第7話 ツツジの紹介

「何々? 占いの話?」


わたしたち3人が話しているところにツツジさんがやってきた。


「ツツジさんは占いってどのくらいの信憑性があると思います?」


わたしは話の流れでツツジさんに訊いてみた。


「あたしはよく占いするよ! 暇なときはいろんな種類の占いを見ているわ」


そう言ってスマホの画面を見せてくれた。

占星術、数秘術、タロット、手相、茶葉占い、夢判断。

占い系のアプリがごっそり入っていた。


「こんなにたくさん見るんですか?」

「気分によっていろいろ見るのよ。占星術やタロットは毎日見るけど、夢判断は気になった夢を見たときだけね」

「なるほど」


確かに夢判断は毎日するものでもないか。


「せっかくだし、このミステリーゲーム誰が死ぬか占ってみない?」


ツツジさんが提案する。


「そういう占いもできるんですか?」

「今日の星占いで良いでしょ。吉とか凶とか出るから、一番運勢の悪い人が死にそうじゃない?」


面白そうな提案だった。

みんなが吉なのに一人だけ凶が出たら、その人が死にそうではある。

占いが正しいならね。


「それじゃあ、やってみますかね」

「ここに、誕生日を入力してね」


わたしはツツジさんのスマホを借りて誕生日を入力した。

すぐに結果がでる。


「中吉。対話で理解が深められそう」


これから起こることじゃなくて、生活のアドバイスだ。

どういうことだろう?

何の理解が深まるんだろうか?

よく分からないけれど、中吉なら悪いことじゃないのかな?


「いっぱい対話しないとね」


ツツジさんと結果を見合わせる。


「対話しなかったら吉でも何でもないってことでしょうか?」

「そうかも?」

「そんなぁ……」


中吉とはその程度のものなのかもしれない。

大吉だったら何もしなくても幸運舞い込んできたかもしれない。

そして、ツツジさんも自分の誕生日を入力する。


「わたしも中吉だったよ。趣味を活かせる道を探して、だってさ」

「これも努力が課せられていますね」

「運気は自分手で掴めってことなのかしらね」

「でも、なかなか達成しやすそうですね」

「実際に趣味を活かしてこのミステリーゲームに参加しているから正解だよね」


セーラさんの動画企画に参加するという珍しい趣味だけど、みんな楽しんでいる。

今ここにいられるということ自体、占うまでもなく運勢の良い状態だとは思う。

他の人にもやってもらおうと、ツツジさんはスマホを渡す。

次はセーラさん。


「吉ね。支え合う大切さを実感するとき、だって」


かなり具体的なことが書かれていた。

これは面白い。

占いが合っていたか間違っていたか判断しやすい。

セーラさんが今日一日過ごしてみて、支え合う大切さを実感を感じなかったら占いが明確に外れることになってしまう。


「良い内容ですね」

「そうね。そもそもこのミステリーゲームは一人でやっている訳ではないわ。あなたたちも含めて色んな人達の支えで成り立っているの。だから、こうしてきちんと開催している時点で支え合う大切さを実感出来ているようなものなのよ」

「じゃあ、既に当たっているんですね」

「そういことになるわね」


ちゃんと当たっている占いだった。


「でも、それって他人と交流すればだいたい当たりますよね」


カグヤが茶々を入れてきた。


「そうなの?」

「そうでしょ。自分以外と会話すれば、大なり小なり支え合うことは実感できるわ。そもそも現代社会で独力で生き抜いている方が珍しいわ。こんなの誰にでも当てはまるわよ」

「バーナム効果ってやつ?」

「それよ。占いはだいたいこれだと言われているわ」


バーナム効果。

誰にでも当てはまるようなことを言われても、自分に強く当てはまると感じてしまう現象。


「今日はセーラさんは特別にいつも以上に支え合う大切さを実感するかもしれないじゃない?」


わたしは思い付きで反論してみる。


「するかもしれないし、しないかもしれないわ。それを科学的に実証するのは大変なのよ」

「どうやって実証するの?」

「まず、サンプルに数千とか数万人に一年間アンケートを取るのよ。365日毎日『支え合う実感を感じましたか?』っていうアンケートね。ある日にYESを解答した人が多くなったら、そこでYESを解答した人の星座を調べる。その星座に偏りがあったら実証出来たことになるんじゃないかしら」

「ややこしいわね」


そんなことやりたいとは思わない。

誰かがやっているとも思えない。

労力の割に大した実利も得られないし。


「そうよ。科学的な実証って大変なの。そこまでちゃんとして初めて科学的って言えるけど、そんなことをしている占いなんて見たことないわ。歴史上にも存在しないと思うわ。だから占いなんて無意味よ」


カグヤはそんな結論を教えてくれた。


「そんなものかな?」

「そんなものよ。こんな占いは絶対にいい加減よ。大体、人によって一言の内容がまったく違うのも気になるわ。アドバイスを書くなら全員にアドバイスを書くべきだし、未来の出来事を書くなら全員に対して未来の出来事を書くべきだわ。そんな内容のジャンルもばらばらだなんて、適当に作った占いである証拠だわ」


わたしとカグヤがそんな話をしていたとき、スミレさんも占いをしていたようだ。


「吉。学びの場を積極的に探して」

「やっぱりアドバイスが多めの占いなんですね」

「何が起きるかは教えてくれないね」


具体的にどんなことがあるとか言ってくれると検証のし甲斐があるんだけど。


「じゃあ、最後はカグヤちゃんね」


ツツジさんはカグヤにスマホを渡す。

ここまでで、わたしが中吉、ツツジさんが中吉、セーラさんが吉、スミレさんが吉。

カグヤの結果は、


「大凶。自分の感覚を大事にして……」


散々なものだった。

みんなで顔を合わせて笑っていた。


「このアプリで大凶なんてみたのは初めてよ」


ツツジさんが驚いていた。


「アプリの占いってユーザーに気に入られるように、良い結果しか出さないと思っていたわ」


セーラさんは笑いながらも感心していた。

大凶なんて普通のおみくじには入っていないだろう。

わたしも見たことない。


「いや、これが当たっているなんて微塵も思いませんからね!」


カグヤはめいいっぱい反発する。

占いを否定した手前そう言うしかないのだろう。

でも占いをまっこうから否定した人が大凶を引くのは面白い。


「そんなことを言っていると罰が当たるわよ?」


わたしが適当にたしなめる。


「罰なんて当たるわけないじゃない! こんなんで罰を与えるなら天の方が理にかなってないわよ!」


カグヤが吠える。

そんな必死な顔も可愛いなぁ。

これでカグヤが殺されたら面白いなぁ。


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