「カグヤ! カグヤ!」


わたしはドアをどんっどんっと叩く。

しかし何の反応もない。


「カグヤちゃん、開けるよ」


セーラさんが鍵を持っていた。


「鍵があるんですか?」

「マスターキーよ。ロビーに置いてあるの」


そう言ってセーラさんはさっと開錠した。

ドアを開けたと同時に、わたしは部屋にすっと入る。

殺風景な6畳間。

畳の上に布団があるだけ。

机もないし、棚もない。

中央の布団にカグヤはいた。


「カグヤ!! カグヤ!!! 死んじゃいやだよ!!!!」


わたしはカグヤを抱きかかえて絶叫する。

カグヤは目を閉じてぐったりしている。


「駄目だって!!! 一体なんで!!! なんでこんなことに!!!!」


わたしはカグヤの肩を抱いて揺さぶる。

必死の形相でカグヤの死に対する怒りと悲しみを表現する。


「カグヤ!!!」

「耳元で大声出さないでよ。そんなに真剣に演技しなくていいのよ」


カグヤが口を開いた。

目を開けて、わたしを冷静に諭す。


「駄目じゃない、カグヤ。カグヤは死体になったんだから動けないし喋られないわよ」


わたしは役になりきっていないカグヤを注意する。

この場で求められているのは、唐突に殺されたカグヤと友人の死を悼むわたしという役を演じることだと思っているのだけれど。


「流石に言わせて。誰もそんな真剣に演技するなんて思っていないのよ。そんなにカメラ映えを気にしているのはサイリだけだよ。ほら後ろでセーラさんたちが笑っているわ」


そう言われて、わたしは振り返る。

セーラさんたちは、わたしの熱演に大笑いしていた。

わたしがこんなに取り乱した演技をするとは思っていなかったらしい。

手を叩いて笑っている人もいる。

わたしはそんなに笑われるようなことをしているのかな?

このミステリーゲームの役者としては、これが適切だと思ったのだけれど。


「お芝居はそんなに頑張らなくて良いのよ」


セーラさんに言われる。


「こんな感じでやるものだと思っていましたよ?」


正直、昨日の夜からイメージトレーニングをしていた。

死体発見のリアクションもどういう演技にしようか脳内会議を開いていた。


「みんなお芝居は素人なんだから、そこまで求めてないわよ。サイリちゃんがそんなに演技に力を入れられるとは思っていなかったわ」

「このくらい演じるものかと。ドラマ仕立てのミステリー撮影なんだから、見る人にはこのくらいお芝居している方が臨場感があって良くないですか?」


わたしは真顔になる。

至って冷静に現状を把握しているつもりだ。


「やってくれるのは嬉しいけど、カグヤちゃんが困っているじゃない」

そんなカグヤは冷ややかな表情でわたしの方を見ていた。

可愛い目だ。

死人役とは思えない。


「カグヤも死体役を頑張ってよ」

「サイリが耳元で叫ぶから、落ち着いて死体役なんて出来ないわよ」


カグヤは溜め息交じりにわたしに言う。


「でも実際にカグヤが死んだら、わたしは冷静ではいられないと思う。これ以上に取り乱すと思うわ」

「ミステリーゲームだからそこまで想像して役に入り込まなくてもいいのよ?」


==========

被害者:月乃海カグヤ

死因:平らなもので全身を押しつぶされて死亡

死亡推定時刻:深夜2:00~4:00頃

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こうして、このミステリーゲーム最初の事件が発生した。

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