第5話 トコヨの紹介

ミステリーゲーム初日。

わたしたちは、お昼にセーラさんのスタジオに集合した。

そこから車に乗って、ミステリーハウスに移動する。

参加者とスタッフさんと合わせて10人。

2台の車に分かれて乗車した。

こっちの車にはトコヨさんとわたしとカグヤ。

あとスタッフさんが2人の計5人。

車内でわいわいお喋りをする。


「結構遠いんですね」

「うん。最近できたばっかりのミステリーハウスでね。もとは山中にある普通の宿泊施設だったみたい。それがミステリー好きのオーナーが買い取って、ミステリーの舞台になるようないろんな仕掛けを作ったみたい」


わたしとトコヨさんがお喋りをしている。

カグヤはわたしの隣で外の景色を眺めている。


「ミステリーハウスって集客力はあるんですかね?」

「それなりに人は来ているみたいよ。今日もわたしたち以外に何人か客がいるみたいだし」


ミステリーハウスなんて、かなりマニアックな施設だ。

わたしたちのように配信用のミステリーゲームをするような人以外に利用客なんていないように思えた。


「ミステリー好きな人って以外と多いんですね」

「そうみたいね。セーラの配信でもっと利用客が増えると嬉しいわ。このミステリーゲームも向こうから『宣伝してください』ってお願いされたのよ」

「セーラさんの配信に、そういうプロモーションの話が来るんですね」

「ありがたいことよ。わたしも張り切って台本を書いたから、楽しんで行ってね」

「はい!」


そんな話をしつつ。

車に揺られて一時間。

ミステリーハウスに到着した。


「わぁぉ!」


わたしは歓声を上げた。

そこは想像していたより大規模だった。

周囲は森。

そんな森の中にいくつかの建物がある。

マンションみたいな建物やコテージ、ドーム形の建物まである。


「思っていたよりいろいろあるわね」


カグヤも驚いて目を丸くしていた。


「わたしたちが使うのはこっちよ」


トコヨさんの案内に付いていく。

到着したのは、4階建てのホテルだった。

ここが今回のミステリーゲームの舞台。


「ホテル・魔方陣」


カグヤが看板を読み上げた。

魔方陣といえば、数字を並べるやつ。


8 1 6

3 5 7

4 9 2


というように数を並べると、縦横斜めのどの3つの合計も15になるという話。

数学でよく見る話。


「不思議な名前のホテルですね」

「ここのホテルは部屋番号がややこしくてね」


トコヨさんが説明してくれる。


「番号がややこしいんですか?」

「そうなの。ホテルの1階は受付とかのロビー。2階から4階までが客室なの。各階には部屋が3つずつあるんだけど、2階の部屋番号が4号室と9号室と2号室。3階の部屋番号が3号室と5号室と7号室。4階の部屋が8号室と1号室と6号室になっているのよ」


本当にややこしかった。

つまり


4F 8 1 6

3F 3 5 7

2F 4 9 2

1F ロビー


ということである。


「なんでそんなややこしいことに?」

「魔方陣にしたかったんでしょうね。ほら、ミステリーって不自然な建物が唐突に出てくることがあるじゃない?」


トコヨさんにそう言われて、わたしは思い返す。

最近読んだ数冊のミステリー。

シャーロックホームズや、エルキュール・ポアロ。

…………あったなぁ、不自然な建物。


一旦、ロビーに荷物を置いた。

全員が集合するのを待つ。


「先にメイクしておこうか」


トコヨさんが提案してくれた。

今から撮影である。

できるだけ良い顔で映りたいのが乙女心。

いつも撮影のときは、スタッフさんにメイクをしてもらう。


「それじゃあ、サイリちゃんからやろうか」

「お願いします」


スタッフさんに呼ばれて化粧台に向かう。


「今日は長丁場ね」

「そうですね。泊りがけなんて初めてです」

「撮影の途中でもメイクが気になったら言ってね。すぐに直すから」

「はい」

「それじゃあ、ファンデーションを塗るわね」


スタッフさんとそんな話をしていた。

それから、他のメンバーもすぐに到着した。

セーラさんも撮影の準備に取り掛かる。

メイクをする人、ホテルにある物品を確認する人、撮影機材を揃える人などなど。

スタッフさんは忙しそうにしていた。


わたしとカグヤはメイクを終えてロビーのソファで待っていた。

メイクを終えたカグヤの顔をじっと見る。

「どうかした?」


わたしの視線が気になったのか、カグヤが訊いてくる。


「カグヤは今日も可愛いわね」

「まぁね」


こんなところで謙遜はしないのがカグヤである。

カグヤはいつも自信に満ち溢れている。

中学時代に言い寄ってきた男子は100を超える。

その全員を袖にしてきて、恋人の座を勝ち取ったのはわたしなのであるが。


「わたしも可愛いかしら?」

「…………」


謎の沈黙。


「ん?」


わたしは返答を催促する。


「……まぁ、良い感じよ」


カグヤの頬がファンデーション越しにも赤くなったのが分かる。


「よし!」


カグヤはいつも自信に満ち溢れている。

ただ、わたしのことになると歯切れが悪くなる。

わたしのことが好きで照れ照れしているのだ。

こういうところがカグヤの可愛い部分である。


「はい、みんな集まって! ゲームのルールを説明をするよ!」


トコヨさんが皆を集める。

ロビーの片隅に皆で輪になる。

説明をするトコヨさんと、プレイヤー5人。


「わたしから、1時間に1回の頻度で指示が与えられます。これはわたしからスマホでメッセージを送ります。皆さんはその指示の通りに動いてください」

「指示ってどんなの?」


サイリさんが質問する。


「最初の指示は全員共通よ。『ロビーで全員と会話すること』

 これだけこなしてね」

「了解」

「その指示以外は自由行動です。みんなで仲良く遊んでください」


かなり大雑把なルールだった。


「一つ守ってもらいたいのは、わたしの指示は他の人には教えないでください。他の人のメッセージを詮索するのも無しです。犯人には人殺しの指示を与えるからね。これを盗み見ちゃったらミステリーゲームにならないわ」

「なるほどね」


それは気を付けないとね。


「今はまだ、犯人も自分が犯人かどうかも分かっていないってことですか?」

「そうよ。このゲームの最中に唐突に殺人の指示がくるからね。サイリちゃんが犯人かもしれないし、カグヤちゃんが犯人かもしれない。今、犯人を知っているのは進行役のわたしだけよ」


それは怖いな。

今からわたしが殺される役になるかもしれないし、殺す役になるかもしれない。

どきどきしてきた。

いや、わくわくかも。


「それでは、ミステリーゲーム。スタートです!」


セーラさんの合図でゲームが開始した。

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