第34話 予想外の援護と白霧の世界⑦
「あぁ、そっか、そうなんだぁ。聖獣
マシンガンのように一気にまくし立てたあと、私はもう一度ソールのほうへ顔だけ振り返り、
「……ソールって、心が狭いのね」
低い声で、ぼそりと呟いてやった。
とたんにソールの目尻がつり上がった。顔色こそ変わらないものの、明確な怒りが目元に乗っている。
彼のこめかみが小刻みに動き、今にも私へ怒鳴り返しそうだった。
「あ、あの……ツキミ様。私は立ったままでも大丈夫です。お話の続きはこのままでも……」
サラは他人の怒りに敏感なのだろう。やや焦燥感のある口調で私に提案してくれた。
それからソールの表情と私を交互に見やりながら、最終的にはランスロットへ助けを求めるように顔を向けた。
ランスロットが口を開く前に、そしてソールが怒りをぶちまける前に、私はサラへ微笑みかける。
「そうね。だけど、立ったままでは話しにくいでしょう。そこの意地悪なドラゴンさんの言うことに従うのは非常に腹立たしいけど、こんなところでよければ座りましょうか」
「は、はい」
「ランスロットも座りましょう。あなたにも質問したいことがいくつかあるわ」
「……わかった」
ランスロットは私の背後へチラリと視線を向けてから、私やサラとともにその場へ腰を下ろした。
私の目の前に、天使かと見紛うほどの美男美女カップルが並んでいる。まるで等身大の宗教画が置かれているのかと勘違いしそうだ。
そして背後に展開しているであろう、好対照な地獄絵図(あくまで私の想像)。
隠そうともしないソールの怒りの波動が、白い霧に乗って空間に漂っているのが否応なしにわかる。
この人、聖獣だと名乗るわりに感情があまりにも人間くさすぎないだろうか。
(……っていうか、感情の起伏が素直すぎるわ。小学生か、あんたは)
半ば呆れながら怒りを無視していると、唐突に私のうしろから「ぷっ」と吹き出す声とともに誰かをバンバンと叩く音が聞こえてきた。
「ちょっとぉ、ヴィータ! 痛いってば!」
「だぁって、アンヌス! ソールの顔見たぁ? もう、ちょ~ウケるんだけど!」
どうやら私の行動とソールの表情がドツボにはまったらしく、背後でヴィータがケラケラと声を上げて笑っている。
……ここにも自分に素直な聖獣がいた。
聖獣は皆、似たり寄ったりということだろうか。
私にはソールの表情は見えないし、ヴィータとアンヌスのやりとりも見えない。
だが、サラやランスロットの困り果てた顔を見るかぎり、おそらく意趣返しは成功していると判断して間違いないはずだ。
「それでは、あなたたちに質問させていただくわね。少々厳しいことを訊くけれど、そこは許してちょうだい」
「……はい」
やや緊張した面持ちでサラが小さく首を縦に振る。
(ダメね。表情が硬すぎるわ)
あまり緊張されると供述が取りにくい。そのため、私はまずは簡単な質問から入ることにした。
「あなたたちが暮らす世界は魔法が使えるの?」
「それが当然のこととして成り立っている。あなたのいた世界は違うのか?」
サラに代わって、ランスロットが答える。
私はゆっくりと首を縦に振った。
「そうよ、私は魔法のない世界から来たの。だから初めて見たのはフローラの魔法。あれはすごいわね。すぐに気分が良くなったわ」
「はい。フローラは私専属の女官長であり、特級治癒術師でもあります。体力の回復だけではなく、解毒やケガの治療、他の状態異常も上級以上の魔法が使用できるんですよ」
知っている名前が出てきたおかげか、サラの表情が少しだけ和らいだ。
サラはフローラに対して絶対の信頼を置いているようだ。彼女を語るサラの口調が、我が事のように喜びに溢れている。
王女の表情がほぐれたところで、ゆっくりと本題へ入ってゆくとしようか。
「では教えて欲しいのだけれど、その場で毒を魔法で作るとか、魔法でティーカップに毒を入れたって可能性は考えられる?」
「それは……」
私の質問に対してランスロットが先に口を開きかけたが、サラが彼の腕に手を置き、ゆっくりとかぶりを振った。
それからランスロットへやわらかな微笑を向ける。
(できるだけ自分の意思で答えたいということか。……いい心がけね)
その決断がもう少し早ければ……と考えるのは、彼らには酷というものだろう。
サラの思いに応えたランスロットが無言となると、サラは少しだけ考えてから口を開いた。
「魔法で毒を作ることは、無駄な行為かと思います」
「どうして?」
「私たちの世界には毒を持つ植物や魔物が多く存在するからです。毒を持つ生物から摂取できる毒は、そのままでも使用できますから」
「魔法からは毒物を作らないということ?」
「それは『無から作り出す』というご質問と考えてよろしいでしょうか?」
サラの質問の仕方で、私も納得した。
To be continued ……
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●○●お礼・お願い●○●
最新話まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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