第8話 一日目 夕食
ミステリーゲーム初日。
17:00。
スマホに指示が来た。
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(全員共通)
みんなで夕飯のシチューを作ろう!
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楽しそうな指示が届いた。
早速、1階のキッチンに向かう。
そこには既にレシピも食材も準備してあった。
「じゃあ、作りましょうか」
セーラさんの指示のもと役割分担を決めて、5人で調理を始める。
わたしとカグヤは肉や野菜を切る係になった。
「では、やりますか!」
「サイリちゃん、カグヤちゃん。しっかり手を洗っておいてね。この調理用手袋も使ってね」
セーラさんが手袋をくれる。
普段わたしが家で調理するときは手袋なんてしない。
でもこういった大勢で作るときは、使った方が良いだろう。
「カグヤは料理するとき手袋する?」
「そもそも料理をしないわよ」
「そうだったわね」
カグヤは家事をまったくしない。
料理も掃除も洗濯もしない。
出来ないわけではないだろうけど、普段はまったくやらないしやる気もないらしい。
「そもそも家事を全部こなせる高校生の方が珍しいのよ。親がしてくれる家庭の方が多いわ」
「それもそうね」
わたしは姉と二人暮らし。
両親はいないし、大学生の姉もほとんど家にいない。
だから家事は全部自分でしている。
「だからこういうときに手際良くできるサイリは偉いわよ」
「うん! 結婚したらカグヤの分のご飯も全部面倒見てあげるわね」
「嫌よ。サイリとは対等でいたいの。そんな生活の全てを依存なんてしたくないわ」
これはわたしたちのいつもの会話なのだけれど。
「結婚すること自体は否定しないんだ?」
この会話を聞いていたセーラさんは驚いていた。
「もちろんです! わたしとカグヤは将来的に結婚します!」
「適当に言っているだけなので気にしないでください。いつもこんな感じのことを言っていますが口だけなので」
「いや、本気だって!」
わたしは気合を入れて宣言したけど、カグヤには適当にあしらわれた。
「相変わらず仲良しね」
セーラさんにはそんな感想をもらった。
というような会話をしつつ、調理を進める。
滞りなくシチューは完成した。
「いただきます!」
5人でシチューを食べる。
ほかほかのホワイトシチュー。
美味しくできている。
「美味しいわね」
カグヤもご満悦だった。
うっとりした良い表情。
この顔が見られるなら、やっぱり毎日わたしがご飯を作ってあげたい。
「なんかミステリーゲームを忘れて、普通に楽しんでいるわね」
セーラさんが言った。
「でもカメラで撮られてりから、常にそれなり緊張していますよ」
わたしは返答した。
そう。
この夕食中も撮影している。
わたしたち5人の周囲には固定カメラもあるし、カメラマンのスタッフがじっとみんなを撮影している。
だからうかつに変な表情をするとカメラで抜かれてしまう。
恥ずかしいことはできない。
「そんなに気を張らなくても大丈夫よ。自然に生活している様子を撮影したいし」
セーラさんはわたしに気を使ってくれる。
「カグヤみたいに、いつどこで何をしていても可愛くて絵になるビジュアルだったら自然体でも良いんでしょうけど、わたしにそんな自信はないですよ」
「心配しなくてもサイリもそれなりに可愛いわよ」
カグヤがフォローを入れてくれる。
ただそんな雑な言葉では満足できない。
「それなり?」
「それなりに?」
「本当に?」
「…………」
「…………」
沈黙。
食べる手を止めて睨み合う。
「サイリは最高に可愛いわよ」
「うん!」
今度はカグヤの言葉に満足した。
「あなたたち、とっても仲良しね」
セーラさんにそんな感想をもらった。
「せっかくだし二人で占いに行ってみない?」
唐突にツツジさんにそんな提案をされた。
「占いですか?」
「うん。駅の近くにある占い屋が最近話題なのよ。二人の相性でも占ってもらいなよ」
「話題の占い屋なんてあるんですね。初耳です」
「『ヒメジャノメ』っていうお店なんだけどね。占い師の人が目が見えないの」
「目が見えない?」
「ええ。盲目の占い師さん。目が見えないけど、その人と会話するの。10分くらい喋ると、運勢を教えてくれるのよ」
「目が見えないってことは、手相とか人相を見るわけではないんですよね?」
「そうね。なんなら誕生日も聞かれなかったわ。占いにやって来た人と単純に会話してアドバイスをくれるの」
不思議な占い師だな。
「ツツジさんは何を聞いたんですか?」
「恥ずかしいから秘密!」
そこは教えてくれなかった。
盲目の占い師。
興味が湧いてきた。
カグヤと一緒に行って二人の将来でも占ってもらおうかしら。
「いや、占いなんて信じないから」
カグヤは乗り気じゃなかった。
今度、無理矢理にでも連れて行こう。
「残りは明日の朝にでも食べましょう」
食事が終わって、後片付けをしていた。
シチューはかなり多めに作っていたから、今晩だけでは食べられそうにない。
「スタッフのみなさんは食べないんですか?」
わたしが訊くと、進行役のトコヨさんが応えてくれた。
「スタッフは別の食事を用意しているから気にしないでね。スタッフのわたしたちは基本的にいないものとして生活してほしいの。これもミステリーゲームの一環だから」
「了解です」
みんなでシチューを作ったこともあとあと何かのトリックに関わってくるかもしれない。
楽しみにしておこう。
これからどんなミステリーが起こるのかな?
わくわくしてきた。
案外これもトコヨさんのブラフで何も関わってこなかったりして。
そんな妄想を繰り広げていたところ、セーラさんがみんなを集めた。
「部屋決めをしましょう」
そういえば寝る部屋を決めないと。
ここのミステリーハウスは部屋番号がややこしかった。
4F 8 1 6
3F 3 5 7
2F 4 9 2
1F ロビー、キッチン、風呂
ホテル・魔方陣
ややこしい部屋番号のホテル。
「どの部屋を使っても良いんですか?」
「ええ。この5人で9部屋のどこでも使って良いらしいわ。せっかくだから、くじで決めましょ」
セーラさんはこのためにくじを作っていた。
紙コップの中に割りばしが9本差してある。
「これを引くんですね?」
「ええ。部屋番号が書いてあるから、引いた番号の部屋で寝ることにしましょう」
わたしはそろっとくじを引いた。
番号は3。
わたしの部屋は3号室。
えっと、3号室は3階の端っこか。
みんなも次々にくじを引く。
結果はこうなった。
4F 8(空 室) 1(スミレ) 6(空 室)
3F 3(サイリ) 5(セーラ) 7(カグヤ)
2F 4(空 室) 9(ツツジ) 2(空 室)
1F ロビー、キッチン、風呂
綺麗に十字に部屋分けされていた。
別に何かの意図はないけれど。
なんとなく気持ちが良い。
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