第6話 スミレの紹介

ミステリーゲーム初日。

午後4時。

この時間、わたしに与えられた指示は『ロビーで全員と会話すること』である。

わたし以外のプレイヤーは4人。

4人と会話しよう。

会話の中身は何でも良いみたいだから、さっさと終わらせてしまおう。

わたしは早速、横にいるカグヤに話しかける。


「ねぇ、カグヤ」

「どうしたの?」

「誰が犯人だと思う?」

「まだ事件も起きていないのに、何が分かるのよ?」


カグヤから冷たいお言葉を頂いた。

これでカグヤとの会話を達成。

どんどん行こう。

次にセーラさんに話しかける。


「セーラさんも犯人が誰かは知らないんですよね?」

「ええ。今回の企画はほとんどトコヨが作ったから、わたしは言われたことをちょこっと手伝っただけね」

「じゃあ、犯人が誰かも知らないんですね?」

「もちろん。みんなと同じような状態よ」

「誰が犯人だと思います?」

「まだ事件が起きていから、何も分からないわよ」


セーラさんはわたしの言葉に苦笑していた。

カグヤと違って優しい。

これでセーラさんとの会話を達成。

次にスミレさんに話しかける。


「スミレさん! お久し振りですね」

「サイリちゃん! 久し振り。先月のクイズ企画以来だっけ?」

「そうですね。あの握手クイズのときにいっぱい握手しましたね」


握手クイズ。

目を閉じた状態で何人かと握手して誰が誰かを当てるクイズ。


「サイリちゃんは全員しっかり正解していたわね」

「なぜか感が冴えていましたね」

「カグヤちゃんは全然当てられなかったのに、サイリちゃんの手だけ正解していたわね」

「普段から触っている手は分かるみたいでしたね」


しょっちゅう手を繋いでいるから、そこは絶対に間違えない。

いつものか、そうでないかぐらいは簡単に分かる。

それ以外の区別は難しかった。

女の子の手なんて、みんなぷにぷにで柔らかくて、触っていて気持ち良いものだから。


「あれからね、手についていろいろ調べてみたのよ」

「手について?」

「例えば、手相占いよ」

「ああ、ありますね」


たまにテレビでみるやつだ。

手の平に現れる線で、その人の性格や運勢を判断する占い。


「生命線とか感情線とか頭脳線だね。サイリちゃんの手相を見せてくれる?」

「はい」


わたしはスミレさんに掌を見せる。


「これが生命線ね。生命線が深いとエネルギッシュで、浅いとエネルギー不足っていうことらしいわ」

「エネルギーって生活のためのエネルギーですかね?」

「多分そうじゃないかな? わたしも本を読んだだけだからよく分からないけれど」

「だったらご飯を食べたら、線が深くなるんですかね?」

「もっと全体的なことじゃないかな? 生きることに前向きとか、そう言う感じの」


スミレさんも何冊か本を読んだだけなので詳しい訳ではない。

詳しくは手相占い専門の占い師に聞かないと。

それでもスミレさんは、自分の調べたことを一生懸命教えてくれる。


「これが感情線よ。感情線が深いと強い感情を表して、浅いと感情が薄いみたい」

「わたしはスミレさんよりかなり深いですね」


わたしとスミレさんはお互いの手相を見比べる。

こうしてみると、他人の手相は全く違う。

しわの本数も伸び方も全然別物だ。

手を握っただけだと、誰の手か判別するのは難しかった。

だけれど、こうして手相を見比べると、誰の手相かはすぐに判別できそう。


「手相って人によって全然違うから、そこに意味があるんだろうと思って手相の研究をいろいろしてきたんでしょうね」


スミレさんがそう言ったタイミングで、カグヤもこちらにやってきた。

カグヤも全員と会話して回っている最中だった。

わたしとスミレさんが長々と話しているので一緒に混ざりたいみたい。


「スミレさん。占いってどのくらいの信憑性があると思います?」


カグヤがスミレさんに訊く。

そういえば、カグヤと以前、占いが信じられるかって話をしたっけ。


「どうなんだろうね? わたし自身は、合っていたらラッキーぐらいに思っているけど」

「最近、占いに関して調べてみたんですけど、信用できる要素が全くないんですよね」

「まぁ、厳密なものではないわね。大雑把なことしか言ってくれないし」

「そもそも運勢って具体性がないんですよね」


わたしも会話に混ざろう。


「具体性って?」

「例えば『明日の天気は良い天気です』って言われた時、サイリは明日の天気はどうなると思う?」

「良い天気なら晴れじゃないの?」


カグヤは大きく頷いた。

それはカグヤの想定した答えだったようで。


「日照り続きで水不足の地域だったら雨の方が嬉しくない?」

「それはそうかも」


随分と意地の悪いシチュエーションだ。

日本語としては間違っていないんだろうけど。


「おみくじで明日の運勢が『吉』になったするじゃない? でも実際に良いことがなかったら、どうかしら?」

「おみくじの運勢が間違っていたってことでしょ?」

「運勢を決める人にとっては『吉』だったって言えるのよ」

「それはずるくない?」

「占いってそのくらい曖昧なことを言っていると思わない?」


それを聞いたスミレさんは、くすくす笑っていた。


「相変わらずカグヤちゃんは賢いわね」


そう。

カグヤは賢い。

とても頭が良い。

おそらくカグヤと数分話したことのある人はみんなそう思うだろう。

本人も自分が賢いことは重々理解している。


「私が賢いことは手相から読み取れますか?」


カグヤは挑戦的に掌を差し出す。

わたしもその手を見る。

今まで気にしたことが無かったけれど、カグヤの手相は不思議な線をしていた。

というか線が極端に少ない。

深い線が3本しかない。


「頭脳線が深いから思慮深い人って言えるかも?」


スミレさんはカグヤの手相を見て判断した。


「私とカグヤのどっちが思慮深いです?」

「二人とも同じくらいね」

「じゃあ、間違っているじゃないですか。サイリはそんなに深刻な考え事なんてしませんよ」

「なんか馬鹿にしてない!?」


唐突に比較対象にされて、下に配置されてしまった。

そりゃ、カグヤに比べたら能天気な方かもしれないけれども。

わざわざ引き合いに出さなくたって良いじゃない!

そんな様子を聞いて、スミレさんは笑っていた。


「まぁ、サイリちゃんも賢いわよ」


スミレさんにフォローをされた。

ううむ。

ここまで言われっぱなしだと釈然としないな。

反撃するか。


「スミレさん。なんでカグヤが占いを必死で否定していると思います?」

「科学が好きなんじゃないの?」


そう思うのが自然。


「この間、ネットの星座占いで恋愛運が最低だったんですよ」

「占いで『恋愛運が最低です』なんて言われることがあるんだ?」

「びっくりですよね。それで悔しくなって占いを否定したくなったから、本を読んで調べたんです」

「ふふっ!」


スミレさんはさっきよりも笑っていた。

カグヤは「それを言うな」と言いたげな目でこちらを睨んでいた。

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